(この記事は、第76号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回のピアノ教室の出来事は、「暗譜」についてのお話です。
毎年夏に行われる、お子様のピアノ発表会が迫ってきています。普段は割とマイペースな生徒さんも、少し焦ってきているのか、レッスンの集中度がいつにも増して高くなっているように感じられます。
こちらも、本番までのレッスン回数を気にしながら、ハイペースでレッスンを進めています。
発表会やコンクールなど、本番で弾く時に一番問題となるのが「暗譜」です。
大きな会場で、スポットライトが当たり、お客さんの前で弾くことは、それだけでも緊張するものですが、それにプラスして楽譜を見ないで記憶を頼りに弾くことになります。
これは、ある意味とてもすごい事だと思います。
幼稚園・保育園生などの本当に小さい生徒さんが、発表会自体をあまりよくわかっていない状況でも、きちんと弾いていたり、中高生などは大曲を弾く事も多いのですが5分はかかる曲をしっかりと暗譜で弾いています。
ピアノを弾く経験がない方から見ますと、「よく覚えられるなぁ」と感心するようですが、練習をしていますと、ある程度は自然に覚えてしまうものなのです。
小さい生徒さんのレッスンをしていますと、宿題にしていないのに「もう暗譜で弾けるよ」と言いますので、実際に暗譜で弾いてもらいますと確かにきちんと出来ていたりするのです。
暗譜の練習をしなくても覚えてしまうのですから、驚異的ですし、もうこれで完成という気もしますが、実はこれが結構危険なのです。
暗譜で弾けていたのに、急に忘れてしまう箇所が出てくるのです。前触れもなく、ある日突然起こるのです。これが、レッスンを行っていて一番怖い問題なのです。
「如何に、ある日突然忘れる事を未然に防ぐのか」が、本番前の大きな練習テーマになります。
暗譜が完成する前の段階で、音や指を迷っている場合には、1つ合図を決めてきちんと頭で覚えるようにします。例えば、1カッコと2カッコの終わりの音で迷う場合には、「1回目はド」と覚えるのです。この時に「1回目はドで、2回目はミ」と覚えようとしますと、結局1回目がどちらなのか、いつまでも迷うことになります。ポイントは、1つに絞ることです。
そして、暗譜の練習をする時の大きなポイントは、色々な感覚を使って覚えることなのです。実際にピアニストの方々のインタビュー記事を読んでいても、同じような事が書かれていますし、実際に私自身も実践しています。
まず、楽譜をしっかりと見て弾いて、視覚を使って覚えます。人間が情報を把握する時に、8割くらいが目からの情報なので、これはとても有効な方法だと思いますし、練習していて自然に覚えるというのも、常に楽譜を見て練習をしますので、この方法を使っているのだと思います。
次に、録音やCDなどの演奏を、聴覚を使って耳で覚えます。移動中の電車や車の中で、常に本番の演奏を聴くというやり方です。
そして、ピアノを弾きながら、また音楽を聴きながら、口を使って歌って覚えます。メロディーを歌うのですが、バロックの作品などでは、伴奏自体の概念がありませんので、左手のパートも同様に歌って覚えます。
更に、楽譜を見て、音楽の構成(楽曲分析、アナリーゼと言います)を頭を使って覚えます。例えば、ハ長調から始まって、左手のミの音のフラットがきっかけでハ短調に転調して、右手のミのナチュラルの後に、またハ長調に戻るなど、音楽の作りから覚える方法です。
モーツァルトなどの古典派の音楽には、このように1つの曲の中で、次々と調が変わる「転調」がよく出てきますが、このように覚える事で、ある個所を飛ばしてしまったということが防げます。
この他、自然に行っている事ですが、ピアノを弾いて指の運動で覚えるということもあります。この時には、とってもゆっくり弾く練習をしますと、指先の感覚が捉えやすいので、勢いだけで弾くことを防ぐことができます。
色々な感覚を使って暗譜をするという発想は、あまりないかもしれませんが、これを実践することで、私自身も何回も危ない所を上手に対処していますので、試してみて下さい。
(この記事は、第73号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回のピアノ教室の出来事は、大人の生徒さんのお話です。
大人の生徒さんは、お子様のように、バイエル、ブルグミュラー25の練習曲、ソナチネアルバム、ソナタアルバムといった、一定の教材を使って進めていくよりも、それぞれの生徒さんのご希望に合わせて、曲や教材を進めていくことの方が多くなります。
そのため、大人用のテクニックの教材を進めている方もいれば、いろいろな作曲家の曲を弾いている方、お気に入りの作曲家の曲を数曲続けて弾いている方など、本当に様々です。
先日、新しく大人の生徒さんがいらっしゃいました。全くの初心者ではなく、これまでにピアノのレッスン経験がある方です。
バイエルとブルグミュラー25の練習曲を終了し、新しい教材を進めていたのですが、ご家庭の事情で1年ほどレッスンをお休みされていたそうです。そして、忙しさも一段落して、再開されることになりましたが、それまで習っていた先生とレッスンの日時が合わなかったようで、私がレッスンを担当させていただく事になりました。
大人の生徒さんに限った事ではありませんが、色々なご事情で休会される生徒さんは少なくありません。入院や、職場の異動、ご家族の介護などです。お子様ですと、受験が一番多い要因となっています。
大人の生徒さんは、いつでも休会でき、そして、いつでも再開することができるのですが、実際には、再開される生徒さんは、それほど多くありません。これは、レッスンを担当している立場から見ますと、とても残念なことです。
そのため尚の事、再開される生徒さんは、とてもピアノがお好きなんだなぁと思い、とても嬉しくなります。
この大人の生徒さんは、「必ず、またレッスンに行く」と思っていた様で、再開後の初レッスンでは、以前使用していたテクニックの教材の続きの曲を練習してきていました。
色々とアドヴァイスをしながら、このようなお話もしました。
「この教材は、以前もお使いでしたから、そのまま続けられると良いかと思います。
でもこれはテクニックの教材ですよね。
それだけでも良いのですが、(題名の付いた)曲も、何か弾きませんか?
何か、弾いてみたい曲はありますか?」
そうしますと、おもむろに1つの楽譜を取り出されたのです。
「何ヶ月かかってもいいので、この曲を弾きたいんです。」
「そうですか、ステキな曲ですよね。私も大好きなんです。この曲はどこで知ったのですか?」
「実は、以前息子が発表会で弾いていまして・・・。家で練習しているのを聴いて、良い曲だなあと思いまして」
「そうだったんですか。長い曲ですので、時間はかかると思いますが、とても思い入れのある曲の様ですので、是非弾いてみましょう」
そうお話をして、レッスンを終了しました。
以前、お子様が練習していたことがきっかけで、憧れの曲になるというパターンは初めてでしたので驚きました。でも、それだけお子様が頻繁に練習をしていたという事ですし、息子さんのピアノの練習をいつも聴いていたという事になります。
素敵なご家庭の様子を垣間見た気がしました。
憧れの曲が弾けるように、私も精一杯お手伝いしたいと思っています。
(この記事は、第72号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回のピアノ教室の出来事は、今年入られた小学5年生の生徒さん(Aさん)のお話です。
Aさんは、今年の2月に入会されました。お子様の場合、1年のうちで一番多く入会される時期は春ですので、タイミングとして珍しいケースだと思います。
しかも、「子供のためのピアノ教育」でも書いていますが、ピアノを始める年齢としては珍しく、小学5年生の生徒さんなのです。
Aさんのお母様は、フルタイムでお仕事をされていて、お仕事帰りの夜の時間帯に、お子様と一緒に体験レッスンに来られました。
小学5年生という年齢や、冬に体験レッスンにいらっしゃることは、これまでに全くなかった訳ではありません。しかし、多くの場合は、以前からピアノを習っていて、引っ越しなどでピアノ教室を変えるパターンなのです。
Aさんも同じような経緯なのかと思っていましたが、これまでにピアノを習ったことがなく、全くの初心者だったのです。
お話を伺いますと、自宅にキーボードがあり、光る順に鍵盤を弾いていくと、曲が演奏できる機能が付いているそうです。そのキーボードをAさんが弾いているのを見て、「それだけ好きなら、ピアノを習わせてみようか」と思われたのだそうです。
また、Aさんに直接聞いてみますと、クラスの友達がピアノを弾いているのを見て、「いいなぁ」と憧れを持っていたそうで、それもきっかけとなったようです。
小学5年生の初心者というのは、なかなか珍しいケースなので、使用する教材を選びに楽譜屋さんに足を運んだのですが、思った以上に時間がかかりました。
お子様の初心者用の楽譜は、小学校入学前後の年齢を対象としているので、結構可愛らしい絵が描かれている楽譜が多いのです。
悩んだ末に楽譜を決めたのですが、多感な年頃でもあり、「こんな子供っぽい楽譜は嫌だ」と言われてしまうのではないかと心配しましたが、それなりに気に入ってもらえて、ほっとしました。
ピアノの楽譜と共にワークも渡したのですが、両方ともどんどん進んでいて、まだ数カ月しか経っていないのに、すでにピアノの楽譜もワークを3冊づつ終わらせています。
特にワークの進み方がとても速いので、Aさんに聞いてみました。
「Aさんは、いつもたくさんワークをやってきてくれるでしょ? お家でどんなペースでやっているの? 時間のある時に、たくさんやっているのかな?」
「いえ、毎日2ページやるって決めて、やっています。それで、土曜日とか日曜日の学校のない時には、もっとやっています。」
「あらそう、毎日やっているのね。すごいわね~。毎日やるって大変でしょ、今日は疲れたからいいやってならないの?」
「はい、自分で毎日2ページやるって決めたし、ピアノも自分でやりたいって言って習っているので、そういうのはないです。」
文章で書くと少し硬い印象かも知れませんが、可愛らしい笑顔で、このように話していました。小学校低学年のお子様とは違って、また年齢以上に、とてもしっかりとした意思を持ってピアノを始めたことが、とてもよくわかった瞬間でした。
毎日コツコツと練習する事は、ピアノだけではなく、何かを習得する時には欠かせないものです。それを自分の意思で進められる人ほど、強いものはありません。
Aさんは、進みが速いだけではなく、分からないことは、どんどん質問をするので、レッスンもおのずと効率よく、内容の深いものになっていきます。
「ピアノが上手になりたい」という熱意も、とてもよく伝わってきますので、今後の成長が楽しみです。
お家では、まだキーボードで練習をしているそうですが、すでに楽器に対して物足りなさを感じていました。すぐに音が出てしまうので、弾いている感触があまりないところや、いつも一定の音量しか出せないので、音の強さが変えられないところが、とても不満のようです。こういう時こそ、生のピアノで練習をさせてあげたいなあと思っています。
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