(この記事は、2021年3月15日に配信しました第318号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、早春のピアノ教室の様子です。
日増しに暖かくなり、春の気配を感じる今日この頃です。
生徒さんともそのような話をしますが、スキーが趣味の生徒さんは「暖かくなると困るんです」と話されていました。
重度の花粉症をお持ちの生徒さんは、「今年は、稀にみる花粉の多さで、もう大変です」と話されています。薬の量を増やして対応しているそうですが、それでもあまりよくならず、夜も眠れなくて辛そうです。「大変ですね。このような花粉の多い時間帯に来ていただいて、ありがとうございます」と話すと、「あっ、車できましたから大丈夫なんですよ」とかえって気遣って下さいました。
毎年春は、お子様の発表会の準備をする時期です。昨年は、コロナの影響で半年延期になり年末に行いましたが、今年度の発表会は通常通り6、7月で開催することになりました。ただ、感染予防対策を徹底するため、1回の発表会の参加人数を限定し、付き添いのご家族の人数も制限をかけることになります。集合写真も無しで、記念品も1種類のみとし、密を作らない運営となります。
講師演奏は、毎年楽しみにしていただいているのですが、次のステージのお客様も入り、かなりの人数が集まってしまう事があるため、今年も無しという事になりました。味気無さは拭えませんが、それでも発表会を開催することを喜んでいただいていますので、万全の態勢で当日運営できるように準備を行ってまいります。
生徒さん方には、今年度の発表会が例年通りの時期に行われることを話して、演奏する曲の選曲を行いました。
昔は、楽譜の束をレッスン室に持ち込んで、1曲ずつさわりを弾いてその場で選んでもらっていましたが、だいぶ前から YouTube を利用しています。
まずは、生徒さんにどんな感じの曲を弾きたいか考えていただき、具体的な曲があれば曲名を教えていただくようにしています。コンクールや試験など点数や合否が付く場合には、弾きたい曲というよりも点数が取れそうな曲目という視点が必要になりますが、発表会の場合、日頃の練習の成果を披露するものなので、ご本人が弾きたい曲をなるべく弾いてもらうようにしています。
生徒さんお一人に、5、6曲ほど候補を選び、ご家族の方と YouTube で聴いていただき、後日感想をお聞きしました。
前回は、レッスンで弾いているお気に入りの曲を選んだ生徒さんもいましたが、今年は全員が新曲でチャレンジすることになりました。
中には、同じ曲集の他の曲もいろいろと聞き比べて、それぞれの曲について細かく感想を教えてくれた生徒さんもいました。
お子様が弾く曲とはいえ、大人が聴いても楽しめるところが音楽の素晴らしさの一つで、お子様と一緒にいろいろな曲を聴いて楽しかったですと感想を寄せてくださったお母様もいました。
普段のレッスンでは教材を使用するため、曲が終わると自動的に次に弾く曲が決まってしまうものですが、弾く曲を探したり選んだりする楽しさも味わっていただけたら、さらに発表会の楽しみも広がるのではないかと思っています。
春は、新しい生徒さんとの出会いの季節でもあります。ご自宅の引越しのため、来月から私がレッスンを担当させていただく生徒さんがいます。これまで、他の先生のレッスンに通われていた生徒さんです。先日、体験レッスンを1回行いました。
練習を始めてもうすぐ1ヵ月になる曲があるそうで、難しくて少々苦戦しているとの事で、レッスンで取り上げることにしました。左手が、ずっと3連符の伴奏が続く曲で、右手のメロディーも時々ポジションが変わるので難しいようです。
3連符自体は、それなりに音の粒を揃えて弾けていたのですが、他の音に変わる準備のタイミングが遅れてしまっていることが原因でした。ゆっくりなテンポで、少し前から音が変わることを頭で認識してもらい、そして場合によっては少しポジションを移動させたり、右手の音を確認してから左手の指を動かして音を弾く練習をしました。だんだんと1回目でうまく弾けるようになってきたので、引き続きご自宅でも同じような練習をするようにアドバイスしました。
レッスンが終わり、生徒さんのお母様とお話をしたのですが、実はこの生徒さんは少し障害を持っているそうで、お母様はレッスンの進み具合について少し心配されていました。しかしながら、障害についてはレッスンに何も支障がなく、進度についてもおそらく問題ないのでご心配なさらなくて大丈夫ですとお話をしました。後日、現在の先生と引継ぎの話をした際にも、レッスンには支障がないという事で意見が一致しました。ただ説明する際に、言葉の選び方には少し配慮が必要かもという情報を頂きましたので、来月からのレッスンでは十分気をつけようと思っています。
いよいよ、これから発表会に向けてのレッスンが本格的になりますが、楽しくレッスンしつつ、しっかり準備をして本番に備えたいと思います。
(この記事は、2021年3月1日に配信しました第317号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、自らチェロを製作して演奏する14歳の少年のお話です。
先日、「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」というテレビ番組を見ました。毎週放送されている番組で、好奇心旺盛にして大人顔負けの知識を身に付けた子供を「博士ちゃん」と呼び、サンドウィッチマンのお二人と芦田愛菜さんが解説やコメントをするというものです。
博士ちゃんがスタジオで授業をする形式が定番のようですが、「博士ちゃん検定」という新企画が始まり、ある分野でプロを目指すお子さんが、その道のプロに会って現在の評価を受ける番組になっていました。
今回は、チェロが好きでコンクールの全国大会に出場するほどの実力がある14歳の少年が登場しました。この少年は、将来チェリストを目指しつつも、自分で楽器のチェロを製作しています。今回は、自分で製作したチェロを演奏して、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さんに聴いてもらうという企画です。
葉加瀬さんは、ヴァイオリニストでありますが、「情熱大陸」などの名作も生み出し、もはや音楽家と紹介した方がよいほど幅広く活躍されています。実力もさることながら、いつもにこやかで人懐っこい笑顔とユニークなキャラクターで、バラエティ番組でも人気がありますね。
この14歳の少年は、チェロの演奏で全国大会に進むほどの実力ですが、演奏だけでなく、自らチェロを製作して演奏してみたいという気持ちが芽生え、楽器職人に弟子入りしました。そして、わずか半年で本当にチェロを作ってしまったのです。師匠も、凄いと絶賛しギネス記録に残るのではないかと話していました。サンドウィッチマンのお二人は、「チェロって作れるの?」と誰もが思う感想を口にし、芦田さんは「すごい…」とつぶやき、少年にくぎ付けという感じでした。
チェロが完成しますと、この楽器を使って演奏し、一流の音楽家に聴いてもらいたいと思うようになり、今回の企画となりました。少年は、「忖度なしで」と何回も話していて、ご自身の自信と本気度を強く感じました。
葉加瀬さんは、少年が自らチェロを製作した事に興味津々な様子で、楽器製作の話や好きな音楽家などいろいろと聞いていました。
「好きなチェリストは?」という質問に、少年はチェリストの堤剛さんの名前を挙げ、「好きな音楽家は?」という質問に、「バッハ。彼の音楽に宇宙を感じて、神だと思う」と答えていました。「好きなチェリストに、真っ先に堤先生の名前を挙げるなんて渋いね~」と、葉加瀬さんもすっかり感心している様子でした。
楽器製作の話では、ニスを塗る前の白木の状態のチェロを弾いたときの話をしていました。弦楽器のあのツヤツヤした光沢は、ニスを塗っているからですが、見た目の美しさだけでなく、材料である木の湿気や乾燥、腐食を防ぐためのものでもあります。ニスを塗る前に演奏してみると、音が散ってしまうと話していました。ニスを塗ることで音がまとまり、「f字孔」というFの字の形をした空洞部分から楽器全体で響いた音が出てくるのだそうです。
葉加瀬さんは、ニスを塗った楽器しか演奏したことがないから、製作者ならではの体験ですよねと羨ましそうに話していました。
少年が、ケースから自ら製作した楽器を取り出すと、葉加瀬さんは、食い入るように、いろいろな角度から楽器を細かく観察していました。「良い楽器とは音が良いだけでなく、ずっと眺めていたくなるほどの美しさがある」「楽器を見るだけで、どんな音色が出てくるのかわかる」と葉加瀬さん自身が解説されていましたが、確かに(テレビ越しに見る限り)、とても丁寧に作られていて形がきれいに思いました。葉加瀬さんも、「フォルム(形)が良い」と褒めていました。
そして、葉加瀬さんの発案でレッスンが始まりました。
最初の音を出した瞬間に、すぐに葉加瀬さんはストップをかけ、「旅立ちの心の準備ができていない」と忖度なしのアドバイスをしていました。とても分かりやすい表現ですし、私も常々同じような指摘をされるので、その大切さを改めて感じました。
番組のコーナーの最後には、プロのジャッジがあります。星の数で評価するのですが、星ゼロはまだまだアマチュア、星1つはもっと頑張ればプロ、星2つはこのまま続ければプロ、星3つは即プロに通用するレベルとなっています。
ジャッジ前に、少年は星1つ付けば嬉しいと話していましたが、星1つ半という評価になり、嬉しそうな様子でした。「14歳が作ったというだけなら星3つ。純粋に忖度なしで言うと、ボディの作りはほぼ完璧で、f字孔のサイズや作りなど細部の造形美が今後の課題」と指摘していました。
既に恐るべき情熱と才能に溢れていますが、5年10年と経験を積んでいった先に、どのような楽器を生み出すのか大変楽しみに思いました。葉加瀬さんも、「面白い男だ」と絶賛していましたので、今後も大注目という事は間違いなさそうですね。
(この記事は、2021年2月15日に配信しました第316号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、音大生の生態のお話です。
漫画家・コラムニストの「辛酸なめ子」さんの本を読んでみました。「愛すべき音大生の生態」という本です。辛酸なめ子さんは、皇室から恋愛、スピリチュアルなど幅広い分野で本を執筆されていていますが、音大生をテーマにした本も書かれているのですね。
私もかつては音大生でしたが、卒業してからだいぶ月日が経ち、母校には、新しい学部ができたり、ピアノ科などの募集人数も変わり、校舎も新しくなりました。最近の音大生は、どうなっているのかと気になっていました。
辛酸なめ子さん自身も音大付属の幼稚園に通っていたようですが、この本は、3年近くも時間をかけて、いろいろな音楽大学を取材して書かれたものです。
第1章の音大生の話では、音大とはどういうところなのか、東京近郊の音大が紹介されています。
昨今、音大も学生集めが大変なようで、ピアノ科、ヴァイオリン科のように専門の楽器を勉強する学科だけでなく、音楽文化教育学科やミュージックリベラルアーツ専攻、アートマネジメントなどのように音楽だけではない総合カリキュラムを学ぶ学科も登場しています。
第2章では、音大のイベントについて書かれていました。学園祭や公開レッスンなど3つのイベントを通して、音大を知ろうというものです。
学園祭は、ホールやスタジオ、各教室、野外のいたるところでジャズやガムラン(インドネシアの民族音楽)、オペラ、室内楽など殆どプロのような音楽が無料で聴き放題、お客さんも十分楽しめるお祭りと書かれていました。
多くの音大では、気軽に学園祭へ行って楽しめますが、芸大(東京芸術大学)は厳正な抽選に当たらないと演奏が聴けないしくみです。なかなか当たらないようで、芸大に入るより難しいのではとぼやいている人もいたと書かれていました。以前、テレビで芸大の学園祭(芸祭)を見たことがありますが、美術科と一緒になって作品を作ったり、とても盛り上がっている様子でした。コロナが落ち着いて、一般にも見学が可能になったら、一度は行ってみたいと改めて思いました。
公開レッスンは、音大ならではのものです。普段は個人レッスンなので、他の方のレッスンの様子を見ることはできないですし、自分が習っていない先生のレッスンを見ることもできませんが、スタジオやホールなどで、みんなの前で特別にレッスンが行われます。教授や外部の演奏家、海外の音大教授などが来日して、公開レッスンを開くこともあります。
この本では、指導役の演奏家が、的確に慈愛に満ちた笑顔で、また時には自分の体を実験台にして触らせることも厭わない白熱のレッスンで、素人でも分かるような神がかったアドバイスに釘づけだったと書かれています。
私が以前見たヴァイオリンの公開レッスンでは、レッスンの初めに一曲通して演奏をするのですが、演奏が始まって少し経つと、指導役の演奏家がさっと舞台から降りて客席に座り、じっと演奏に耳を傾けていました。そして、演奏が終わると立ち上がって笑顔で「ブラボー」と声をあげて拍手していて、びっくりしました。もちろん、その後レッスンが始まるのですが、とてもフランクで笑いもあり、聴講していてとても楽しいものでした。ちなみに、この時の生徒は、卒業後プロのオーケストラのコンサートマスターに抜擢されていました。
卒業演奏会も、音大ならではのイベントです。卒業試験の演奏で優秀な成績を修めた学生たちのコンサートで、ほとんど無料で聴くことができます。この本では、どの演奏も昔の曲なのに前衛的で、大衆に受け入れられるクラシックとはレベルが違っていたと書かれています。知らない曲ばかりで、素人には不協和音にしか聞こえないような複雑な和音、メロディーもどこにあるのかわからず、キャッチ─なサビもなく、難解な曲を暗譜で弾きこなす音大生は、コンビニのチョコと有名パティシエの高級ショコラほどの違いがありそうだと例えていました。
ちなみに、モーツァルトやベートーベンなどの分かりやすいメロディーやキャチーなサビがある音楽は、一部の曲を除いて卒業演奏ではまず選ばれません。というのも、曲がシンプルで、テクニックも比較的容易なので、高得点が取りにくいからです。実際、モーツァルトを弾きたかったのに先生に反対されて、泣く泣く違う曲に変えたという友人もいました。
第3章では、音大生の不思議な日常がテーマになっています。
音大生のイメージは、声楽科の女子は華やかで、楽器の人はカジュアルとか、だまって息をしているだけならいいけれど、よく見ると動きがおかしいとか、男子学生も、変わっている人が多くて一人でディズニーに行くとか、水族館の年間パスポートを持っていて一人で年間百何十回通っているとか…。専攻の楽器や科によって、キャラクターが異なり、指揮科は変なTシャツを着ていたり、歩きながら手を振っているので(練習している?)、よく職務質問されるとか、声楽科は、声種によってもキャラクターが異なっていて、主役体質だったり、何となく褒めておけば調子に乗るとか、様々な話が書かれていました。
確かに、私が通っていた時も、走り格好が妙に不器用そうだったり、ピアノ科の男子学生が円陣を組んでカップラーメンをすすっていたり、芸人さんさながらの全身黄色のスーツを着ている人などがいましたから、昔も今も学生のキャラクターは変わらないのかもしれません。
音大生がよく使う隠語や必需品などについても書かれていました。「なにもんか?」という隠語?は、「何門下」、つまり、どの先生の生徒(門下生)なのかを尋ねるときのフレーズです。そこから話が広がることも多いのですね。
必需品については、声楽科はみんなが龍角散の「のど飴」を持ち歩いています。やはり喉に良いらしいですね。ピアノ科の学生にとっては、爪切りや製本テープ(楽譜を貼るテープ)、楽譜が入るサイズの大きめのカバンは必需品になると思いますが、音大を卒業してもよく持ち歩いています。
音大の潜入ルポや音大生の光と闇、未来などについても取り上げられていました。
最後には、音大生が想像以上にストイックで厳しい世界に生きていて、普通の大学生のように遊ぶ暇はなく、日々練習して学費捻出のバイトに明け暮れ、精神的にも自立していて、一人でも群れたりせず、音楽と向き合っているという感想が書かれていました。
ありそうでなかった本なので、音大生の生活や実態に興味がある方にはおススメです。
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