(この記事は、第278号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、チャイコフスキーコンクールのお話です。

チャイコフスキーコンクールは、4年ごとに開催されますが、これまでにピアノ部門では、ヴァン・クライバーンや、 ウラディミール・アシュケナージなどが優勝し、一躍ピアノ界のトップスターに上り詰めています。日本人では、ショパンコンクールで入賞歴のある小山実稚恵さんが第3位、2002年に開催した第12回では上原彩子さんが優勝しました。

今年開催された第16回は、ピアノ部門が6月17日~29日に、モスクワ音楽院大ホールで行われました。

応募総数は、世界58か国954人だそうですが、今年は開催日程が短縮され、ピアノ部門の参加者は25人に絞られました。そのほとんどが、これまでに国際コンクールでの入賞歴がある方で、いかにレベルが高いかがわかります。

第1次予選では、バッハの平均律クラヴィ─ア曲集から1曲、ハイドンやモーツァルトなどの古典のソナタ1曲(全楽章)、チャイコフスキーの作品1曲、ショパン、リスト、ラフマニノフの練習曲から1曲。第2次予選では、ラフマニノフやロシア5人組、チャイコフスキーなどのロシアの作曲家の作品を1曲以上入れて、自由な選曲で50~60分以内のプログラム。最終予選では、チャイコフスキーのピアノ協奏曲を含む2曲のピアノ協奏曲という課題が出されていました。

日本人の参加者は、ピアノ部門で藤田真央さん、ただ1人でしたが、なんと第2位という、素晴らしい成績を収めました。これは、上原彩子さん以来の日本人入賞者で、日本人男性ピアニストとしては、第1回大会で第7位に入賞した、故 松浦豊明さん以来の快挙となります。

藤田真央さんは、現在、東京音楽大学ピアノ演奏家コース・エクセレンスに在学中の20歳のピアニストで、東京音大学長でピアニストの野島稔さんに師事しているそうです。18歳の時に、 第27回クララ・ハスキル国際ピアノコンクールで優勝されました。

以前から、国内外で演奏活動をされていますが、モスクワ音楽院の大ホールで弾きたかったので、今回のコンクールに参加したのだそうです。順位はあまり期待していなかったそうで、第2位という結果に驚いているとインタビューで答えていました。

コンクールの模様は、インターネットで視聴することができます。最終予選のピアノ協奏曲を聴いてみましたが、とにかく驚くべき素晴らしい演奏で感激しました。

International Tchaikovsky Competition: Final Mao Fujita

どこが素晴らしいかというと、表現の幅がとてつもなく広く、リズム感がものすごく良いところです。

オーケストラの大音量に負けないパワフルさがありながら、勢いなどで弾くという粗さがまったくなく、全ての音を完全にコントロールして、隅々まで表現して弾いている印象を受けました。

最初に演奏したチャイコフスキーのピアノ協奏曲が、こんなに味わい深い音楽だったのかと、改めて楽曲の素晴らしさを感じさせ、とても聴かせる音楽を奏でていました。

音階なども、とにかく滑らかで、音の粒が全てきれいに並んでいて、一音づつ全て聴こえてきて、とても美しかったり、曲の中の場面の移り際が、とても自然なグラデーションのように表現されていて、惹きつけられました。

まだ、あどけなさの残る顔立ちからは、想像できないほどの完成度の高い演奏で、コンクールの会場にいた聴衆が、大きな歓声とスタンディングオベーションで拍手しているのも納得という感じがしました。

2次予選では、拍手が鳴りやまず、次の課題曲がなかなか演奏できなかったり、全ての演奏後には嵐のような拍手と歓声で、カーテンコールが3回も行われたりしたそうです。

ちなみに、今年の優勝者は、フランスのアレクサンドル・カントロフさんで、藤田真央さんと同じく2位には、ロシアのピアニスト、第3位は3人という珍しい結果でした。特にこのような大きな国際コンクールで、3位が3人というのは聞いたことがなく、この点からも、参加者のレベルがとても高かったと言えます。

既に国内外で活躍している藤田真央さんですが、今後はさらに活躍の場が広がりそうで楽しみですね。

ちなみに、来年の秋には、ショパンコンクールが開催されますが、もし藤田さんが参加されるとしたら、日本人悲願の第1号の優勝者になるかもしれませんね。これからも、大注目の若手ピアニストだと思います。

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(この記事は、第277号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、知人のピアノリサイタルのお話です。

最近、知人の松岡直子さんのピアノリサイタルへ行ってきました。松岡さんは、現在でも私が定期的にレッスンに通っている先生に師事している門下生です。

先日、いつものようにレッスンに行ったときに、「こういうのがあるんだけど」と先生に頂いたのが、松岡さんのリサイタルの案内でした。

松岡さんとは、2回ほど発表会でご一緒したのですが、とても素敵にピアノを弾かれていたので興味を持ちました。

また、リサイタルの会場が「クロイツァー豊子音楽サロン」で、先生からサロンの写真を見せていただいたところ、ロココ調を思わせる優雅な空間になっていて、ますます興味を持ちました。

直接、松岡さんに連絡して、チケットを用意していただき、行ってみることにしました。

西武池袋線の大泉学園駅から歩いて7、8分の住宅街の中に、突如、街路樹で覆われた一角が現れます。

クロイツァー豊子音楽サロンの名前にある、クロイツァー豊子さんは、日本の音楽界に多大な影響を与えたピアニストであり指揮者でもあったレオニード・クロイツァーの奥様で、自身もピアニストであり、東京芸術大学を始めとする音楽大学で教鞭をとっていました。

晩年の住まいを姪が引き継ぎ、一流の演奏家の生演奏を至近距離で楽しむために、音楽サロンとして使用しているものです。

広い玄関は、ヨーロッパの調度品で飾られ、すでに優雅な空間になっていました。玄関を入って、すぐ左側のドアの先がサロンになっています。

明るく、しかし落ち着いたサロンにはシャンデリアが飾られ、透かし彫りの譜面台のあるスタインウェイが置かれていました。その前に、ロココ調のソファや椅子が並べられて、壁際には、別の3台のピアノと、クロイツァーご夫妻の写真やパネルなども飾られていました。

昔、ショパンなどの作曲家がサロンで演奏していた雰囲気を彷彿とさせる空間です。

会場には、松岡さんのお弟子さんらしき小学生とお母様、サロンのコンサートの常連らしき方々、松岡さんのピアノのファンらしき方々などが集まっていました。

私がレッスンに通っている先生もいらっしゃり、同じ先生の門下生の方々にもお会いすることができました。

今回のリサイタルは、「レオニードクロイツァー校訂譜シリーズ ベートーヴェン『ワルトシュタイン』」というタイトルで行われ、シューベルト作曲の即興曲 Op.142-3 の次に、ワルトシュタインが演奏されました。

最初に演奏されたシューベルトは、音大を目指す方々が、中学・高校生くらいで弾くことの多い曲目です。

裾に大ぶりのバラの装飾が施された緑色のドレスで登場した松岡さんは、シューベルト特有のとてもロマンティックな甘いメロディーを美しく奏でて、少し長めの曲なのですが、聴いている方を飽きさせないどころか、惹きつける演奏をされていました。

同じ門下生の方と、「昔、弾いたけど、こんなにいい曲だったっけ?」と話したくらいです。

次に演奏された曲は、今回のメインである、ベートーヴェン作曲のピアノソナタ『ワルトシュタイン』です。

ワルトシュタイン伯爵に献呈されたので、通称として「ワルトシュタイン」と呼ばれている作品で、ベートーヴェンのソナタの中でも有名です。

曲の出だしや、1楽章に何回も同じような連打が出てくるので、印象的な作品とも言えます。

近年、いろいろな出版社の楽譜がありますが、ベートーヴェンの曲を弾くときには、ヘンレ版を使用することが多いものです。

クロイツァー版を使用した松岡さんの演奏を聴きますと、そこまでの大きな違いはなかったのですが、ところどころで解釈の違いがあるように感じました。ヘンレ版よりも、もっと早く音楽的な解釈がわかるようです。

その後、休憩の後は、リスト作曲の「巡礼の年 第1年『スイス』より、1・2・3・4・5・6・9の曲が演奏されました。

「巡礼の年」は、4集までありますが、今回演奏された「泉のほとりで」の他に、「エステ荘の噴水」「ダンテを読んで」が有名です。あまり知らない曲もありましたが、壮大なスケール感やキラキラしているロマンティックなフレーズ、大変高度なテクニックを要するものなど、リストの魅力がたっぷりと味わえました。

松岡さんの演奏は、大きくフレーズを感じて、フレーズの最後の音まで気を配って弾かれていて、惹きつける魅力がありました。超絶技巧の曲も、圧倒的な迫力で弾かれていて、テクニックも素晴らしいと思いました。

同じ先生の門下生で、発表会もご一緒したことがある少し身近に感じられるピアニストで、「私も頑張らなくては」と、良い刺激にもなりました。

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(この記事は、第274号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、今年が生誕90年の記念年となるジャズピアニスト、ビル・エヴァンスのお話です。

先日、「ビル・エヴァンス タイム・リメンバード」という映画を見てきました。

ジャズピアノの詩人と呼ばれ、「ワルツ・フォー・デビイ」など数々の名作を生みだし、51歳でこの世を去った伝説のジャズピアニスト ビル・エヴァンスの生涯を綴ったドキュメンタリー映画です。「五大陸国際映画祭」や「モンテヴィデオ国際映画祭」など13もの世界各国の映画祭で、最優秀ドキュメンタリー映画賞などに輝いた作品です。

アメリカ国内の映画祭やイベントなどでは上映されていたそうですが、劇場での公開は日本が世界発になるそうです。

こじんまりした映画館で、平日の午前中という事もあり、お客さんはまばらでしたが、見るからにジャズファンという感じの人々がほとんどでした。

映画は、幼少期の可愛らしい映像から、トリオを組んで活躍していた時、死の間際までの映像だけでなく、本人のインタビューや最初に組んだトリオのメンバーから、最後のトリオのメンバーまで数々の共演者のインタビュー、そして、もちろんジャズの演奏もふんだんに盛り込まれていました。

ジャズというと、独学でピアノを学んでオリジナリティーを追及するようなイメージですが、ビル・エヴァンスはクラシックのピアノの指導も受けており、映画の中で、学生時代に指導していた教授のインタビューでは、ラフマニノフなどをなんでもたやすく弾いていて、すごい才能だったと話していました。

昼間は学校で学び、夜はジャズバーなどで演奏活動を行い、そこから活躍の幅を広げて、ジャズの帝王とも呼ばれたジャズトランペット奏者マイルス=デービスのバンドに呼ばれ、リバーサイド・レーベルとの契約にも繋がっていきます。

しかし、バンド内で唯一の白人だったため人種差別を受けたり、麻薬に手を出したりと問題も出てきます。

その後、ドラマーのポールとベーシストのラファロと共に、自らのトリオを組んで活動を始めます。メンバーの誰もが主役となり、オリジナリティ溢れるアドリブも交えつつ、それでいて全体の一体感が感じられる楽曲と演奏は、他のバンドとは大きく異なり、名曲「ワルツ・フォー・デビイ」なども誕生します。

仕事面では、順調に進んでいたのですが、ベーシストのラファロの乗った車が事故に合い、25歳という若さで死亡してしまいます。ビル・エヴァンスは、かなりショックを受けて、ピアノを弾くことができず、半年ほど活動を休止します。

私生活では、全てを捧げてくれたエレインと出会い、内縁関係になります。

エレインは、ビル・エヴァンスが麻薬に手を出している時でもビル・エヴァンスに寄り添い支えたそうです。長年良好な間柄だったようですが、子供には恵まれず、それも影響したのか、エレインに一方的に別れを切り出し、年の離れたネネットの元へ行ってしまいます。

エレインは、よほどショックを受けてしまったのか、地下鉄に飛び込み投身自殺してしまいます。

ビル・エヴァンスは、もちろん相当ショックを受けるわけですが、それでも2ヵ月後にはネネットと結婚します。やがて、息子も生まれ、穏やかな生活を始めるのですが、幸せな生活も束の間、以前とは異なる麻薬に手を出してしまうのです。

映画では、その頃の映像も流れていましたが、本当に驚きました。それまでの髪の毛をきっちりとセットし、黒縁メガネをかけた少し硬そうなイメージから、たっぷりと髭をたくわえた姿になり、身なりもどことなく清潔感にかけていて、まるっきり別人のような風貌になっていたからです。

それでも、生み出す作品と演奏は素晴らしく、しかもさらに進化していて、特にスローなテンポの曲は、本当に惹きつけられるような魅力がありました。

しかし、徐々に麻薬の使用量が増え、腕には注射針の跡があちこちに見られ、薬物中毒が酷くなっていきます。家庭内も冷え切ってしまい、私生活は徐々に破綻していきます。

幼い頃から尊敬し慕ってきた2歳年上の兄ハリーが、一所懸命ビル・エヴァンスを救おうとするのですが、ハリー自身が統合失調症となってしまい、遂には自殺してしまいます。

ビル・エヴァンスは、長年の麻薬により体がボロボロになり、車の移動中に大量の吐血をして救急病院に運ばれ、そして51歳の生涯を終えます。

映画の中で、最後に連れ添った恋人が、「これで、ビルはもう苦しまずに済む」と、深く悲しみながらも、どこかほっとしたような雰囲気で話していたのが印象的でした。

一流の演奏仲間からも、「本当にすごい」「一音たりとも弾き損ねることがない」「彼がジャズに与えた影響は、この先100年は続く」「時代を動かした」「ビル・
エヴァンス以上に、情感を表現できる者はいない」と天才ぶりを称賛する声がとても多いジャズピアニストですが、素晴らしい名曲と演奏を残した裏側に、バンドメンバーの事故死や恋人や兄の自殺、そして自分自身が薬物中毒と、多くの悲劇と波乱万丈の人生があったとは想像すらできませんでした。

ビル・エヴァンスは、時には鍵盤が見えなくなりそうなほど背中を丸くして、音楽の世界や自分自身の内面に没頭しているかのような雰囲気で演奏をしますが、音楽のカッコよさやアレンジ力だけでなく、クラシックのピアニストのように、一つ一つの音の美しさやフレーズの歌わせ方も素晴らしく、人を惹きつける魅力を持ち、魅せる音楽を奏でるジャズピアニストだと思います。

映画の中では、ふんだんに演奏が流れていましたが、1曲全部を聴きたかったくらいです。

ジャズに詳しくない方にとっても、ビル・エヴァンスのジャズ演奏は、どこかクラシックに通じるものがあり、聴きやすいのではないかと思います。私も、今回の映画をきっかけに、もう少しビル・エヴァンスのジャズ演奏を聴いてみようと思いました。

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