(この記事は、2020年9月28日に配信しました第306号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、波乱万丈のピアニストのお話です。

9月も残すところ僅かとなり、もうすっかり秋ですね。相変わらずコロナの話題は消えることがありませんが、様々なイベントも徐々に再開し始めており、先日は本当に久しぶりに映画を見てきました。「20世紀最高のバッハの演奏家」と呼ばれているジョアン・カルロス・マルティンスの半生を描いた「マイ・バッハ 不屈のピアニスト」という作品です。

ジョアンは、リオで開催されたパラリンピックの開会式で国家を演奏し、日本でも話題になりましたので、ご存知の方もおられるかもしれません。

映画を見た感想ですが、こんなに波乱万丈の人生を送っているピアニストがいたのかと強い衝撃を受けました。

幼少期のジョアンは病弱で、学校には通っていましたが、外で友達と遊ぶこともままならない少年時代でした。そんなジョアンは、ピアノで頭角を現し始めます。

ピアノの先生に、「この子は、天才です。あと数年で、私を超えてしまう」と言わせてしまうほどで、すぐに音楽大学の教授のレッスンに通うようになります。

13歳でプロデビューし、アメリカの副大統領から声を掛けられるほどの評判を呼び、20歳でクラシック音楽の殿堂であるカーネギーホールでリサイタルを行いました。その後も、世界各国でリサイタルを行います。

ここまでは、天才のサクセスストーリーですが、徐々に暗雲が立ち込めてきます。

近所の公園でサッカーの試合をしている最中、転倒して右腕を負傷、神経を損傷して、右の指3本が動かなくなる不幸に見舞われます。

指や手が何より大事なピアニストは、万が一のことを考えて積極的にスポーツをする人は少ないように思いますし、いくらサッカーが手を使わないからと言っても、なぜ避けなかったのかと疑問にさえ感じました。

しかし、考えてみますと、サッカーが大変有名なブラジル生まれのブラジル育ちで、幼少期に友達がサッカーを楽しんでいる姿を家の中から見ているだけだったという事を考えると、参加したくなる気持ちも、わからなくもありません。しかし、それがピアニストとして最悪の事態になるとは、人生は皮肉なものです。

懸命のリハビリで、少しずつ回復はしますが、医者の指示を守らず、無理な練習をしてしまいます。

鉄製のギブスをはめて練習にあけくれるところは、作曲家のシューマンが、指がよく動くためと、拷問器具のようなものを作成して練習に明け暮れ、指を壊してピアニストを断念したことを思い出させます。

世界的なピアニストのジョアンですから、無理は禁物という事を頭ではわかっていたのでしょうが、ピアノを弾かずにはいられないという、内から湧き出る衝動的な気持ちを抑えることは難しかったのかもしれません。

リサイタルでは、鉄製のギブスをはめて、鍵盤が血まみれになっても、憑りつかれたように演奏を続けていて、ここまでくると正気の沙汰ではなく、気が狂ったのかとさえ思えますが、その後、倒れて救急車で運ばれるシーンは、あまりに衝撃的で痛々しく感じました。

その後も、様々なことが起きます。家族や子供との別れ、新しいパートナーとの出会い、そして、強盗に襲われて頭を殴られ、脳が損傷してピアノ(右手を動かす)を取るか、会話を取るかという大きな選択も迫らます。これ以上アップ・ダウンの激しい人生は、見たことがないというくらいです。

2度の大きな事故は、ピアニスト生命に大きなダメージを与えましすが、どちらも、もう少し注意深く過ごしていればと思ってしまいます。しかし、それで終わるのではなく、どん底から立ち上がり、懸命にリハビリを行い、左手のピアニストとして練習を始めたり、指揮者への道を模索したりと、難聴に苦しんだベートーヴェンが自殺を思いとどまり、その後、彼の代表作が次々と生み出されていった話にも似ていて、天才とはこういう人なのかとも思いました。

最後のシーンも、見たことのない衝撃的な姿でのピアノ演奏があり、涙を誘いました。

この映画は、ジェットコースターに乗ったような、ジョアンの波乱万丈の人生が目を引きますが、それだけではなく、様々なシーンでのピアノ演奏も、大きな魅力の一つです。幼少期のシーンで、バッハのインヴェンションやシンフォニアが流れたときは、とても素晴らしいと思いましたが、後になって、映画で使われている音楽は、全てジョアン本人の演奏だと知って大変驚きました。バッハだけでなく、いろいろな作曲家の曲がふんだんに使われていて、音楽も十分に楽しめます。

特に、映画の後半の方で、バッハ=ブゾーニのシャコンヌが、楽譜の1ページほど流れていました。私もこの曲が好きで、以前練習していたのですが、とにかく大曲ですし、テクニックも内容も難しい曲で、大苦戦した覚えがあります。そんな曲を軽々と弾きこなし、圧倒するような迫力と奥深さと味わい、バッハの神髄を感じるような感動的な演奏で、映画とはいえ忘れられない名演奏でした。

とても見ごたえのある映画なので、大人の生徒さん方には、ご紹介しようと思っています。

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(この記事は、2020年9月14日に配信しました第305号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、「ららら クラシック」という番組で放送された「戦国武将を癒した音色」のお話です。

織田信長や豊臣秀吉などの戦国武将が、どのような西洋音楽を聴いていたのかというお話でした。

はじめは、織田信長が聴いていたクラシック音楽の話です。

1549年に、ザビエルが日本に初上陸し、キリスト教を広めました。信長は、自分の領地でキリスト教の布教を許可していました。キリスト教が普及すると、宣教師が次々と来日し、音楽も持ち込まれます。

信長が活躍していた時代、ヨーロッパはルネサンス音楽の全盛期でした。

バッハなどのバロック音楽よりも前の時代になりますが、バロック音楽と同じく、いくつもの旋律が絡み合って、和音を響かせる作りの音楽でした。日本に古来からある音楽は、一つの旋律だけでできているので、和音を響かせることはありません。同じ時代でも、音楽は大きく異なります。

ルネサンス時代、音楽の中心は声楽でしたが、宮廷では管楽器や弦楽器が使用されていて、この中のいくつかの楽器が日本に持ち込まれました。その一つと考えられているのが、ビウエラという楽器です。小型で持ち運びがしやすく、宣教師たちの出身地スペインで使用されていました。

信長は芸能好きで、自身でも語りながら舞を踊っていたそうです。無類の新しい物好きとしても知られていますから、きっとルネサンス音楽も興味深く聴いたかもしれませんね。

古い文化や体制を変えて、新しい時代を切り開いていく時だったので、違う角度から新しさを見せなければならないという使命が、信長にはあったのかもしれません。宣教師たちがもたらした物や音楽は、信長の意向に合っていたようです。

信長は、「セミナリオ」という宣教師の養成所を作ることを許可します。キリスト教の子供たちが、ラテン語や音楽などを学んでいたそうで、信長自身も足を運んで、音楽を聴いて楽しんでいたそうです。

番組では、ビウエラの演奏が流れました。見た目は、少し小型のギターのようで、弦が張ってある部分に少し装飾がありました。明るめの落ち着いた音色で、とても癒されるような、心地良い音色です。

当時、ヨーロッパではリュートという弦楽器が主流でしたが、リュートは、中東などのアラブ音楽で使われるウードという楽器が先祖で、イスラムに侵略された過去があるポルトガルやスペインでは、敵の楽器となり、受け入れられなかったのだそうです。しかし、多くのヨーロッパでは、花形の楽器だったリュートは、歌や踊りの伴奏としても活躍し、宮廷や貴族の家では欠かせないものだったそうです。

番組では、リュートの演奏も流れ、当時愛された踊りの曲が披露されました。ビウエラよりも、少し線の太い、よりまろやかな音色でした。細い板を張り合わせて作られています。弦の貼ってある面の裏側が、結構コロンとした丸みがあり、空洞が大きいので、柔らかい音が出るのだそうです。

番組では、メインキャスターの俳優さんが、実際に楽器を持って音を出していましたが、リュートはものすごく軽いと感想を話していました。ビウエラの方が少し重さがあるそうです。

両方の楽器とも、音量が小さいのですが、多くの聴衆に聴かせるものではなく、小さな部屋で音楽を演奏するので、この音量で十分なのだそうです。

次に、豊臣秀吉が聴いていたクラシック音楽の話になりました。

秀吉も最初は、織田信長と同様キリスト教を受け入れていましたが、キリスト教が強くなり過ぎて、天下構想の妨げになると考え、1587年バテレン追放令を出して、宣教師を国外に追放します。しかし、キリスト教そのものを排除した訳ではなかったようです。

そんな中、キリシタン大名たちの名代として派遣されていた、天正遣欧少年使節団が帰国します。ポルトガルやスペイン、イタリアなどのキリスト教世界を周り、帰国後に豊臣秀吉に謁見しました。

しかし、バテレン追放令を出した秀吉に、キリスト教の話をするわけにはいかないので、音楽を演奏してキリスト教世界の素晴らしさをアピールしました。すると、秀吉は西洋音楽の響きが気に入り、3回もアンコールをしたという記録が残っているそうです。ただし、残念ながら、何の曲を聴いたのかなどは記録がありません。キリスト教には厳しく対応していましたが、西洋音楽の響きには癒されていたようです。

番組では、豊臣秀吉が聴いたかもしれない「皇帝のうた」が演奏されました。元々は、フランスのシャンソンで、恋人を失って悲しいという内容の音楽でしたが、神聖ローマ帝国の皇帝が好んでいた音楽として、「皇帝のうた」というタイトルで広まっていったのだそうです。聴いてみますと、確かに悲しげな音楽ですが、とても美しい音楽でした。

戦国武将と西洋音楽という視点は、とても新鮮ですが、バッハ以前のルネサンス時代の音楽も、普段演奏する機会や聴く機会がとても少ないので新鮮でした。これを機に、このような音楽もいろいろと聴いてみようかという気持ちになりました。

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(この記事は、2020年8月31日に配信しました第304号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、レッスン再開後のお話しです。

新型コロナウイルスの影響で、約3ヵ月間レッスンを休講しましたが、6月から再開し3ヵ月近くが経ちました。

休講中も、メールなどでご連絡し、一部オンラインレッスンも行ってはいましたが、レッスン再開時は、生徒さん方が以前のように通っていただけるか内心ドキドキしていました。

幸いにも、生徒さん方は、レッスン再開を心待ちにされていて、今では全員の方が以前と変わらず笑顔でいらっしゃっています。

レッスン再開に際し、コロナ対策として検温や除菌などのマニュアルが決められましたが、もちろん現在でも徹底して行っています。

生徒さんと講師の間に感染予防のビニールカーテンが設置されているので、以前のようにすぐ横に座ってレッスンを行ったり、同じ音域で見本として弾く事は難しくなっていますが、ビニールカーテン越しにアドバイスをしたり、他の音域で見本を弾いたりと、感染予防にも配慮しながらレッスンを行っています。

レッスンの入れ替え時も、その都度、除菌と空気の入れ替えをしますので、多少お待ちいただくのですが、それがむしろ安心感に繋がっているのかもしれません。

生徒さん方も、この暑さの中、マスク姿でいらして、マスクを着けたままピアノを弾きますので、本当に大変だと思いますが、嫌な顔もされずに当然とばかりに、幼稚園生や小学生などの小さいお子様も協力してくださっています。

このように、レッスン自体は、コロナ対策を実施しながら元の状態に戻りつつありますが、発表会などのイベントは、人が集まるということもあり、慎重な判断が求められています。

世の中全般的に、3月くらいからリサイタルやコンサートなどが相次ぎ中止となっており、ピアニストなどの演奏家は、大変な状況なのではと想像しています。実際、有名なピアニストが通常のリサイタルチケット料金よりもはるかに格安に有料のオンラインコンサートを行ったそうですが、あまりチケットは売れなかったという話を聞きます。

少し話が脱線しますが、このような状況も影響してか、日本の第一線で活躍されていたり、世界的にも著名なピアニストが、レッスンを指導するという話が相次いで出てきています。

通常、有名なピアニストからレッスンを受けるのは、かなり敷居が高く、音楽祭などに参加して、既にある程度実績がある方や、今後演奏家として期待されているような方、または現在の指導者がそのような有名なピアニストに紹介できるような実力者でないと難しいと思いますが、それが初心者でもOKだったり、オンラインレッスンで受講できたりと、「まさか、あんな有名ピアニストが!?」と驚愕してしまいます。

もちろん、謝礼は、一般的な音楽教室のレッスンのお月謝よりもはるかに高くなりますが、紹介が無くても一流ピアニストのレッスンが受けられるという夢のような企画は、コロナウイルスが招いた不幸中の幸いと言えるのかもしれません。

現在では、徐々にリサイタルやコンサートも始まっていますので、このような企画がずっと続くとは考えにくく、気になる方は検索してみるとよいでしょう。

話を元に戻しますと、慎重に議論されてきた発表会の開催ですが、最近になってようやく生徒さんにお話しできるようになりました。

毎年夏に開催しているお子様の発表会については、様々な議論の結果、半年ほど時期をずらして年末年始に開催することになりました。ただし、今年は希望者のみとして、一度のステージに参加できる人数に制限を設けて観客数も絞り、ステージとステージの間には、除菌や空気の入れ替えを行う時間を確保するなど、できうる限りの感染予防対策を取っての開催となります。

生徒さん方に説明して、参加の意思を伺いますと、全員の方が参加することになりました。

大人の生徒さんの発表会についても、当初はキャンセルの方向で話が進んでいましたが、急転直下、規模を縮小して行う事になりました。

現在、生徒さん方に参加の有無を確認していますが、今回初めての発表会参加を決めた生徒さんもいらっしゃいます。

このような状況下でイベントを行う事について、賛否両論あると思いますが、ずっと練習をされてきている生徒さん方にとって、またお子様を通わせているご家族にとって、発表会という場は目標でもあり、大きな励みになっていることは間違いないと思っています。

密を避けるために、集合写真や講師演奏もなくなり、客席もガラガラという印象になりそうですが、それでも参加したいという意欲的な生徒さんが多くいらっしゃるので、引き続き感染予防を徹底し、当日、生徒さん方が安心して参加され、そして参加して良かったと思っていただけるような場になるよう努力していきたいと思います。

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