(この記事は、第89号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「ピアノ教室の出来事」は、大人の生徒さんのお話です。
11月に配信した第86号メールマガジンでは、大人の生徒さんの発表会のお話をしました。
大人の生徒さんの発表会は、お子様の発表会よりも予測が難しく、「えっ!」と驚くようなハプニングが起こることもよくあります。しかし、今回の発表会は、そのようなこともなく、生徒さん方も緊張はされていましたが、思った以上に普段の実力が発揮できた気がしています。
発表会の後、少しお休みを挟んで、またレッスンが再開されましたが、出演された生徒さんにお話を伺いますと、やはり、みなさん相当緊張されていたようです。
20代のOLさんは、今年入会されたので、今回が現ピアノ教室での初めての発表会になります。小さい頃からピアノを習っていたようで、以前通われていたお教室でも発表会には参加してしたそうです。
毎回、発表会にはご両親が聴きに来られていて、今回も揃ってお見えになっていました。
なかなか難しい曲を演奏されたのですが、レッスンでは結構きれいに仕上がっていましたし、これまでに何回も発表会の経験があるので、私も割と安心していたのです。
ところが、これまでと同様に暗譜で本番に臨みましたが、曲の始めの方で早くも暗譜を間違えてしまうハプニングが起きてしまいました。しかし、そこで調子を崩すこともなく、すぐに立て直してそのまま弾き続けて、最後まで弾き切りました。
レッスンの時には、他の箇所で暗譜が少々心配なところがありましたが、今回はこれまで1度も間違えたことがないところだったのです。
発表会の後に感想を聴きますと、ご本人もびっくりだったそうですが、それよりもご両親の方がびっくりされていたそうです。
緊張しないタイプで、これまでもかなり普段通りに弾けていたそうなので、今回暗譜を間違えてしまったことが意外だったようです。
ご本人も、「一瞬、初めて真っ白になって、びっくりしました」と話されていました。レッスンでは、常に指だけではなく頭でも覚えるように練習をして、暗譜が確実に出来るようにしていますが、なかなか完璧に演奏するのは難しいものです。
本番は、何が起こるかわからないことを、改めて感じました。
別の生徒さんは、「いや~、みんなスゴイよね。○○を弾いた人とかさあ、△△さんも上手だったし。あの難しい曲があれだけ弾けるんだから、たいしたもんだよね」と、他の生徒さん方の演奏に驚かれていました。
そうお話されている生徒さんご本人は、あまり実力を発揮できなかったと悔やんでいるようですが、練習の始めの頃に一番苦労されていた所が大成功していたので、着実にレベルアップされているのです。
自分では、あまり満足できない演奏でも、聴いている方は「すごいなぁ~」と思うことは多々あります。
「○○を弾いた方が、あなたの演奏がとても上手だったとお話されていましたよ」と話したところ、「え~? うわ~、ありがとうございます」と笑顔で嬉しそうにされていました。
お子様の発表会では、自分よりも年上の生徒さんの演奏を聴いて、刺激を受けることがよくありますが、大人の生徒さんは、あまりそのようなことはないのかなと思っていました。しかし、今回の発表会やその後のお話を聴きますと、お子様と同じように良い刺激を受けているようです。
他の生徒さんの演奏を聴いて、発表会後にその曲の練習を始めた生徒さんもおられるほどです。
発表会に参加されるメリットは、ご自身の演奏を披露するだけではなく、他の生徒さんの演奏を聴いてよい刺激を受けることなのかもしれません。
(この記事は、第89号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、110年前のスタインウェイピアノがある大田黒公園(おおたぐろ こうえん)のお話です。
大田黒公園は、JR中央線の荻窪駅から少し歩いたところにある杉並区立の公園で、日本の音楽評論の草分け的存在である大田黒元雄さん(1893~1979)の自宅跡地に、1981年(昭和56年)に作られました。
お屋敷跡ということもあり、公園の入り口には昔ながらのヒノキの歌舞伎門があり、立派な風格が漂っています。
2679平方メートル以上の広大な敷地の中には、樹齢100年を超える銀杏の並木があり、それだけでも都心とは思えない静寂な雰囲気を作り出しています。
数寄屋造りの茶室や、書斎として使っていた記念館、休憩所などの建物もあります。
レンガ色のような記念館は、仕事部屋として使われていた西洋風の建物で、窓が多く、外の景色が楽しめて、日の光が差し込む素敵な雰囲気です。
大田黒元雄さんの父・大田黒重五郎は、芝浦製作所(現在の東芝)を再建し、東京電力や九州電力の前身の1つでもある水力電気会社を設立した実業家で、大田黒元雄さんは、そのとても裕福な家庭に育ちました。
19歳から2年ほど、経済学を学ぶためにイギリスのロンドン大学に留学しますが、その時に足しげくコンサートに通い、フランス音楽で有名なフォーレ自身の演奏も聴いていたようです。
そして、この留学中に聴いた音楽や様々な体験を元に、帰国後、音楽だけではなく色々なジャンルで執筆活動を始めます。
特に、銀座にある山野楽器の依頼を受けて「バッハよりシェーンベルヒ」を執筆し、「月の光」などで有名なドビュッシーや、「春の祭典」などが代表作であるストラビンスキーを日本に初めて紹介しますが、この本がきっかけとなり一躍有名になりました。
その後は、紫綬褒章や勲三等瑞宝章、文化功労者なども授与されています。
大田黒さんが生前書斎として使っていた記念館には、木目の美しい茶色いピアノが置かれています。
学生時代からピアノを習っていた大田黒元雄さんが、生前に愛用していたもので、現在でも高級ピアノとして大変有名なスタインウェイ社のピアノです。
1900年にドイツのハンブルグ工場で製造されたBタイプのもので、イギリスのロンドンで販売されたものだそうです。
大田黒さんは、自宅で毎月コンサートを開いていたそうですが、その時にも使われていました。
大田黒さんの死後、このピアノは杉並区に寄贈され、展示物として飾られたまま演奏されることはありませんでしたが、2000年に修復されました。
その年には、ピアニストでありフランス音楽の演奏や執筆で大変有名な 青柳いづみこさんのコンサートが行われました。
青柳さんのお話では、タッチが軽くドビュッシーやフォーレ、シベリウスの作品が特に合うピアノだそうです。
現在でもコンサートで使用されており、この貴重なピアノの音色を聴くことができます。この音色を守るために、区内在住の音楽家や区民によって「大田黒公園のピアノを守る会」という修復運動も行われています。
このような歴史のあるピアノが残っているだけでも驚きですが、修復してまた当時の音色が聴けるのは、貴重ですし嬉しいですね。
ぜひ一度、110年前に作られたスタインウェイの音色を聴いてみたいものですし、叶うなら弾いてみたいものです。
(この記事は、第88号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、兄弟全員が芸術家で、しかも国内外の第一線で活躍されている「千住3兄弟」のお話です。
ご夫婦や親子で芸術家/音楽家というのは、それほど珍しくありませんが、3人の兄弟が揃ってとなりますと、今回お話をする千住家以外に、ファッション界で「コシノ3姉妹」(コシノヒロコさん、ジュンコさん、ミチコさん)と呼ばれる小篠家ぐらいではないでしょうか。
長男の千住博さんは、日本を代表する日本画家です。東京芸術大学で学び、大学院を卒業する時の作品を、大学が買い上げたそうです。いかに素晴らしい絵なのかわかりますね。その後、日本だけではなくオーストラリアやニューヨーク、台北、韓国、香港、中国など、世界各国で毎年のように個展を開催しています。
イタリアで開催されたベネツィアビエンナーレで、東洋人として初めて名誉賞を受賞し、紺綬褒章なども受賞されています。また、グランドハイアット東京での壁画制作や、羽田空港の第2旅客ターミナル、新国際線ターミナルのアートプロデュース、APEC(アジア太平洋経済協力会議) JAPAN 2010 の会場構成など、幅広く活躍をされています。
今年の10月には軽井沢に千住美術館も開館し、代表作である「ウォーターフォール」の他、50点ほど展示されているようです。
次男の千住明さんは、幅広いジャンルで活躍されている作曲家です。ドラマや映画などの音楽も数多く作曲していますので、聴いたことのある方も多いのではないでしょうか。慶応義塾大学工学部を中退し東京芸術大学へ進んだ珍しい経歴ですが、大学院の修了作品は、長男の博さんと同じく大学が買い上げたそうです。
日本アカデミー賞優秀音楽賞などを何回も受賞され、現在は、作曲活動やプロデュースをしつつ、東京音楽大学客員教授も務めています。
テレビドラマでは、「砂の器」のテーマ曲であるピアノ協奏曲「宿命」や「高校教師」「家なき子」「夫婦」、NHKの大河ドラマ「風林火山」。映画では、「愛を乞うひと」「黄泉がえり」「ちびまる子ちゃん~わたしの好きな歌」「鉄人28号」など、本当に数々のヒット作を生み出しています。
そして、末っ子の真理子さんは、トップクラスの人気ヴァイオリニストです。2歳でヴァイオリンを始め、第1回「若い芽のコンサート」でN響と共演し、12歳でプロデビューしました。
その後、日本音楽コンクールに最年少の15歳で優勝し、第26回パガニーニ国際コンクールにも最年少で入賞、文化庁「芸術作品賞」や村松賞、モービル音楽賞奨励賞など、素晴らしい受賞歴をお持ちです。
国内外でのコンサート活動の他、NHK教育テレビ「趣味悠々」のヴァイオリンの講師や、日本音響学会の研究員としてステージ音響の研究に参加するなど多方面で活躍されています。
また、2002年に幻の名器と呼ばれるストラディヴァリウス「デュランティ」を入手したことでも大変話題になりました。ご存知の方も多いかもしれませんが、数あるヴァイオリンの中でも最高峰の名器であるストラディバリウスは、数も限られ大変貴重なので、かつては家を売って手に入れたヴァイオリニストもいた程です。ヴァイオリンを弾かれている方にとっては、まさに憧れの楽器だと思います。
真理子さんが入手した「デュランティ」は、なんとローマ法王 クレメント14世が所有していたもので、何百年と大切に保管され、演奏されることはなかったそうです。大変高価だったようですが、ご兄弟が金策に走って援助されたそうです。現在でも、真理子さんの演奏にはこの名器が使われています。
3兄弟がそれぞれ大活躍をされていますので、近年ではコラボした企画も多数あり、羽田空港第2ターミナルに長男の博さんの絵がかけられ、次男の明さんが作曲した「四季」を末っ子の真理子さんが演奏するという夢のような共演もありました。
空港を利用するときには、ぜひ立ち寄ってみたいものですね。
「千住3兄弟」の作品を、いくつかご紹介しておきます。
「砂の器」オリジナル・サウンドトラック 千住明 |
G線上のアリア 千住真理子 |
千住兄弟3人の初コラボレーション・アルバム 千住真理子 千住明 千住博 |
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