音大の文化祭


2024年6月10日


(この記事は、2024年5月27日に配信しました第398号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、音大の文化祭についてのお話です。

先日、偶然にも桐朋学園大学 音楽学部の桐朋祭という文化祭の動画を目にしたので見てみました。桐朋学園大学と言えば、音楽界では東京芸術大学と共に日本最難関の音大です。卒業生で有名な演奏家は、全員をご紹介できないほど沢山いらっしゃいますが、指揮者の故・小澤征爾さんや秋山和慶さん、大友直人さん、飯森範親さん、ピアニストでは関本昌平さんや仲道郁代さん、西村由紀江さん、亀井聖矢さん、ヴァイオリニストでは古澤巌さんや諏訪内晶子さん、堀米ゆず子さん、高嶋ちさ子さん、宮本笑里さん、末延麻裕子さんなどが挙げられます。一流の演奏家ばかりで、いかに多くの演奏家を輩出している音大なのかがよくわかりますね。

そのような音大の文化祭での演奏が、YouTubeにアップされていました。ちょうどコロナが流行ったタイミングと同時期ですが、こうして会場に足を運ばなくても、またパソコンや携帯で年月が経っても見ることができるとは、ありがたいですし本当に便利になったなあと感じます。

動画は、コンサートの演奏者である飯塚さんと演奏曲目の紹介から始まっていました。舞台上には、オーケストラと指揮者、そして端にはピアノも置いてありました。通常では、演奏者が舞台に登場して演奏が始まるのですが、いきなり「春の海」(お正月によく流れている曲)をピアノで弾いた音楽が流れました。もちろん、この曲を演奏するわけではありません。唐突すぎて驚いたのですが、これはまだ序の口でした。

「みなさま、本日はお忙しい中、お越しいただきまして、誠にありがとうございます」と、これから演奏する飯塚さん本人の挨拶が始まったのです。これがまた、男性の声ながら、だいぶ甲高い声で、尚且つ昔ながらの古風な言い回しなので、思わずクスっとしてしまいました。一通りの挨拶の後に、自分の名前を江戸時代の人物の様に名乗ったところで、オーケストラのメンバーや指揮者が下を向いてクスクスと笑っている様子が画面に映っていました。その後、舞台上には日本髪にやたらと豪華な髪飾りを付けたカツラを被り、真っ赤な着物をまとい、たすき掛けをして、金色の扇子で顔を隠した一人の人物が静々と登場しました。それを見たオーケストラメンバーは、笑いをこらえるのに必死な人や、笑顔のまま、ジーっとこの後の動向を見守っている人もいて、演奏が始まる前からなんだか文化祭の少し気楽に楽しめそうな様子が伝わってきました。

舞台の中央に到着し扇子を外すと、やたらと真っ白に塗られた顔、頬と口を赤く塗り、眉毛は太く黒々と塗り、やたらとニコーっとした笑顔が見えました。オーケストラのメンバーも、両手で口元を抑え、今にも叫び声を上げそうな人もいて、本当に驚いた様子でした。お辞儀の後、歌舞伎の時に出てくるような黒子がヴァイオリンを差し出し、ソロで演奏が始まりましたが、冒頭のアナウンスにあったモンティ作曲のチャルダッシュではなく、だいぶかけ離れた日本の昔ながらのメロディーを大真面目な顔で演奏し始めました。オーケストラのメンバーも、あまりに意外なメロディーが聴こえてきて、よほど驚いたのか吹き出して笑ってしまい、慌てて両手で顔を隠している人もいました。そこから演奏を途切れさせずに、上手にチャルダッシュの音楽に移行させていて、見事な音楽の流れでした。「ごゆるりと、お楽しみください」とご本人のアナウンスがありましたが、とてもとてもごゆるりとは楽しめず、チャルダッシュの演奏前から、笑いが止まらない楽しいひと時になりました。

さて、チャルダッシュの演奏は、オーケストラの前奏の後にヴァイオリンのソロが始まりました。通常はオーケストラの前奏の後にファゴットなどのソロが入り、ヴァイオリンソロという流れだと思いますので、ちょっと珍しいパターンだと思いました。先程までの、くだけたエンターテイメント要素の高い演出とは異なり、華麗な弓さばきと素晴らしい演奏が披露されていて、あまりに上手で大変驚きました。ギャップが凄すぎて、気持ちが付いていけないほどの衝撃を受けました。

「最初の1フレーズで、演奏者がどのくらい上手に弾ける人なのか、わかってしまうものよ」と、以前ピアノの恩師に言われたことがありますが、「こういう事か!」と思うような出だしの演奏でした。オーケストラのメンバーの中にも、想像以上に上手だったのか、聴き入っているような表情の人もいました。ヴァイオリンの専門ではないので詳しいことはわかりませんが、かなりの難曲である事は確かです。しかし、弾きこなしていて、寝起きだろうが疲れていようが、どういう状況でも普通に弾けてしまうほどの余裕すら感じました。大変細かい音のパッセージの連続では、段々と速く弾いていくのですが、情熱的に弾いているせいなのか、またはエンターテイメントとしての演出なのか分かりませんが、頭を振りながらヴァイオリンを弾くので、やたに豪華な髪飾りがぶんぶんと揺れるわ、かつらが今にも吹き飛びそうな勢いで前後に揺れるわで、まさに髪を振り乱して演奏をしていました。その光景を目にしたオーケストラのメンバーが、何人も噴き出したり、譜面台に顔を隠して笑っていたりしていました。

チャルダッシュの出だしのフレーズを美しく演奏した後、急に客席を見て、舞台で扇子を下げて顔を見せたときのような、やたらに二コーっとした表情をしました。きっと、また何かするんだろうなあと思っていたら、また黒子が登場し、なにやら舞台上に長い帯状の物を広げて去っていきました。何だろうと思ったら、足つぼを刺激する突起の付いたマットのようなものでした。その上を、飯塚さんは演奏しながら歩き始めたのです。ちょうど両足が乗ったところで痛そうな表情と、体をよじって痛さをこらえているかのような様子で、しかも演奏も痛くて涙が出ているかのような音程で演奏をしていて、これがまた面白くて笑ってしまいました。オーケストラのメンバーも、笑いをこらえながら必死に演奏をしていて、なかなか大変そうでした。

そしてまた、出だしのフレーズが終わり、また黒子が登場したので、今度は何だろうと、段々とワクワクと期待をしながら見ていますと、今度はやたらに小さいヴァイオリンを差し出していました。飯塚さんが、顔の横で小さいヴァイオリンを見せていましたが、顔と同じくらいのサイズのヴァイオリンで、おそらく16分の1という一番小さいサイズのヴァイオリンのように見えました。2、3歳のお子様が使用するサイズで、ヴァイオリンの全長は通常は59.4cmなのですが、この16分の1サイズのヴァイオリンは36.1cmくらいだそうです。普段よく見かけるヴァイオリンの半分以下のサイズです。その小さいヴァイオリンを弾くために構えた時、とても小さいことを伝えるために、顔の表情で伝えることも忘れず、演奏を始めました。楽器が変わったので音色は当然ながら変わりますが、音程感が抜群で、とても小さい楽器で演奏しているという大変さを感じさせない演奏でした。

同じ楽器でもサイズが小さくなると演奏が大変という事は、あまりピンと来ないかもしれませんが、例えばピアノですと、赤ちゃんが使うおもちゃのピアノをイメージすると良いかもしれません。通常のピアノと同じように鍵盤はついてはいますが、おもちゃのピアノは鍵盤も小さく鍵盤の深さも異なるため、普段練習している曲を普段と同じように演奏することはおそらく難しいと思います。ヴァイオリンの場合は、弦のこの部分を抑えるとこの音という境界がわかりずらいため、さらに難易度が上がるのではと思います。それを舞台上で、大変そうなそぶりもなく、美しい音色で難曲を歩きながら感情豊かに弾くのですから、やはり凄い演奏者なのではと思いました。

舞台の端まで歩いて一段落しますと、黒子がフラフープを持って待機していました。フラフープを持って、ニコニコしながら舞台中央まで移動し、普段のヴァイオリンを持ち、今度はフラフープを回しながら、演奏を始めます。すると、すぐにフラフープが落ちてしまい、演奏も止まってしまいます。指揮者は、「なにやってんだよ~」と言わんばかりのジェスチャーで指をさして怒っているように見えます。すると、飯塚さんが、ごめんなさいというような、かわいらしいしぐさでお辞儀をして、再チャレンジをします。きちんとフラフープが安定して回った瞬間に指揮者が合図をして、チャルダッシュの一番盛り上がる難解なフレーズが始まりました。とにかく速くて細かいパッセージの部分なので、演奏するだけでも大変な所を、着物姿でカツラをかぶり、フラフープを回し続けながら素晴らしい演奏をするのですから、もはや神業としか言えない気がします。

盛り上がって演奏が終わったかに見えたところ、今度は指揮者がなにやら取り出しました。なんと、鍵盤ハーモニカです。拭き口を演奏者に渡して、飯塚さんがヴァイオリンを弾きながら、鍵盤ハーモニカに息を吹き込み、指揮者が鍵盤を押さえて伴奏をする(オーケストラは休み)というスタイルで演奏が続いたのです。意表を突く演出に驚きますが、まだまだ続き、今度はなんとギターの登場です。飯塚さんがギターを持って、ジェスチャーでギターを指で弾いて演奏しますが、違う違うというジャスチャーをして、なんと、ヴァイオリンを弾くようにギターを顎で挟んで構え、ヴァイオリンの弓を持ち始めました。ヴァイオリンよりも、楽器の厚みがあるので、楽器を構えることも少し大変そうです。さすがにヴァイオリンの様に弓で弦をこすっては演奏しませんでしたが、左手で弦を弾いて、きちんとメロディーを奏でていて、指揮者も何回も笑いをこらえているようでした。

演奏が終わり、指揮者もオーケストラのメンバーも、拍手をしていて、飯塚さんもまた可愛らしいお辞儀をして、これで全部の演奏が終わったのかと思ったら、またまた黒子の登場です。ギターを黒子に渡して、逆にペットボトルの水を渡されます。飯塚さんが、「あ~っ、疲れた」という様子で腰を叩きながら椅子に座り、暑い暑いという様子で、顔の近くで手で仰ぎ、ペットボトルの水を飲もうとすると、椅子に座ったまま、どんどん体が後ろに傾き(背もたれのない椅子なので)、しまいには頭が床についてしまいました。椅子に、腰を付けてブリッジをしているような体勢のまま、なんとヴァイオリンを構え、演奏を始めたのです。こんな体勢でヴァイオリンを演奏している人は、生まれて初めて見たので、びっくり仰天でしたが、これもまた演奏が上手なのです。とても、この不自然極まりない体勢と格好で演奏しているとは到底思えないものでした。

演奏が終わると、後ろ周りをして椅子から降り、立ってヴァイオリンを構え、オーケストラと指揮者と一緒に足踏みをしながら、ゆっくりなテンポで演奏を始め、次第に元の速いテンポに戻して、チャルダッシュの速くて難しいパッセージに入り、その後は、後ろ向きで腰を振り振りしながら演奏もして、最後には黒子が紙吹雪を巻いて盛り上げ、全部の演奏が終わりました。そして、着物の裾を持ち上げながら、相変わらずの可愛らしいお辞儀を何回もして、小走りで舞台から去っていきました。

素晴らしい演奏に、エンターテイメントとしてのアイディアと様々な工夫を組み合わせた、本当にインパクトのある魅了されたステージでした。これを、音大の文化祭で行うのですから、もはや驚異的です。演奏された飯塚さんは、桐朋学園大学に特待生として入学された逸材で、首席で卒業され、現在はNHK交響楽団のヴァイオリン奏者として活躍されています。YouTubeの動画再生が、140万回を超えていて、3年前の動画とはいえ、その人気ぶりがうかがえます。更なるご活躍を期待しつつ、願わくば生で見てみたいものです。

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(この記事は、2024年4月29日に配信しました第396号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、「歴代作曲家ギャラ比べ」という本のお話です。

数年前から大変気になっていた本ですが、ようやく手に取って読んでみました。

そもそも、クラシックの音楽家の話というと作曲家の作品紹介や生涯と功績、人物像などをつづったものがほとんどだと思います。しかし、今でも「芸術で飯は食っていけない」と言われるように、音楽や美術などの芸術は職業も限られますし、その収入で生活をしていくとなると、かなり難しい世界というイメージがあると思います。例えば、ピアノが好きで、日本国内の音大ピアノ科に入って勉強し卒業したところで、ピアニストとして収入を得て生活をするという事は不可能に近く、海外の有名な音楽院などで勉強をして、有名な国際ピアノコンクールで優勝もしくは3位くらいまでの入賞をして、実力と知名度を高めて初めて徐々にピアニストとして生活ができるくらいだと思います。そこには、本人の努力だけではなく、元々持っているセンスというのか、才能というのか、幼少期からの突出した何か光るものを持っていないと、おそらくピアニストとしてやっていく事は難しいので、物凄く努力したらピアニストとしてやっていけるというものでもないのかもしれません。

今回読んだ「歴代作曲家ギャラ比べ」は、バッハからストラヴィンスキーまで41人の作曲家が、具体的にいくら稼いでいたのか、またどうやって稼いでいたのかを、具体的に示している本です。作曲家なので、曲を書いていたことは想像に難くないと思いますが、いろいろな手段を使ってお金を稼いで生活をしていたようです。いくら稼いでいたのか?という視点は、これまでの作曲家にまつわる本に、多少なりとも書かれてはいるのですが、当時の通貨で記載されていることがほとんどなので、少額なのか大金なのかもよくわかりません。しかし、この本では、現代の日本円(2019年基準)に置き換えて算出した金額が書かれているので、わかりやすいという点で大変興味が湧きました。それぞれの作曲家の時代で、活躍をしていた国も通貨も当然異なりますが、いくつかの時代に分けて、いろいろな通貨同士の価値も考慮しながら、それぞれ適切な換算率を設定し現代の日本円に算出しているそうです。

例えば、バロック期の作曲家というと、バッハとヘンデルが挙げられますが、ともにドイツ出身でありながら生涯ドイツで活躍をしていたバッハと、ロンドンに移住して後に帰化したヘンデルを比べますと、活躍の場が異なるだけでなく収入面でもかなり異なっていました。

バッハは、教会や宮廷に雇われて、数年くらいの間隔で転職を繰り返しながらいわば公務員のような生活をしていました。18歳で小さな町の教会オルガニストに就任して年俸55万円を稼ぎ、ワイマールで宮廷のオルガニストになって初任給の年俸75万円、ワイマールの楽師長になって年俸125万円、ケーテン宮廷楽長になって年俸300万円、ライプツィヒ聖トーマス教会のカントールになって年収525万円と右肩上がりに収入が増えていきました。バッハの給料は高額ではなく、子だくさんでしたので、むしろなかなか大変な生活だったと思いますが、副収入を得て生活を成り立たせていたようです。葬儀一回の演奏で156円~7500円くらい、42歳の時の宮廷での新年お祝いコンサートで18万円、47歳の時のオルガン試奏で120万円、62歳の時のチェンバロレンタル費で毎月1万円などだそうです。なかなかリアルな生活ぶりが垣間見える気がしますね。

一方で、同い年でもあるヘンデルは、20代でオペラの本場であるイタリアを巡り、様々な影響を受けて一時ドイツに帰国するも、ロンドンに移住して帰化しました。今でいう国際派といったところでしょうか。25歳でハノーファー(ドイツ)の宮廷楽長に就任して年俸750万円で、バッハのどの年齢の稼ぎよりも高い年俸を貰っていたことになります。その後ロンドンに移住して、活動を始めた27歳頃では報酬595万円ほど、35歳~45歳頃は報酬2560万円、45歳頃は報酬3200万円、晩年は報酬6400万円くらいだったそうです。ヘンデルがこんなに高額の報酬を得ていたとはびっくりしますね。しかも、他に株式や年金などに投資をしていたそうで、そちらでも成功し配当も得ていたそうです。

ヘンデルはオペラとオラトリオというジャンルの音楽を作曲していて、上演するには莫大な費用が掛かるものなので、ヒットすると大儲けですが、はずれると大変な赤字になる大博打でした。しかし、優れた作品を次々に生み出し、富と名声を得ていたそうです。当時のオペラは新作が基本で、人気が出ないとすぐに打ち切りになるのですが、たとえ不評でも人気のメロディーなどがあれば、その曲だけ演奏会で演奏されたり出版されたりして、収入や知名度も上がったそうです。

ヘンデルは、晩年にはオペラが売れなくなったそうですが、オラトリオにシフトしてそれがまた大ヒットしたそうです。時代の求めるものを読む事に長けていて、上手に作品作りに取り入れていたような印象ですね。一方で、当時のウケるものばかりを作っていたような気もしてしまうのですが、ベートーヴェンが最も尊敬する作曲家として、何回もヘンデルの名前を挙げていた事や、ヘンデルの楽譜をプレゼントされて大喜びしたという話を聞きますと、儲けやウケる曲ばかりを書いていた訳ではなく、やはり音楽的に素晴らしい作品を生み出していたようです。

そして、ヘンデルの遺産は現代の日本円で7億円くらいあったそうです。遺言書を残しており、結婚していなかったため、姪など30人近くの親族、親子2代でヘンデルを支えたスミス、音楽協会などに分配したそうです。

この本では、他にもモーツァルトとサリエリ(モーツァルトの最大のライバルとも言われていました)、ショパンとリスト(ロマン派の2大天才ピアニスト)、ドビュッシーとラヴェル(フランスの印象派を代表する音楽家)なども、比較しながら紹介されています。そして、作曲家の作品がQRコードで添付されていますので、スマホやタブレットで読み込んで音楽を聴くこともでき、作曲家の名声が高くなった曲や、オペラはヒットしなかったけれど人気のあった曲などを知ることもできますから便利です。

いつの世も、稼いで生活をしていく事は大変な事ですが、作曲家も宮廷に仕えたり、スポンサーを探したり、作品を売り込んだり、自作曲のコンサートをしたり、演奏や指揮をしたりと、作曲すること以外の手段もいろいろと駆使しながら収入を得ていたのですね。

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(この記事は、2024年3月18日に配信しました第393号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、「情熱大陸」というテレビ番組のお話です。

毎週日曜日の夜に放送される「情熱大陸」は、様々な分野で活躍している人々を、密着取材を通して紹介するテレビ番組です。ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さん作曲のテーマ曲が大変有名で、今では小学校の合奏にも使用されるほどの人気なのだそうです。

音楽番組ではないのですが、これまで何人もの演奏家も取り上げていて、大変人気のあるピアニストのフジコ・ヘミングさんも、かつてこの番組に登場していました。リアルタイムで見た覚えがあるのですが、波乱万丈の人生を歩まれ、だからこそなのかもしれませんが、大変奥深く印象強い演奏をされていました。フジコ・ヘミングさんが番組内で演奏していたリスト作曲の「ラ・カンパネラ」も、この番組がきっかけで、今では彼女の代名詞とも言える作品になっています。

また、反田恭平さんも、かつてこの番組に登場され、以前このコーナーでも取り上げた覚えがあります。その後のご活躍は言うまでもなく、ショパン国際ピアノコンクールで、歴代の日本人最高位である第2位を受賞され、瞬く間に世界の一流ピアニストの仲間入りをされました。ピアニストとして活躍するとともに、ジャパンナショナルオーケストラを結成して様々なコンサートを開催し、プロデュースなどもされています。結成して3年目を迎え、チケットは軒並み完売という大変な人気で、大変珍しい株式会社の形態をとっているオーケストラなのですが、既に黒字化しているようで経営手腕も確かなようです。

前回の放送では、ピアニストの亀井聖矢さんが登場しました。満を持しての登場と言うセリフがピッタリな気がします。桐朋学園大学に飛び級入学して、その年に日本音楽コンクール、ピティナ・ピアノコンペティションという日本の若手音楽家たちの登竜門として大変有名な2つのコンクールの両方に優勝されました。演奏家を多く輩出しているトップクラスの音楽大学である桐朋学園大学に史上初の飛び級入学しているだけでも驚きですが、さすがに入学して1年も経たないうちに同時制覇するとは、大学側も想像していなかったのではと思います。この圧倒的な実力は、数々の国際コンクールでも発揮されていますが、2022年にロン=ティボー国際コンクールで優勝されて、知名度を不動のものにされました。

番組は、亀井さんが2年前に語ったという「ピアニストのゴールは、コンクールじゃない」という言葉から始まりました。ストラヴィンスキー作曲の「ペトルーシュカからの3楽章」という難曲を弾く亀井さんの姿は、番組で流れた「憑りつかれたかのように弾きこなす」という言葉そのもので、切れ味鋭い演奏と共に、惹きつけられる魅力を醸し出していました。もちろん番組の一場面なので、演奏もごく一部のみしか流れませんでしたが、おそらく誰もが、その凄さを感じたのではと思います。演奏直後に、会場のあちこちから歓声が沸き、映像を見る限りでは観客全員がスタンディングオベーションという状況になっていました。

これほどの輝かしい活躍をされていますが、ご本人は「いつまでも超絶技巧ばかり弾いていないで、ちゃんと自分の内面とかを含めてピアニストとしての幅をもっともっと深めていきたい」と、にこやかな表情でしたが、冷静な自己分析をされていました。昨年あたりから、ショパンの作品の練習をされているそうですが、「僕にとって、ショパンは凄く難しい作曲家で、全力で気持ちよく弾くと、繊細なショパンのキャパシティをオーバーしてしまうので、今はまだショパンが見つかっていない状態で、自分の中の良いショパン像に出会えるところまで成長できるように頑張ります」ともコメントをされていました。番組では、おそらくショパンと同時期のピアノフォルテでショパンの作品をを演奏している亀井さんが映っていました。素晴らしい演奏でしたが、ご本人はもっと高みを目指しているようです。

昨年、ドイツに移り住んで、200年以上の歴史があるカールスルーエ音楽大学に留学して、日本人ピアニストで教授の児玉桃さんに師事しているそうです。番組では、なかなか普段見ることのできない、ピアニストのレッスン風景の映像も見ることができました。

亀井さんの演奏を聴いた児玉さんは、「ショパンは、センチメンタルに弾こうとしてテンポを揺らしがちだけど、一定のテンポを保って弾いている所は良いと思います」と感想を話しつつ、「顕微鏡で楽譜を見るように、細かく見ていきます」という発言もしていました。児玉さんが、「長いフレーズなので、先に進みたいという気持ちはわかるけれど、進まないで、ショパンの祖国であるポーランドの事を思い(当時はロシアの支配下で、ショパンはフランスに亡命していた)、痛み、凄く寂しい気持ちを思いながら弾く」とアドバイスをしますと、亀井さんは頷きながら、時には児玉さんの顔を見つつ、iPadの楽譜に熱心に書き込みをしていました。「すごくきれいな音なんですけれど、もう少し深くまで行けると思うんですね」「ここまでは深いんですけれど、あとからその魂みたいなものが昇っていくように」という旨のアドバイスもされていて、ピアニストがレッスンを受けると、このような風景になるのだなあと大変興味深く見ました。

番組では、ピアノ以外でのプライベート映像も流れていました。友人の留学仲間とルームシェアをして住んでいる家で、携帯でレシピを見ながら、先程スーパーで買ってきた食材を使い、料理を始める姿も映っていました。ルームシェアしている友人が番組スタッフのインタビューを受けている最中に、亀井さんが若干危なっかしい手つきで食材を切りつつ、「今日、ゴミ出しありがとね」と話しかけて、友人が笑って返事をしていたり、亀井さんが、「僕は、一緒に住んでいてストレスは無いんですけど、どう?」と笑いながらルームシェアしている友人に返事を求めると、友人がニコニコしながら、「(ストレスは)無い、無い!」と答えて2人で笑いあっている姿は、普段の2人の生活ぶりが垣間見えたようで、ほほえましい感じがしました。

「一緒に過ごしていて面白いですね、楽しいし、話も面白いよね」と友人がインタビューに答えると、それを聞いた亀井さんが、「おお~、いいね。もっともっと(言って)」と笑いながら話していたり、パスタ料理を作りながら、「頼む、美味しくなってくれ」と話しながら「最後は、混ぜるで合っているよね?頼む、いい匂いではある」と、コメントも面白くて、亀井さんのユニークなキャラクターもよく伝わってきました。

リトアニアの音楽祭に招かれた亀井さんのリハーサル風景も流れていました。亀井さんがピアノを弾きつつ、不意に演奏を止めて、iPadの楽譜に書き込みをしていましたが、赤や青のペンでの書き込みがたくさんありました。左手の伴奏形の反復練習などもされつつ、また書き込みをしたりで、この日は8時間みっちりと練習をしたそうです。リトアニアでは初演奏だったそうですが、ここでも拍手喝采と次々とスタンディングオベーションも起こり、大好評の様子が映っていました。「完璧だったわ。とても個性的」「演奏の内容が、とても深くて日本の精神が感じられたよ」と聴衆のコメントも紹介されていました。

ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団との日本公演の様子も流れていました。リハーサルが短時間しかなく、オーケストラとタイミングが合わず苦悩する亀井さんの姿もありました。「本番のつもりで弾いたけれど、思うように提示しきれなかった。難しい。どういうプロセスが正解なのか、分からない。どうしたらいいんだろうなあ…」と、うつむいて無言になってしまっていて、相当悩んでしまっている様子でした。本番前に、この状態ですとかなり深刻だと思うので、本番の演奏はどうなってしまうのか、番組を見ている私も祈るような気持ちでした。本番の演奏が始まり、オーケストラの前奏の後に、亀井さんのピアノソロ部分が始まりましたが、先程の苦悩に満ちた姿とは打って変って確信を持った演奏をされていて、非常に驚きました。亀井さんの、憑りつかれたかのような表情まで見受けられ、「ホールで聴きたかったなあ」と後悔すら感じるような素晴らしい演奏でした。

演奏後、舞台袖に戻ってくると、水を飲み開口一番「楽しかった!」と晴れやかな顔をされていたところが、とても印象的でした。指揮者も、亀井さんと抱き合って演奏を称えていましたし、「オーケストラをよく聴いて、しっかり反応していたよ。素晴らしかった。このまま進みなさい」と声を掛けていました。亀井さんには、大変嬉しい言葉だったのではないでしょうか。

どこまで極めていくのか、目が離せない若手ピアニストの亀井さんを、これからも大いに注目していきたいものです。

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