(この記事は、2024年1月22日に配信しました第389号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、新年を迎えたピアノ教室の様子です。

能登半島の地震に羽田空港の事故など、波乱の年明けになってしまった2024年ですが、ピアノのレッスンは予定通りに進められています。年明けのレッスンでは、「あけましておめでとうございます…と言っていいものか、他になんと言ったらよいのか悶々と考えつつ、結論が出ないままこうしてお話しています」と訳の分からない挨拶をしていました。

生徒さん方も、「そうですよね。本当にびっくりしました」と驚きを隠せない様子の方が大変多く、「ご親戚やお知り合いの方々は、大丈夫ですか?」と尋ねましたが、生徒さん方の中には、被害に遭われた方はいらっしゃいませんでした。ただ、「数年前に、金沢や能登など、あの近辺を旅行に行ったんです」とおっしゃる生徒さんがいらっしゃいました。「そうでしたか。能登は朝市とかも有名ですしね」と申しますと、「ちょっと思い入れがあったものですから、今回の地震や津波で大きな被害が出てしまって、本当にショックで…」と、大変残念そうな表情でお話をされていました。一日でも早い復旧と復興を願わずにはいられません。

震災の話の後も、いろいろなお話をしました。

奥様に、「定年を迎えて、時間もある事だし、英語とかピアノとかやったら?」と言われたことがきっかけで入会された生徒さんは、レッスン前にお教室をレンタルして、直前まで熱心に練習をされる方です。そんな生徒さんですが、今週のレッスンでは、「今回、実はあまり練習していなくて。すみません」とおっしゃるので少し驚きました。「そうなのですね。お忙しかったようですね。そういう事もありますから。あまり気にされずに、どうぞ気兼ねなくレッスンにいらして下さいね」とお返事をしました。

すると、「いや~、ありがとうございます。実は、先日ゴルフをしに行きまして…」と話し始めました。「へえ~、ゴルフをされているんですね」。「前に話したと思いますが、僕は学生時代にラグビーをやっていて、その時のメンバーで年に何回かゴルフをやるんです。今回は16人だったかな?そのくらい集まって」。「学生時代にラグビーをやっていたお仲間で、今はゴルフをされているなんて凄いですね」。「いや~、ホントに楽しかったですよ!みんないろんなことをやっているんで。商社にいた人もいれば、警察官もいて」。「一緒にラグビーをやっていた方々が、その後いろいろな業界でお仕事をされていたなんて面白いですね」。「ホント、そうなんですよね。医者もいるし、スポーツ庁の人もいるし、弁護士もいるし」。「すごく幅広いジャンルで、みなさんご活躍なんですね。そういう方々と繋がりがあって、なんだか羨ましいです」とお話が弾みました。

ピアノを専門にしていますと、基本的に個人プレーなので、みんなで何かをするという機会がかなり少ない気がしています。他の楽器ですと、室内楽やオーケストラで他の方々との共演という機会もあるのでしょうが、ピアノの場合、あったとしても連弾や他の楽器の伴奏という事がほとんどなので、2人で演奏するくらいしか機会がないように思います。また、例えばピアノ講師のような職業の場合、ほとんどが音楽大学を卒業しているのですが、音楽大学は単科大学なので、他の学部や学科がありません。みんな音楽を学んでいて、学んでいる楽器が異なるだけという事になります。しかし、この生徒さんの場合は、同じ大学で一緒にラグビーをやっていたメンバーですが、専門は文学部だったり経済学部だったりと、いろいろな分野の方々が集まっているという事なのですね。

音大を卒業した後の進路は、大雑把に言えばプロの演奏家になるか、音楽教室や学校などの音楽の指導者になるかという2つに限られてきます。もちろん、全く異なる業界でお仕事をされる方もいますが、少数派という印象です。つまり、卒業後も同じような業界に携わっていることが多く、代り映えしないとも言えます。そのため、生徒さんのお話を聞いて、「みんなで、何か同じ一つの事をするという体験が少なかったなあ」という思いと、単純に「楽しいそうで良いなあ」という気持ちになります。それと同時に、ピアノのレッスンにいらしている方々は、様々な業界に携わっているので、レッスンを通して、私自身も視野が広がり、いろいろな業界を知る事が出来て、生徒さん方から多くの事を学ばせていただいているとも感じています。これからも、生徒さん方との出会いに感謝しつつ、充実したレッスンを展開していきたいと思っています。

小学生の生徒さん方は、年末年始のお休みも終わり、学校では新学期を迎えています。新学期早々から、何となく少し元気のない様子を見せている生徒さんもいて、「どうしたの。大丈夫?」と声をかけますと、「だって…、明日から5時間授業だし、その次は、もう6時間授業になっちゃうんだよ」と、この先の学校の授業時間の長さについて心配をしていました。「あら、大変ね。学校が始まったら、直ぐに元通りのスケジュールになっちゃうのね。今週1週間は、長く感じちゃいそうだけど頑張ろうね」と励ましました。

ピアノの教材を広げて準備をしている時に、「この曲は、今日からレッスンをする新しい曲だけど、譜読みをしてみてどうだった?」と聞きますと、「ここまで弾けたよ。お父さんが、この曲を小さい頃に弾いたことがあるって言っていて、弾いてくれたよ。でもね、この小節の指番号が難しくて、お父さんは弾けなかったよ。私は、弾けるようになったけれどね」と、ニコニコしながら話してくれました。「そうなのね、お母様だけでなく、お父様もピアノが弾けるのね。お父様が弾けなかったところが、〇〇ちゃんは弾けたって凄いじゃない。お父様を超えたね」と話しますと、笑いながら、「うん、そうだね!」と嬉しそうに答えてくれました。

昨年の春からピアノを習い始めた保育園生の生徒さんは、少し前から、ワークが出来た時やピアノの曲が弾けるようになった時に、合格という意味で私が書いている花丸を、自分で書くことがマイブームになっています。年明けのレッスンでも、以前弾けるようになった楽譜を広げては、花丸ではなく「なると」と言い、そして「〇〇ちゃん(自分の事)ね、ラーメンのなるとが大好きなの」と話を続けるのが定番になっています。この日も、ワークがしっかりと出来ていたので、私が花丸を書こうとしますと、直ぐに、「〇〇ちゃん(自分の事)が書く~」と言って赤ペンを取り出し、小さめにぐるぐると渦巻きを書き、周りに曲線を描いて、「なると~」と言いながら、休み明けのレッスンで嬉しかったのか、なるとを4個もニコニコしながら書いていて、切り上げさせるのに少し苦労しました。

最近ピアノで弾けるようになった「メリーさんの羊」という曲がお気に入りのようで、「〇〇ちゃん(自分の事)ね、メリーさんの羊、楽譜を見なくても弾けるよ」と、自信満々で楽しそうに弾いていました。今年は、初めてピアノの発表会に参加する予定ですが、暗譜の心配もなさそうですし、楽しそうに自信を持って弾いている姿も頼もしく、この調子で進められたら、初舞台での演奏もきっと成功できるだろうなあと思っています。これから先の成長が、楽しみです。

今年も、生徒さん方それぞれがご自分のペースで楽しく、そして上達できるように、精一杯レッスンを行っていきたいと思っています。

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謹賀新年 2024


2024年1月22日


(この記事は、2024年1月8日に配信しました第388号のメールマガジンに掲載されたものです)

新年を迎えましたが、能登半島での地震や羽田空港での事故などが相次いで起こり、大変な思いをされている方々も多くいらっしゃるのではないでしょうか。亡くなられた方々へのご冥福と、一日でも早い復興を祈りつつ、微力ながらもお役に立てる事をしていきたいと思っています。また、このような時こそ、音楽の力で希望が見いだせたり、つかの間の癒しが得られたら幸いです。

新年1回目は、2024年にメモリアルイヤーを迎える音楽家についてのお話です。何人もの音楽家がいる中で特に有名な人というと、スメタナやヨハン・シュトラウス1世、リムスキー=コルサコフ、ホルスト、フォーレなどが挙げられます。

スメタナは、チェコの作曲家で生誕200年を迎えます。スメタナの代表作というと、交響詩「わが祖国」より第2曲「モルダウ」が真っ先に挙げられるのではないでしょうか。なんとも言えない哀愁の漂う音楽は、大変印象強いものがありますね。

ヨハン・シュトラウス1世は、オーストリアのウィーンの音楽家で生誕220年を迎えます。通称「ワルツ王」とも呼ばれました。ウィーンナーワルツの基礎を築いた音楽家です。息子のヨハン・シュトラウス2世や、他の息子達や子孫も音楽家になっています。代表作は、「ラデツキー行進曲」がまずは挙げられます。大変華やかな音楽で、毎年、世界中で放映されているウィーンフィルハーモニー交響楽団のニューイヤーコンサートで必ずアンコールに演奏され、指揮者の合図で、聴衆が手拍子をしながら音楽を楽しむのが、お決まりの光景です。

リムスキー=コルサコフは、ロシアの作曲家で生誕180年を迎えます。「ロシア5人組」の一人で、プロコフィエフなどの後のロシアの作曲家達やフランスの作曲家ラヴェルなどにも大きな影響を与えました。「熊蜂の飛行」が一番有名な曲と思います。目の前で、蜂がブーンと飛んでいるような光景を、とても速いテンポの音階の上下で表現していて、一度聴いたら忘れられないような音楽です。

ホルストは、イギリスの作曲家で生誕150年を迎えます。あまりピンとこない方も多いかもしれませんが、組曲「惑星」の作曲家、または平原綾香さんの「ジュピター」の原曲を作曲した人という紹介の方がわかりやすいかもしれません。地球を除く7つの太陽系惑星に、それぞれ1曲ずつ作られた組曲で、この組曲1つで大変有名な作曲家になりました。宇宙をテーマにした音楽ですから、ロマンを感じます。

フォーレは、没後100年を迎えるフランスの音楽家です。作曲家だけではなく、ピアニストやオルガニストとしても活躍をし、ラヴェルなどを育てました。儚さと優美さを兼ね備えた「シシリエンヌ」は、大変美しい音楽で聴いたことがある方も多いのではと思います。

そして、日本の音楽家である團伊玖磨(だん いくま)も忘れてはならない音楽家で、生誕100年を迎えます。上皇ご夫妻のご成婚の際に「祝典行進曲」、天皇皇后両陛下のご成婚に「新・祝典行進曲」を作曲したり、日本を題材にしたオペラ「夕鶴」、ラジオ体操第2の音楽なども作曲しました。誰もが幼少期に歌った「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「おつかいありさん」は彼の代表作でもあり、最も有名な曲だと思います。

今年も、いろいろな楽しい音楽のお話をお届けしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

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(この記事は、2023年12月18日に配信しました第387号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、12月6日に出版されたばかりの「指先から旅をする」という本のお話です。

たまたま何かふとした時に、この本が近々出版されることを知り、慌てて先行予約をして入手しました。なにしろ、大人気ピアニスト藤田真央さんの初エッセイという事ですから、大変注目度が高いのではないかと思います。本の帯にも、「Amazon演奏家・指揮者・楽器の本 第1位」というマークが大きく書かれていました。

木漏れ日の降り注ぐ森の中の小道で、藤田さんが無邪気にピアノを楽しそうに弾いている姿の描かれた表紙は、美しい風景を見ているかのような感じさえして、ついうっとりと見とれてしまいました。

演奏家の本といっても、ライターの方が演奏家を取材して書かれたものもありますが、この本は、「WEB別冊文藝春秋」に掲載されている連載のエッセイをまとめたもので、藤田さん自らが文字を綴ったものです。忙しい演奏活動の中で書かれたのかと思うと、それだけで驚嘆してしまいます。「WEB別冊文藝春秋」は、フリーで読めるのは前半の少しだけですし、今回の本は出版されたばかりで、これから読もうと楽しみにされている方もいらっしゃるかと思いますので、その楽しみを阻害しないように気を付けつつ、でも印象に残ったことなどを少し書いていきたいと思います。

この本は、2021年から23年までの2年間の記録をまとめたもので、260ページ以上ある本ですが、写真も多く掲載され、各項目ごとのお話は短く、インタビュー記事や対談のコーナーもありますので、すいすいと読み進めることができます。写真は、藤田さんの演奏会の写真や、街中でのスナップ写真など、いろいろなものが掲載されていますが、印象深かったのは、藤田さんが使用されている楽譜の写真です。リストの作品の楽譜なのですが、藤田さんの恩師である故・野島稔さんからのアドバイスも書き込まれています。ピアニストの使用している楽譜、しかも書き込みがされているものなんて滅多に見ることができませんので、必見かなと思いました。

故・野島稔さんは、日本を代表するピアニストで、東京音楽大学の学長も務めていました。高校3年生の時に日本音楽コンクール第1位を受賞、その後ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール第2位も受賞され、カーネギーホールでデビューコンサートを行いました。ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールやエリーザベト王妃国際コンクール、仙台国際音楽コンクールなど数々の国際コンクールの審査員も務め、国際的に大変評価の高いピアニストです。平成25年度には、日本学術院賞も受賞されています。

野島先生とは、藤田さんが11歳の時に出会ったそうです。全日本学生音楽コンクールの小学生部門で、藤田さんが第1位を受賞された時に審査員をされていたのが野島先生でした。小学生の部を初めて審査したら、藤田さんに出会ったということですから、何かご縁があったのかもしれませんね。その後、野島さんは東京音大の学長となり、しばらくして藤田さんは東京音大の付属高校に入学、さらに同大学へ進学され、17歳くらいから野島先生の直接指導を受けるようになったそうです。そこで、「野島イズム」ともいうべきピアノ演奏への向き合い方や演奏法をたっぷりと学んだそうです。一音一音の響きを大切にすることやハーモニーへのこだわりは、野島先生から受け継いだものと書かれています。

野島先生とのレッスンの様子も描かれています。ピアニストがどんなレッスンを受けてきたのか、なかなか知ることができませんので大変興味深く読みました。いくつか、印象深い言葉を挙げておきます。

・ピアノは「弾く」のではなく、鍵盤を「押さえる」もの・左右それぞれの音の響きを合わせる
・弾き方は自由でよろしい、その代わり、あなたの理想とする音に近づけるよう努力しなさい

全ての意味は分かりませんが、でも、これらの言葉からストイックに真摯さを持ってピアノに向き合うという姿勢が見えてくる気がしました。以前、藤田さんが海外でのコンサートが増えていた時期に、「いろいろな経験を積んで、人間として見聞を深めたい」と話したそうです。この時の野島先生の答えが、大変驚きました。「音楽を学ぶ以上に、幸せなことなどあるのでしょうか。」世界各国で演奏活動をされてきたピアニストの発言は、大変重みがあるなあと感じました。藤田さんも、この言葉を心の大切な場所に刻み付けていて、折に触れてこの言葉や野島先生の声を思い出すでしょうと綴っていました。

全体を通して、藤田さんの感受性の豊かさと、語り口の丁寧さを感じました。そこがまた、藤田さん得意のモーツァルト作品の演奏にも通じるものがある気がします。

ちなみに、この「指先から旅をする」の愛蔵版の発売も決定したそうです。写真をたくさん見たい方や動画も見たいという方は、こちらの愛蔵版の方が良さそうですね。

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