(この記事は、第245号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、音楽的な演奏についてのお話です。

「ピアノの本」という小冊子に、とても興味深い連載を見つけました。「音楽的な演奏って何だ?」というタイトルで、音楽学者で京都大学教授であり文学博士の岡田暁生さんが書かれているものです。

「音楽的な演奏」とか「音楽的に弾く」といった言葉は、音楽業界では、普段からよく使われます。例えば、レッスンやコンサートでも、「○○さんは、とても音楽的に弾くわよね」とか「テクニックは良いんだけれど、もっと音楽的な表現があるといいわね」などと言い、私自身も恩師から、「もっと音楽的に弾いて」と指導されたことがありました。

しかし、「音楽的な演奏って何だ?」と聞かれて、答えられる方は少ないかもしれません。

岡田さんは、まず始めに「音楽的」と「上手かどうか」は必ずしもイコールではないと言っています。

確かに、ミスなく弾いて高いテクニックを持っていても、「上手いんだけどね・・・」で終わる事があり、逆に、ちょっとミスはあっても「音楽的だった」という感想になることもあります。

この「音楽的」とは、「演奏に歌があるかどうか」という事のようです。

私自身も高校生の頃、副科で声楽を習っていた時に、声楽の先生に「演奏で一番大切なのは、歌ですよ。ピアノの楽譜にも、歌うように(カンタービレ Cantabile)という楽語があるでしょ?」と指導されたことがあります。

ピアノを弾く時にフレーズを意識して弾きますが、次の新しいフレーズに入る直前に、少し間を取って弾きますと、フレーズの区切りが表現できます。それがないと、一本調子で平坦な音楽になってしまいます。

そのちょっとした間は、歌でいう息継ぎ(ブレス)に相当し、それをどのくらいにしていくのか、ほんの一瞬だけですぐ次のフレーズになだれ込むのが良いのか、たっぷりと取って次に弾く音にインパクトを与えるようにするのかは、前後のフレーズや曲想、強弱などによって変わってきます。

一律にブレスを取っていますと、それもまた機械的でおかしな演奏になってしまいますし、やりすぎますと、自分の演奏に酔ってしまっているような、癖の強い演奏になってしまいますから、加減が大変難しいのです。

ピアノは鍵盤楽器ですが、太鼓と同じ打楽器の分類に入ります。ハンマーがピアノの弦を叩いて音を出しますから、打楽器の仲間になるわけです。

バッハなどが活躍していたバロック期は、ピアノの第一号ができたばかりで、ほとんど知られていませんでした。その後のモーツァルトやベートーヴェンが活躍していた古典派でも、まだピアノは進化の途中で、ショパンなどのロマン派になって、ようやくピアノが現在のピアノとほぼ同じ完成形になりました。

その楽器を使って、ショパンなどは、いかにピアノを歌わせるか模索していたのだと思います。ショパンの作品を聴きますと、ピアノがとても太鼓と同じ分類の楽器とは思えない、柔らかさとしなやかさ、滑らかさを感じますね。

ショパンは、オペラが大好きで、夜な夜なコンサートに出かけていたそうですが、自分自身は一曲もオペラを書きませんでした。歌が好きなのに歌の曲を書かず、ピアノに歌わせていたのですね。

伝説のピアニストであるホロヴィッツは、お弟子さんにレッスンを行う時、時間の大半を歌手の録音を聴いて、節回しをどうやってピアノで表現するのか話していたそうです。

ピアノに歌わせる、ピアノが歌っているように演奏するという事は、やはりピアノを上手に演奏する大きなポイントのようですね。

打楽器であるピアノを歌わせるには、どのように弾いたらよいのか。単に、気持ちを込めるだけでは実現できません。この記事には、「音の伸びを聴く事が大切である」と書かれていました。

音を出すと、音が伸びて徐々に減衰していきますが、それをきちんと聴いていく事で、次の音の弾き方が変わってきます。前に弾いた音の伸びの延長に次の音を弾きますと、前の音ときれいに並べることができますから、フレーズが生まれてきます。特に、歌うフレーズの要となる長く伸ばす音符が大切なのだそうです。

ピアノを弾く時に、どうしても音を出すことに集中してしまいますが、実は音を出した後の音の伸びを聴く事が、はるかに重要ということですね。

お勧めの練習方法としては、定番ではありますが、片手練習があげられます。1パートだけで弾く事になりますから、音の伸びを意識しやすくなります。片手練習は、両手で弾く練習の前段階という感じがしますが、それだけではなく、音を聴く練習にも大変役立ちます。

音の伸びを意識して、演奏が音楽的になると嬉しいものですね。

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(この記事は、第244号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、ピアニストやヴァイオリニストの日常のお話です。

先日、ピアニストやヴァイオリニストなど、クラシック音楽の演奏家の日常を密着取材した番組が放送されました。2つの番組だったのですが、1つはヴァイオリニストの千住真理子さん、もう一つはピアニストの熊本マリさんを取材したものです。

ヴァイオリニストの千住真理子さんの一日を見てみますと、いつでも小走りどころか、かなり本気で走っていました。番組スタッフと駅で待ち合わせをしていても、タクシー乗り場に一目散に走って移動していて、番組スタッフが慌てて引き止めたり、コンサート会場でも、出迎えていたスタッフの横を走り去り、会場内を迷ってあたふたとしている様子が映っていました。

常に意識している事は、「時短」だそうで、1秒でも長く練習するためなのだそうです。さすが、プロの演奏家は凄いですね。移動時間を短時間で済ませるだけではなく、食事についても、生卵を飲むような事もしているそうで、とても驚きました。短時間で栄養を摂るため、映画のロッキーからヒントを得たそうです。なかなかストイックな面もありますね。

コンサートの前には、ピーナッツバターにハチミツをたっぷりとかけて食べ、コンサートの合間には、ハチミツをそのまま口に流し込むような場面も放送されていました。ハチミツは、すぐにエネルギーになるそうで、その効果を利用しているようです。舞台では、華やかなドレスを着て、優雅に美しいヴァイオリンを奏でていますが、舞台の裏ではこのような状況だったとは、想像できませんでした。

コンサートでは、2時間は演奏するので、人によっては1回のコンサートで2キロ痩せるという話を聞いたことがあります。体力の消耗も思った以上に激しいので、限られた時間でいかに効率よくエネルギーを補給するかは、大切なことですね。小さい頃から、プロのヴァイオリニストとして活躍してきた経験から生み出された方法なのかもしれません。

演奏が終わっても、ドレスを着たままヴァイオリンを持って、猛ダッシュで走って、ファンが待つサイン会に駆けつけ、笑顔でサインをしたり、握手をしていました。

使用しているヴァイオリンは、世界的に有名なストラディヴァリウスという名器で、家族総出で金策に追われながらも、現金で購入されたものです。数億円ともいわれる大変貴重な楽器なので、楽器のために普段から色々な事をしているそうです。

例えば、普段からお兄様のおさがりのコートを羽織り、目立たないような服装をしたり、コンサートなどでホテルに宿泊する場合は、現金をわざと見えるところにおいて、もし窃盗犯が入っても、現金に目が行くようにして、楽器を守っているのだそうです。

もちろん、楽器のために高額な保険をかけていたり、自宅にも厳重なセキュリティー対策をしているそうです。マンションにお住まいですが、お部屋もベランダも無数の赤外線の監視システムが設置されているそうです。完全防音の練習室はシェルターのような作りになっていて、地震などで万が一マンションが崩壊しても、練習室だけは壊れないような作りになっているのだそうです。とにかく、ヴァイオリンを大切にされている様子が、とてもよく伝わってきました。

次は、ピアニストの熊本マリさんです。

熊本マリさんは、小さい頃スペインに住んでいて、スペイン王立マドリード音楽院や、アメリカのジュリアード音楽院、英国王立音楽院で学ばれました。日本では馴染みのなかったスペインの作曲家モンポウのピアノ曲全曲を録音して、一躍話題となりました。

NHK 教育テレビの「芸術劇場」の司会もされ、現在は、大阪芸大の教授としても活躍されています。

先程の千住真理子さんのコンサート前の食事とは異なり、熊本マリさんの場合は、お母様が作られたお弁当を食べるのが恒例なのだそうです。メニューは牛肉で、200gはペロッと食べるのだそうです。本番前は、お腹が空かない程度に軽く食事を済ませる方が多い中、しっかりとお肉を食べるというのは凄いですね。

千住真理子さんも、世界最高齢のピアニスト室井摩耶子さんも、普段から牛肉を食べるそうで、「パワーが付く」とみなさん揃って言われます。演奏家は体力も大切なので、アスリートの様な食生活も必要なのかもしれません。

熊本マリさんの日常は、飼っているインコを常にかわいがりながら、毎日6時間のピアノの練習は欠かさないそうです。大変貴重な数千万円もするピアノを所有しており、それぞれの鍵盤の奥には、たくさんの傷がついていました。ピアノでオクターブなどを弾く時に、2・3・4番の指が少し伸びた状態になりますが、それが、ピアノの奥に当たり削れてしまうらしいのです。指でピアノを掘っているとでも言うのでしょうか。普通はそんなに当たらないと思うのですが、手が大きく、激しく動かして弾いていますと当たるのかもしれません。

コンサートでは、ぐるっと一周動くような舞台上で演奏をして、色々な角度から演奏風景が鑑賞できるような事をしたり、俳優や宝塚のスター、落語家など色々なジャンルの方とのコラボレーションもされています。国民栄誉賞を受賞された将棋の羽生善治さんや、iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞された山中伸弥さんなどとも交流があり、幅広い人脈をお持ちのようです。

演奏家の多くが、小さい頃から練習漬けの毎日を送り、天才少女や天才少年としてデビューしていますから、まるで別世界に住んでいる様に思えますが、実際に覗いてみますと、イメージ通りに演奏中心のストイックな生活を送っていると感じると同時に、意外な面も垣間見えて、やっぱり同じ人間なのだと、少し身近にも感じられました。

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(この記事は、第243号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、福間洸太朗さんのピアノリサイタルのお話です。

先日、友人と福間洸太朗さんのピアノリサイタルへ行ってきました。私は、福間洸太朗さんというピアニストを知りませんでしたが、評判が良く人気もあるとのことで、楽しみにしていました。

少し早めに会場に着いたのですが、すでに多くの方が入り口に列を作っていて、福間さんの人気ぶりに驚きました。

開演時間になりますと、かなり大きなホールが、ほぼ満席の状態になりました。

光沢感のある黒いジャケットを着た福間さんが舞台に登場し、バッハのカンタータの1曲を弾きました。「羊は安らかに草を食み」という曲で、とても美しく厳かな雰囲気の音楽でした。

この日は、東日本大震災からちょうど7年目だったこともあり、追悼の意を込めて選曲したのだそうです。

その後は、ベートーヴェンの「テンペスト」全楽章と、スメタナの「モルダウ」を演奏されました。

「テンペスト」は、ベートーヴェンのピアノ曲の中では有名な作品で、ピアノ教室にいらっしゃる生徒さんにも人気の曲です。ベートーヴェンの激しい感情が表れている音楽で、ある意味ベートーヴェンのイメージ通りの音楽かもしれません。

1楽章の途中には、静かでゆったりとした部分があり、この部分をきれいに弾く事はなかなか難しいわけですが、さすがピアニストが弾きますと魅力的に聴こえてきます。

前半のプログラムの最後は、スメタナ作曲の「モルダウ」です。プログラムのほとんどがピアノ曲なのに、なぜオーケストラの作品が1曲混ざっているのか疑問に思っていましたが、福間さんご自身がピアノソロ用に編曲したのだそうです。

以前、あるコンサートの主催者から「モルダウ」をピアノソロに編曲して演奏してほしいというリクエストがあり、そのコンサートで弾くためだけに編曲したそうですが、それが大変好評だったため、その後何度となく弾かれているそうです。

演奏前に、そのようなお話をされ、「今日は、ロビーでも楽譜販売されるそうで・・・・。ちょっと、宣伝みたいになっちゃいましたが・・・」と少しお茶目な表情で話された時には、会場からクスッと笑い声が起こっていました。

オーケストラの演奏で有名な「モルダウ」ですが、福間さんの編曲したピアノ曲は、オーケストラの迫力も、ピアノで表現できる繊細さも見事に表現され、素晴らしい作品になっていました。演奏後に友人と、「オーケストラの原曲より、福間さんの編曲した方が好みかも」と話していたくらいです。

その後休憩時間になり、「モルダウ」の演奏を大変気に入った友人が、CDと楽譜が欲しいという事で、すぐにロビーに行きました。すると、すでにCD販売の場所も楽譜販売の場所も、商品が何も見えないくらいに多くの人が集まり、大混雑していました。まだ、前半の演奏が終わっただけですが、この休憩時間に全ての商品が完売してしまうかもと思うくらい、まさに飛ぶように売れていました。

なんとかCDと楽譜が購入できて、満足そうな表情をしていた友人ですが、演奏を聴いてすぐにCDなどを購入したのは今回が初めてかもとご自分でも驚かれていました。もう、すっかりファンになったようでした。

休憩時間が終わり、後半が始まりますと、黒いシャツに鮮やかな青系のベストに衣装替えをした福間さんが、颯爽と舞台に登場しました。

ショパン作曲の「前奏曲集」や「幻想即興曲」「英雄ポロネーズ」、リストの「愛の夢 第3番」「ラ・カンパネラ」など、名曲が勢ぞろいというプログラムでした。前半と同じく、曲の間には福間さん自身で、曲目の解説などがありました。

「幻想即興曲」の演奏前には、この曲との思い出を話されていました。小学校4年生くらいで弾いていたというお話をされた時には、そんな小さい時に、この曲を弾いていたなんてスゴイというどよめきが湧き起こっていて、思わぬ反応だったのか福間さんも驚き、「あっ、いや、そういうのではなくて・・・」と後ずさりしながら、はにかんだ表情で少し照れ笑いをしていました。福間さんの謙虚さや親近感を覚える瞬間でした。

ピアノリサイタルは、もちろんピアニストの演奏を聴きに行くわけですが、このようなお話もありますと、ピアニストの人となりが垣間見えて、遠い存在のピアニストが少し身近に感じられるものですね。

演奏後には、会場中が大盛り上がりで拍手喝采でした。

福間さんは、すぐに舞台に戻ってこられてマイクを手に取り、「会場の都合で、5時までには外に出ないといけないのですが・・・」とお話をされ、「でも、アンコールで弾きたい曲が3曲あるんですよね。では1曲目!」とお話された時には、会場中が大きな笑いに包まれました。

小さい頃にコンクールで弾いて、すごく緊張して予選落ちした曲を「今日は挽回したい」と茶目っ気たっぷりなお話の後に、とても美しく弾かれていました。2曲目、3曲目もとても魅力的に演奏され、リサイタルが終わりました。

物凄いテクニックを見せつけるような弾き方ではなく、良い意味でごくごく普通に弾かれていたので、生徒さん方やピアノを弾かれている方には、とても参考になる所がたくさんあるように感じました。

また、今回かなり前方の席だったので、ペダルさばきを大変よく見ることができました。とても細かく踏み替えている所もあれば、大胆に長めに踏んでいたりしていましたが、一番驚いたのは、ウナコルダという一番左にあるシフトペダルをよく使っていたことです。

通常、このペダルを踏みますと、踏んだ瞬間に音色が変わり、音が弱くなるだけでなく、柔らかい少しこもったような音になります。今、シフトペダルを踏んだとか、シフトペダルを踏み続けていることが、すぐにわかる踏み方になります。しかし、福間さんは、音楽を聴いているだけでは、いつシフトペダルを踏み始めたのかわからないくらいに、徐々に踏み込んでいて、着物などのぼかしの技術の様な、絵画などのグラデーションのような、段差や境目がわからないような踏み方をしていて、このようなシフトペダルの使い方があったのかと驚きました。

福間さんは、ピアノリサイタルだけでなく、フィギュアスケートの羽生選手やパリオペラ座バレエ団のダンサーとのコラボレーションなど幅広い分野で活躍されているようです。今後の活躍も目が離せないですね。

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