(この記事は、2024年6月10日に配信しました第399号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、お子様のピアノ発表会のお話です。

毎年行われるお子様の発表会が、先日行われました。今回は、初めて参加される生徒さんが4人ほどいたので、新鮮な顔触れになりました。

年が明けてから、「今年の発表会で、どんな曲を弾きたいか、もちろん、コレ!という曲があったら曲のタイトルを教えてね」と生徒さん方に、少しずつお話をしていました。中高生くらいになりますと、「〇〇を弾きたい」「◎◎さんが弾いていた曲を弾きたい」などと具体的にお話が出てくるのですが、小学生くらいですと、なかなか難しいようです。それでも、今回は曲名を挙げてのご相談があり、積極的な曲選びの姿勢に嬉しくなりました。

この生徒さんは、発表会後にコンクールを受ける事になっていましたので、発表会の曲を優先的に練習しつつ、コンクール用の曲も少しずつ練習を進めることになりました。順調に練習が進み、発表会の曲が早めに仕上がりそうでしたので、短めの新しい曲を追加するのか、コンクール用の曲も発表会で追加で弾くか相談し、最終的にコンクールの曲を追加で弾く事にしました。3拍子の舞曲なのですが、リズムが微妙に変化していきますので、区別して弾いていく必要がありますし、頻繁に場面が変わりますので、それぞれの表情付けにも気を配らないといけない音楽になっています。

発表会本番では、軽快な舞踏のリズムに乗って弾く事ができていましたが、普段のレッスン室とは異なり、一番大きい型番のフルコンサート用ピアノということもあり、思ったよりも抑揚の幅が小さく、各場面の変化の弾き分けが伝わりにくかったと感じました。コンクールでも、当然ながら大きな会場で弾きますので、今回の発表会の経験を生かして、細かいところをより丁寧にもっと変化をつけて、聴いている審査員の先生方に伝わるように弾いていきたいものです。

この生徒さんのお姉さんも、今夏にコンクールに参加しますが、発表会では、将来的にコンクールで使いたいと思っている曲を弾きました。生徒さんにとっては、初めて弾く近現代の作品ですし、テクニックなど全般的に難易度が高く、普段はあまり譜読みに苦労していない様子でしたが、今回ばかりは、リズムが今一つはっきりとわからなかったり、和音の譜読みにも多少苦労していたようでした。

それでも、発表会まであと数週間というあたりから、メキメキと完成度が上がってきて、指示を出さなくても1週間でほとんど暗譜までしてきて、とても驚きました。発表会当日は、出番前に緊張はしていたものの、大きなミスもなくきれいに、また最後の場面ではしっかりと盛り上げて華やかに弾き終えました。これまで弾いたことのない時代の音楽でしたが、優美な音楽を美しく弾ける生徒さんには、思った通りにピッタリで、やっぱりよく似合うなあと思いました。生徒さんの持ち味をより引き出して、夏のコンクールの演奏でもアピールしていけるように、レッスンを進めていきたいと思います。

今回、初めて発表会に参加した6歳の生徒さんは、ヴァイオリンを習っているお姉さんの発表会をお客さんとして見たことはあるそうです。しかし、いよいよご自分が演奏者として参加することになります。普段のレッスンでも、アナウンスの後から、演奏が終わって舞台袖に戻ってくるまでの一連の流れを何回も練習したり、ピアノの蓋を全開にして、発表会と同じような状態にしたり、「発表会まで、レッスンはあと〇回だからね」と発表会が近づいている事をお話していましたが、度胸があるのか、あまりピンと来ていないのか、全くと言っていいほど緊張していない素振りを見せていました。

発表会当日、出番前に舞台袖に来た時にも普段と変わらない様子で、「この服、小学校の入学式で着たの。ネックレスはお友達からもらったんだ~」と話し始めました。いつも、自信に満ちているようなタイプではないと思っていたのですが、どうも私のこれまでの見立ては間違っていたのかもと思っていますと、「靴はね、さっき買ってきた!」と意表を突く話しに、思わず「えっ」と声が大きくなってしまいました。慌てて小声で、「そうなのね。とてもピカピカ光っていて素敵よ」とお返事をしました。もう少しで出番と言う時には、「せっかくピアノにも慣れてきたんだけど、ピアノ辞めちゃうんだよ
ね~。プールを習うことになったんだ」と爆弾発言まで飛び出しました。これまで、多くの発表会を経験してきましたが、本番直前にピアノを辞める発言をした生徒さんはいませんでしたので、心臓が止まるかと思う程ビックリ仰天しました。やっとの思いで、「そうなの…」とお返事をするのがせいぜいでした。

そして、生徒さんの番になりました。1曲目の暗譜が意外にも苦戦していて、似たようなフレーズが3連続で出てくるために、きちんと出来る時もあるのですが、時々混ざってしまって間違えてしまう事がありました。レッスンの時には、「1回目は、ソだよ」とお話をしたり、「1回目のフレーズの最後の音って、何だっけ?」と質問をして、なんとなく弾けるという事ではなく、明確に他と区別して確信を持って弾けるように練習をしました。本番で成功するのか、ドキドキしながら見守るというより、祈るような気持ちで舞台袖から見ていましたが、一番心配していたところは、とてもスムーズに弾けていてホッとしました。後半で少し間違えましたが、すぐに修正したので、ミスがあまり目立たずに弾く事ができていましたし、2曲目は大好きな曲なので、普段と同じように弾けていました。いろいろな意味で、ハラハラドキドキしましたが、終わってみれば初舞台が成功したので、拍手を送りたいと思いました。

もう一人の初参加の生徒さんは、お兄さんがピアノを習っていましたので、練習している姿を見ているからなのか、要領を掴むことが早く、あっという間に自分のものにできる生徒さんです。レッスンでは、少し間違えるだけで、笑いながら「あああ~」と言っては最初から弾き直していて、いつも楽しそうにピアノを弾いています。

発表会では、大好きな曲と、普段弾いている音域とは少し異なるところで弾く曲を組み合わせて弾く事にしました。曲の難易度としては、大好きな曲とあまり変わらないのですが、最初の手の準備がいつも微妙にずれるという問題がありました。両手ともずれることもあれば、片方の手は合っていたのに、もう片方がずれるという事も多々ありました。最初のポジションさえわかれば、すらすらと弾けてしまうので、いかに弾き始めのポジションを自力で正確に用意できるかが、演奏全体の大きなカギとなっていました。考えてみますと、ピアノという楽器は白い鍵盤と黒い鍵盤がずら~っと並んでいて、その88個の鍵盤の中から音を出さずに最初に弾く鍵盤を見つけ出さなければならないのですから、小さい生徒さんにとっては、なかなか大変な事なのかもしれません。

それでも、発表会ではたった1回しか弾くチャンスがないわけですから、完璧にできるように、最初のポジションの探し方を細かく順番を付けて楽譜に書き、レッスンで何回も一緒に練習をしました。送り迎えにいらしているお母様も、弾き始めの場所がよく間違える点を気にされていましたので、その旨をお知らせして、自宅でも確認をしていただくようにお話もしました。すると、1、2回のレッスンでやり方を掴んで、完璧にできるようになりましたし、生徒さん自身も「(最初のポジションの探し方は)大丈夫」とお話されていて、すっかり自分のものにしたようです。「ああ見えて、実は結構緊張するタイプなんです」と、以前生徒さんのお母様が心配そうにお話をされていましたが、本番では大好きな曲を抜群の安定感で弾きこなし、ネックになっていた2曲目の弾き始めのポジションも、流れるようなスムーズな動きで正確に準備ができて、大成功で終えることができました。きっと、ご自宅でもレッスン後の様に、「発表会、楽しかった~」とお話をされているのではと思います。

発表会の最後には講師演奏があり、もう一人の講師と連弾を行いました。クラシックの優雅な雰囲気の曲を弾く事が多いのですが、今回は、もう一人の講師のアイディアで、アニメの曲をジャズ風にアレンジした曲を演奏しました。楽譜には、「超絶技巧アレンジ」と書いてあり、最初に音源を聴いた時には、かっこいいと思いましたが、かなりテンポも速いですから、細かく指を動かすこともさることながら、最後のページは次々と変拍子になっていくので、タイミングを合わせることも大変そうです。文字通り超絶技巧と言う感じで、これはけっこう大変な曲を選んでしまったかもと、うっすらと後悔したほどです。

幸い、早めに楽譜が入手できましたし、2人で合わせる練習の日程も調整がしやすくて助かりました。とにかく正確なテンポで練習をして、お互いのタイミングがずれないようにメトロノームを使って、合わせの練習を重ねてきました。この方とは、以前から何回も連弾をしてきているので、ギクシャクせずなんとなくしっくりくるところは安心なのですが、やはり変拍子のところでは、合わせの練習を始めた時には、ずれることがあり何回も確認をしてきました。

連弾の場合、なんといってもタイミングをピッタリと合わせることが大事な要素です。タイミングがぴったり合うときれいで、音を出している時はテンポさえ気を付ければずれる事はないと思いますが、フレーズや場面の変わるところで少し間を取る場合、この「少し」が、それぞれ異なりますから、その感覚をバッチリ掴めるまで練習をすることになります。変拍子だと、メトロノームをかけて合わせるということもできないので、なおさら大変になるわけですが、練習を重ねていきますと、ぴったりと呼吸が合うようになりました。発表会本番では、ジャズ風のリズムに乗りすぎて、ややアップテンポになってしまいましたが、一応やれることは出来たかなあという出来栄えにはなりました。練習通りの演奏を本番で披露することの難しさを、改めて感じましたが、また次回に繋げていきたいと思います。

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(この記事は、2024年5月13日に配信しました第397号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、お子様の生徒さんの発表会に向けた準備の様子です。

ゴールデンウィークが終わり、いつもの日常が戻ってきました。お子様の生徒さん方にとっては、毎年恒例の発表会まで残り1ヵ月となります。

お子様の発表会は、例年6月又は7月に開催していますが、年明けくらいから、発表会にどんな曲を弾いてみたいか、ご希望を聞くところから準備が始まります。生徒さんからの「なんとなく、こんな感じの曲」というリクエストと、これまで発表会で弾いてきた曲、普段のレッスンで弾いてきた曲なども踏まえて、2月くらいに4、5曲ほど候補をご紹介し、音源を聴いていただいて曲を決めます。そして、3月から練習を開始して、6、7月に発表会の本番を迎えるという流れです。

そのため、2月になると生徒さん方やご家族は、「いよいよ、発表会に向けて動き始めた」という感じがするのではないでしょうか。3月には、レッスンでも発表会の曲を扱っていきますが、練習途中の曲もありますので、普段のレッスンの曲に加えて、発表会の曲の譜読みを同時に行う方が大半になります。練習途中の曲が仕上がった後は、生徒さんの様子や、発表会の曲の譜読みの進捗状況を見ながら、普段の教材をそのまま使って次の曲の練習を始めるのか、教材は一旦お休みにして、発表会の曲の譜読みを最優先に進めるのかを判断します。

4月に入り、学校の新学期が始まりますと、学校のスケジュールも変わってきますしクラスも変わりますから、生徒さん方は少しバタバタと慌ただしく過ごしているように見えたり、多少お疲れを感じている様子が見えたりします。あまり無理がないように、でも譜読みが着実に進むように、宿題の量を調整したり、1回のレッスンで難しい所やポイントとなる箇所が弾けるように、一緒に練習をしています。レッスン中に自力で弾けるようになれば、あとは慣れるだけなので、レッスンでは今弾けないところを、いかに弾けるようにさせるかが重要になります。

生徒さんのお母様からも、「難しいところは、なかなか譜読みが進まなくて…」とお話を頂くこともありますが、それは当然のことだと思っています。そのため、同じ個所をしつこいくらいに何回も反復練習をするわけですから、なかなか生徒さんも大変かと思いますし、ちょっと酷な事をさせているような気もするのですが、レッスン後にお迎えにいらしたお母様に「弾けるようになった~」「(リズムが)分かった~」とニコニコと嬉しそうに報告をして、お母様も笑顔で「よかったね」と返事をされている姿を見ますと、良かったなあと少しホッとしています。

5月は、1年の中で一番レッスンのペースが速く、内容も濃いかもしれません。曲の構成や内容も踏まえて、どのように弾いたら良いのかを考えて表情を付けて曲を弾いていく事になります。強弱記号ごとに、色分けをしてチェックを入れて練習をしたりと、生徒さん自身で工夫して練習をしている様子も見れるので、なるほどと感心することもあります。

発表会に初めて参加する生徒さんは、選曲の段階から少し変えています。発表会本番で、「発表会で上手にできた!」と思っていただくことが最優先になりますので、基本的に2曲弾いてもらうようにしています。1曲は、これまで弾いた曲の中で一番好きな曲です。これまで弾いた曲なので、急に「今弾いてみて」と話しても、結構弾けることが多いように思います。また、好きな曲ともなりますと、楽しそうに、しかも自信満々で弾きますので、初めての発表会で緊張しても、成功できるかと思います。もう1曲は、新しい曲になりますが、あくまでも普段のレッスンで扱っている曲と同レベルの難易度で、曲の長さもほぼ同じもので、何曲か生徒さんの前で私が弾いて、生徒さんに曲を選んでもらっています。そのため、新しい曲と言っても、あまり構えずに練習できますし、そこまで時間もかからずに弾けるようになります。

曲の順番は、生徒さん自身に決めてもらっていますが、これがまた個性が出て面白いものです。好きな食べ物を最初に食べる派なのか、最後にとっておく派なのかに分かれるのに似ています。「難しい曲(新しい曲)は、最初に弾いちゃいたい」と言っていた生徒さんもいれば、「まずは、一番好きな曲から弾く」と言っている生徒さんもいました。本来は、曲の雰囲気や調性などを考慮して曲の順番を決めるのですが、小さい生徒さんでも、自分で弾く曲を選曲し、演奏順を決めたりして、自ら発表会に参加しているという感覚を持っていただく事も大事にしています。

そして、5月からは、演奏だけでなく、ステージマナーについてもレッスンで扱っています。舞台に上がって、お辞儀をして、2曲弾いて、お辞儀をして舞台袖に戻ってくるという一連の流れを、自分の力だけで全てできるようにしていきます。特別難しいわけではないのですが、本番では結構いろいろとアクシデントが起こるので、何回も練習をしています。

兄弟や姉妹の発表会本番を見ている場合は、舞台で弾くイメージが多少なりとも持っているのが強みになるのですが、意外な盲点もあります。客席から舞台を見ているので、自分が舞台に上がった時の、ステージ上のピアノの位置関係が掴めていないことがあるのです。「今、発表会本番の舞台に上がっていると思ってね、こんな風にピアノが置いてあるでしょ。では、クイズです。お客さんはどこにいるでしょうか?どういう向きで椅子に座っているのかな?」と質問をしますと、完全に逆向きだったという事が何回もあります。

普段のレッスン室に置いてあるいくつかのパイプ椅子の向きや、レッスン室の壁に気を取られたり、惑わされているかもしれませんが、実際にパイプ椅子を動かして、「発表会では、お客さんは、こんな向きで椅子に座っているのよ」と説明をしますと、「へえ~」と驚いているので、私もそのリアクションを見て驚いたりします。そして、お辞儀の仕方や、椅子に座る時の注意点、1曲目の弾き始めるタイミングについてや、弾き終わったときの手の位置、演奏が全て終わって、椅子から降りるときの注意点などなど。お辞儀が浅くても深くても、あまりきれいに見えないですし、小さい生徒さんの場合、椅子に座る時にうっかり鍵盤を触って、じゃ~~んとピアノが鳴ってしまったり、椅子に座るところまで順調だったのに、生徒さんの後ろに立っている私を振り返って、「弾いてもいい?」とうっかりしゃべってしまったり…。つい先日も、2曲とも余裕で弾いていたのですが、弾き終わった後に勢いよく手を膝に戻したために、バンッ!と膝を打った音が鳴ってしまった生徒さんがいました。

生徒さんのお母様も苦笑なさっていました。生徒さんには「バンッ!と膝を打った音が鳴っちゃうとお客さんもビックリするし、本番は録音もしているから、バンッ!という音も入っちゃうから、静かに手をお膝に置いてね」とお話をしたところ、生徒さんもゲラゲラ笑いながら頷いていました。

何しろ、初めてピアノの発表会に参加するので、小さい生徒さんにとっては分からない事だらけだと思いますから、事細かに説明をして練習をしています。演奏もステージマナーも、両方共バッチリできるようになって始めて、「発表会で上手にできた!」という事になると思いますので、残り少ないレッスンで確実に身に付くように、一緒に練習をしていきたいと思います。

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(この記事は、2024年4月15日に配信しました第395号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、小学1年生の生徒さんのお話です。

今月入学式を終えて、新1年生になった生徒さんが2人いらっしゃいます。1人は昨年の春に入会された生徒さんで、もうすぐ1年が経とうとしています。先に小学生のお姉さんがヴァイオリンを習っていて、下の子には違う楽器を習わせたいとのご家族の意向でピアノを始めることになりました。大人しい感じの生徒さんですが、前に説明したことをよく覚えていて、「この曲の〇〇って、前にやった曲に出てきた~」と言ってそのページを探し、「ほら、ここに書いてあるよ」と、すぐに教えてくれたこともありました。音読みも、あてずっぽうではなく一音ずつ順番に数えて読んでいるので、丁寧に音読みができているなあと感心しています。

先月、まだ幼稚園生の時ですが、これまでで一番長い曲を練習していた時、どうしても途中で他の箇所の音と混ざってしまって、すっきりと最後まで弾けない時がありました。間違えてしまう箇所の音に丸を付けたり、指番号に違う色で丸を書いたり、部分練習をしたりと、いろいろと対策を取って弾くわけですが、どうにも途中で間違えてしまうのです。負けず嫌いな面もあるようで、一人で何回も最初から弾き始めるのですが、それでもなかなかうまく弾けず、ポタッ、ポタッと涙を流しながら、「難しい。ばぁー、ばぁー」と言い始めました。

指示がなくても一人で繰り返して弾き始めていたので、そのまま弾かせていたわけですが、「今日はここまでにして、また今度弾いてみましょうね」とストップさせておけばよかったかなと思いつつ、「この曲、難しいね。また今度…」と話し始めたところで、またレッスン室のドアを指して、「ばぁー、ばぁー」と言うのです。ドアの向こう側に、送り迎えのおばあ様が待っていらっしゃるので、おばあ様のところに行きたいという事なのかなあと思い、ドアを開けておばあ様に事情をお話しました。

「今、これまでで一番難しい曲を弾いていまして、なかなか思ったようにうまく弾けなくて、悔しいようでして…」とお話しますと、おばあ様は、「あらまあ、ご迷惑をおかけしてすみません」と頭を下げられました。「私も、もう少し様子を見ながら、対応していきますので、お時間までもうしばらくお待ちください」とお返事をしました。

その間、生徒さん本人はというと、おばあ様に用事があるわけではなく、おばあ様が預かっていた自分のリュックサックをレッスン室に持っていき、中から水筒を取り出して少し飲み、幼稚園の連絡帳を取り出して、「幼稚園の先生がね、書いてくれた」と、かわいいイラストを見せてくれました。「〇〇先生と言うのね。先生の絵は上手ね」「他にもあるよ」と言いながら、何個かイラストを見せてくれました。そして連絡帳を自分でリュックサックにしまい、おばあ様にリュックサックを預け、レッスン室に戻り、なんとまた先程の難しい曲を弾き始めました。何回か弾いたところで、これまで大苦戦していたことが嘘のようにスラスラと弾けたのです。「あーっ。出来た!合格!凄いねえ。よく頑張ったね」と拍手しながら声を掛けますと、少しほっとしたような表情と笑みを浮かべていました。

そして、ちょうどレッスンの時間も終わりましたので、レッスン室のドアを開けて、待っていたおばあ様にお話をしました。「あれから幼稚園の連絡帳に書かれているイラストを見せてもらって、その後すぐに自分からピアノに向かって曲を弾いていて、めでたく合格をとなりました。本当によく頑張りました!」と話しますと、「まあ~、ありがとうございます」とおばあ様も笑顔で喜んでいました。

当時、まだ幼稚園生だったわけですが、行き詰って悲しい感情が溢れても、なんとか自分の気持ちを立て直そうと、自分のお気に入りの物を眺めて気持ちを落ち着かせ、そして、また先程の難題に再チャレンジして克服するという、なかなか大人でも実行することが難しい事を、自分の力だけで行っていることに、本当に驚いて凄いなあと思いました。今後も、この素晴らしい力を伸ばせるように、タイミングや声掛けなどを工夫していきたいと思いました。

もう一人の新1年生の生徒さんは、ピアノを始めて半年くらいの生徒さんです。お兄さんが先にピアノを始めていたのですが、スポーツに力を入れていて、その時間帯と重なってしまうという事で退会される際に、「妹がピアノをやりたいと言うので、来月から妹を通わせたいのですが」とお話をいただき、レッスンを始めました。お兄さんのレッスン中に、お母様が妹さんを保育園から引き取り、お兄さんのレッスン終了と共に3人で帰宅されるという流れでしたので、妹さんはよく見かけていました。小柄な体格で愛嬌があり、初めてのピアノレッスンでもあまり緊張しないようで、度胸もあるようです。毎回、「ピアノのレッスン、楽しかった~」とお母様と話しながら帰る姿を見ていて、よかったなあと思っています。

この生徒さんは、先程の生徒さんのような、黙々と弾くタイプではなく、間違える度に「あ~っ、間違えた~」と言っては一瞬がっかりした表情をして、でもすぐにカラッとした表情で「最初からまた弾くね」と言って、弾き始めるタイプです。音読みも、「この音なんだろう?」と聞きますと、「ド?あっ、レ?あれ~?なんだっけ?ミかな?」と苦笑いしながら答えています。慎重に読むというよりも勘で読んでいる節があり、「なんだか、いろんな音を言っているけれど、結局何の音かしら?数えてみましょうよ」と、その都度音の読み方を話しています。勘で音を読むのは、今の段階ではお勧めしない方法なので、面倒でも正しい数え方で読むのが先決です。促すと正しく音が読めるので、この調子で進めていければ自力で音を読めるようになるかなと思っているところです。このように音読みは、若干気を付けないといけないのですが、音が読めてしまうと、曲のコツが掴めるので、あっという間に両手ですらすらと弾きこなしてしまいます。

何か、感覚的に掴むことに長けているなあと思っていたのですが、先日のレッスンの際に、「今度の週末に、ボウリングに行くんだーっ」といつものように元気よく話していました。「ボウリングに行くの?ボウリングの球ってすごく重いじゃない?あの重いボールを使うのね、凄いわねえ~。」「うん、もう何回か行っているよ」とやり取りをして、レッスン後に迎えに来られたお母様に、レッスンの様子についてご報告してから、「今度、ボーリングに行くのが楽しみと話していました。先日もアスレチックジムに行かれていましたし、アクティブですね」とお話しますと、お母様が「この子、小柄ですけれど、運動神経は抜群なんです」とお話されていました。「あ~、そうなんですね。運動神経抜群だからだと思いますが、ピアノも曲のコツが掴めると、すぐに弾けるようになるんです。あ~、なるほど。腑に落ちました」と私も答えました。そして、生徒さんに「ボーリング、楽しく行ってきてね」と声を掛けて見送りました。

全くタイプの異なる新1年生の生徒さん方ですが、今年は揃って発表会にも初参加します。初めての発表会でも、普段のレッスンの成果が発揮できて、楽しかったと思ってもらえたり、さらに自信が持てるように、今後もそれぞれの特徴を踏まえたレッスンをしていきたいと思います。

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