(この記事は、2022年4月18日に配信しました第345号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、春のピアノ教室の様子です。
春真っ盛りとなりました。ピアノ教室にいらっしゃる生徒さん方との挨拶では、「肌寒いですね」と話したかと思うと、「今日は結構暖かくなりましたね。というより、むしろ暑くなったと言った方が良さそうですね」と話したりと、会うたびに真逆の事を話している自分に気づきます。
お子様方は、春休みを終えて新学年となり、入学式を終えた生徒さんもいらっしゃいます。いよいよ、新生活のスタートです。小学1年生だった生徒さんは、若干しょんぼりした様子でレッスンに現れました。「今日、初めて6時間だった」と話していて、「ああ、もう2年生になったから、6時間授業になったのね。大変だった?」と声をかけました。「うん。学校から帰ってきて、急いでここに来たから、おやつを食べられなかった」とポツンと答えていました。6時間授業で疲れたから元気がないと思っていたのですが、そうではなく、どうやらおやつを食べられなかったことにしょんぼりしていたようです。それでも、ずらっと教材をピアノの譜面立てに並べ、楽譜を広げるなり、いつもの様子ですらすらと弾き始めましたので安心しました。
毎年、夏に行われるお子様の発表会の日程が決まり、今年は6月の開催となりました。想定より1ヵ月ほど早く行う事になりましたので、生徒さん方には発表会の曲を最優先で練習を進めるようにお話をしています。生徒さん方は、まだ譜読みの段階で、少々大変な時期ではありますが、それでも最終的に自分で選んだ曲でもあり、どこか楽しく練習を進めているように見受けられます。
大ヒットしたアニメの曲を弾く事になった小学生の生徒さんは、アレンジされた楽譜選びに少々手間取りましたが、最終的に当初選んだ楽譜を使う事になり、譜読みを続けています。ご本人が大好きな曲という事で、よく曲のイメージも捉えられており、「右手だけなら全部弾けるよ~」とノリノリで気分よく弾いています。ただ、ポピュラー系の曲は、ノリと雰囲気で曲を覚えていることが多く、それ自体はとても大切なものですが、それだけで弾いてしまうと、リズムなどが不正確で曖昧なまま覚えてしまっている箇所があることも多いものです。「なんか変だなあ」と弾いている本人も思っているようですが、ポピュラー系の曲はリズムが難しく、楽譜を見てもリズムを修正しにくいことがあります。
この生徒さんも、微妙な表情で弾いている箇所があちこちありました。楽譜でその個所を指しながら、少し説明をしましたが、その後は一緒に弾きながら体でリズムとタイミングを掴むような練習をしています。やはり、一緒に弾きますと曲の完成形が分かりますし、ずれてしまった時に、本来の正しいリズムや音楽の流れと自分の演奏の違いが把握しやすいと思います。この生徒さんも、レッスンの前半辺りまでは「ここ、難し~い」と弱音を吐いていましたが、何回も一緒に弾くうちに段々と掴めたようで、気が付けば黙々と弾いていて、だいぶご機嫌な様子に変化していました。
直ぐ後ろで聴いているお母様も、着々と本来の曲に近づいているのが嬉しそうですし、演奏が終わった時には1歳の弟さんがニコニコしながらパチパチと拍手をしていて、生徒さんは更に笑顔になっていました。このようなご家族の温かい雰囲気と応援が、生徒さんの励みになるんだなあと改めて感じた瞬間でした。
先程のお話で、おやつを食べそこなった生徒さんのお姉さんは、私が発表会の曲選びの時に「この曲はピッタリだし、きっと好きだろうから選ぶだろうなあ」と思いながら、発表会の曲をご紹介したところ、案の定その曲を選び、「やっぱり、この曲にすると思ったわ」と生徒さんとお話をして、「この曲いいよね~」と意気投合したところです。かなり気に入った曲らしく、1回目のレッスンからだいぶ楽しそうに譜読みをしていました。1音ずつ和音が低くなっていくところでは、どうしても最後辺りになると指がずれてしまい、「ええ~?」と自分で自分の指を見て驚きの声を上げながら、時には大笑いしながら弾くのですから、こちらもついつられて笑ってしまう事もあります。
曲の最後の辺りには、グリッサンドが出てきて、爪で鍵盤を撫でるような弾き方をしますが、「この部分は、グリッサンドのスタートとゴールの音が決まっているから、よく狙いを定めて弾いてね」と説明をして練習をしましたが、こちらも「ああああ」と叫びながらゴールの音を通り過ぎたり、慎重すぎてだいぶ手前の音で終わってしまったりと、いろいろとアクシデントがありました。ハラハラドキドキしながらではありますが、楽しいレッスンになりました。
このように、発表会の準備を進めつつ、春という季節がら新しくピアノを始められる方もおられて、体験レッスンも何回か行いました。
小学6年生の男の子は、家の近くのピアノ教室に通っていたそうですが、先生がお辞めになるタイミングでピアノのレッスンをやめたのだそうです。しかし、やはりピアノが弾きたいという事で、体験レッスンにいらっしゃいました。「とにかく楽譜が読めなくて」とおっしゃるので、使っているワーク教材を開いて、音名を聞きますとやはり苦戦していました。改めて確認という事で、基礎的な事や早く音を読むコツなどのお話をしました。その後、持って来た楽譜を出していただきますと7、8曲もあり、数の多さと共に、きれいに製本された楽譜にびっくりしました。
とにかくクラシックの曲が大好きなのだそうで、楽譜は読めなくても、先生の指の動きを見て覚えて弾いていたそうです。実際に、モーツァルトのトルコ行進曲を弾いてもらいました。弾きたいニュアンスをよく掴んでいて、読譜と指を強化していったら、なかなかステキに弾けるようになるのではと思い、体験レッスンでは、何箇所か強弱や弾き方の修正をして、「今後テクニックの練習をすると、もっともっと指が動くようになるので、こういう風に弾きたいというイメージに近い演奏ができるようになると思うわよ」とアドバイスをしました。その後も、大量に持ってきた弾きたい曲について、いろいろと話していて、本当に音楽が好きなんだなあと感じました。
残念ながら、その方よりも先にレッスン枠に入った方がいて、他の枠もご都合が合わないため、今回はご縁がなかったのですが、これからもピアノを好きで弾き続けてくれたら嬉しいなあと思いました。
別の日には、小学2年生の男の子が体験レッスンに来られました。小学校で鍵盤ハーモニカを演奏していて、とても好きそうなので、体験レッスンにいらっしゃったそうです。「鍵盤ハーモニカで、どんな曲を弾いていたの?」と聞きますと、カエルの歌を弾いていたそうで、早速ピアノで弾いてもらいました。しっかりと弾けていて、拍手をして「上手ね~」と声をかけ、「そういえば、カエルの歌の最初の音って、何ていうお名前だったっけ?」「ド」「そうよね。そのドって楽譜に書くと、こんな風になるんだよ」とワークの教材に繋げていきました。
その後は、「ド」だけを使った連弾の曲へと繋ぎ、ピアノにはドがたくさんあることや、右の方は高い音が出ること、左の方は低い音が出ることなども話しつつ、速さを変えたり、強さを変えたり、私が伴奏をペダルを使って演奏した場合と使わなかった場合で、その違いについて感想を聞いたり、最後には好きな強さとペダルの有無を自由に組み合わせて、連弾を完成させました。また、ペダルを使うとピアノの中がどのように変化するのか、ピアノの内部を見てもらい、立ったままですが実際に自分の足でペダルも踏んでみたりして、あっという間に体験レッスンを終えました。
帰りがけにも「体験レッスン、楽しかった!」と受付スタッフさんにも話していたそうで、数日後には入会することが決まり、来週から早速レッスンを始めることになりました。これからどのように成長していくのか、今から楽しみです。
(この記事は、2022年4月4日に配信しました第344号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、「春の曲」のお話です。
各地で桜が咲き始め、正に春本番です。先日「題名のない音楽会」というテレビ番組では、「春が来た音楽会」と題して、新しいことが始まる春にピッタリな、気持ちを明るくしてくれる名曲を特集していました。
ゲストは、俳優の鈴木福さん、声優の林勇さん、ピアニストの小林愛実さん、箏(琴)アーティストのLEOさんでした。
アニメ「東京リベンチャーズ」でマイキー役を務める人気声優で歌手でもある林勇さんが選んだ春の曲という事で、森山直太朗さんの「さくら」を披露していました。旅立つ「はかなさ」と桜散る「はかなさ」がリンクしたところが好きなのだそうです。
ちなみに、鈴木福さんのお母様、お婆様が箏の先生、お爺様と叔父様が尺八の演奏家なのだそうです。なのでという事ではないと思いますが、鈴木福さんが箏で「さくらさくら」を演奏し、森山直太朗さんの「さくら」を歌う林勇さんとコラボしていました。
箏アーティストのLEOさんは、高校生の時に、当時小学生だった鈴木福さんと箏の子供演奏会で出会ったのだそうです。それから月日が経ち、鈴木福さんの奏でる箏の芯のある伸びやかな音を聴いて、成長を感じたと話していました。
ピアニストの小林愛実さんは、天才少女としてデビューし、昨年のショパンコンクールで第4位に入賞された大人気ピアニストです。小林さんは、昨年までアメリカに住んでいたそうですが、パリに拠点を移されるそうで、ヨーロッパに住んだことがないので楽しみとお話されていました。春の曲という事で、メンデルスゾーン作曲「春の歌」を披露していました。優雅で前向きで、春の息吹を感じられる曲ですが、小林さん自身はこれまで弾いたことがないそうで司会者も驚嘆の声を挙げていました。
これまで小林さんの演奏するメンデルスゾーンを聴いたことがなかったのですが、とても柔らかく美しい演奏で、ショパンコンクールで見せていた緊張感と悲壮感、パワフルでアグレッシブな演奏とは、また随分と異なる印象を受け、すっかり日本を代表するピアニストになったなあと感慨深いものを感じました。「空中に出た音が体に溶け込んでくるような印象で、温泉につかった後のような満足感だった」と箏アーティストのLEOさんが、表現豊かな感想をお話されていましたが、大いに納得でした。そんなお話を聞いた小林さんは、嬉しさと気恥ずかしさを感じているような様子でした。
箏アーティストのLEOさんは、昨年、藤倉大作曲「箏協奏曲」をCDリリースした、新世代の箏アーティストです。「勉強が嫌いで箏の練習に打ち込み、勉強しないで生きていくにはどうしたらよいだろうと思い…」と話している最中に、「わかるわかる」と司会者がすっかり共感していて笑いを誘っていました。
そして、中学2年生の時に、プロになる決意をしたそうです。東日本大震災後に、松任谷由実さんがこの曲を用いてチャリティー活動をされていて、過去を思う切なさ・儚さ(はかなさ)が有りつつ、未来への力強い想いも同時に含んでいる所が好きなのだそうです。また、メロディーが5音階(1オクターブの中に、ド・レ・ミ・ソ・ラの5つが入っている音の階段)になっているので、箏との相性も良いのだそうです。
トークの後に、LEOさんが松任谷由実の「春よ、来い」を演奏していました。誰もが知る名曲ですが、箏での演奏は初めてでとても新鮮でした。お話にあった通りに、箏の繊細で儚く、雅な音色ともピッタリで、違和感がないどころか、まるでこちらが原曲と思えるくらいのしっくりさでした。
最後は、なんと司会者の石丸幹二さんが、福山雅治の「桜坂」を披露しました。同じ曲でも、石丸さんが歌うと、ポップスではなくすっかりクラシックに聴こえてしまうのが、当たり前でもありますが、どこか不思議な感じもします。ピアノも、弾く人によって同じ曲でも印象がだいぶ異なりますが、人の声ですと、もっとわかりやすくダイレクトに感じられます。
音楽の奥深さを改めて感じつつ、音楽で季節を感じるという、至福のひと時を過ごしました。
コロナや世界情勢、最近日本各地で起こっている地震など、なにかと暗く不安なニュースが多いですが、なんとか気持ちを明るく前向きに過ごしたいものです。
(この記事は、2022年3月21日に配信しました第343号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、お子様の発表会に向けた曲選びのお話です。
だんだんと暖かい日も増えて、春本番もそこまで近づいているような今日この頃です。
大変な世界情勢に、クラシック音楽界もいろいろな影響を受けており、指揮者や演奏家の降板や演奏会のプログラムの変更なども起きているようです。一刻も早く、平和で穏やかな日々が訪れることを願うばかりです。
3月が近づく辺りから、毎年夏に行われるお子様の発表会の準備を始めています。生徒さんには、あらかじめ「今年の発表会で弾きたい曲やこんな感じの曲が弾きたいなあというものがあったら、今度教えてね」とお伝えしていました。しかし、中学生や高校生は、ある程度自分で選べられても、小学生では、なかなか難しいものなので、生徒さんお一人お一人を思い浮かべながら、レッスンで弾いている曲や使っている教材、過去数年に発表会などで弾いた曲や弾かなかったけれど紹介した曲も考慮しつつ、生徒さんの得意なタイプの曲やこれから伸ばすべきポイント等も踏まえて、総合的に考えて候補の曲を4、5曲選び出しています。
お子様の生徒さん全員分を行いますので、なかなか時間もかかり悩むことも多いのですが、それでも、自分で弾きながら「この曲は、○○ちゃんが気に入りそうだなあ」とか「これは、△△君が好きそうなんだけど、ちょっと難しいから来年紹介することにしようかなあ」などと、あれこれ考えることは、ちょっと楽しい気分にもなります。
時には、「これは、□□ちゃんにピッタリ。だけど、昨年もこの作曲家の作品を弾いていたから、今回はやめておこうかな」なんてこともあり、スムーズに作業が進むとは限らないのですが、本番で生徒さん方が、それぞれ一番好きな曲を、緊張しつつも楽しそうに弾いている姿を想像しますと、自然と紹介する曲選びにも力が入ります。
こうして選んだ候補の曲を、レッスンの時に生徒さんやご家族に説明して、ご自宅で聴いていただき、他にもいろいろな曲を聴いていただきながら最終的に決定していきます。翌週のレッスンで、どの曲を発表会で弾きたいのかお返事を聞ければと思っていたのですが、2、3日後に早くもお返事が次々と入り大変驚きました。と同時に、生徒さんやご家族の皆様が、とても張り切って曲選びをしてくださったようで嬉しく感じました。
「楽譜、用意します!」というご連絡をくださった方や、候補の曲を1曲ずつ聴いた感想を、事細かに知らせてくださった方もいました。中には、「○○の曲は、難しいでしょうか?」とご質問もあり、「その曲は今弾いている教材の、次の次の教材あたりの難易度ですし、オクターブの連打でメロディーを弾いたり、オクターブの分散でメロディーを弾くところもあり、まだ手が小さくて大変なので、もう少し先にとっておいた方がよろしいかと思います」というお返事をしました。そうしますと直ぐに、「そんなに難しい曲だったのですね。もう少し教材が進んでから、挑戦したいと思います」と前向きなお答えを頂きました。憧れの曲を持つことも上達への大切な要素なので、それを励みに、今回の発表会の曲にも取り組んでもらえたらと思いました。
また、「以前から△△の曲を弾きたいと言っているのですが、弾けそうな難易度の楽譜はあるのでしょうか?」というご質問もいただきました。クラシック以外の曲では、いろいろなアレンジの楽譜があり、楽譜によっては初級や中級などと難易度も書かれていますが、これだけではなかなか選びにくいものです。今回ご相談いただいた曲についても、アレンジの楽譜が何曲もあり、同じ難易度でも複数のアレンジがあるので、きちんと楽譜を見てみないと、最も適切な楽譜を見つけられない状況でした。
楽譜をあれこれ見て、一番良さそうな楽譜をご紹介したところ、翌日のレッスンでは、なんと生徒さんが楽譜を持っていらっしゃり、しかもそれだけではなく「1ページ練習してきたよー」と元気よくお話していました。よっぽど好きな曲だったようで、早速熱心に練習してきた様子に、とても嬉しくなりました。
レッスンでは、「難しい~」と何回も口にしていましたが、反復練習をして気が付けばだいぶメロディーが流れて弾けるようになり、口ずさみながら弾けるまでになりました。レッスンに同席されていたお母様も、発表会の曲のレッスン初日にもかかわらず、どんどん弾けるようになってく様子を目の当たりにして、にこやかな表情をされていました。
中学生の生徒さんは、これまでバロック期のバッハや近現代のドビュッシーの曲などを好んで弾いていましたので、他の時代の作品をと思い、ショパン、モーツァルト、メンデルスゾーンの作品をご紹介しました。発表会の曲をどれにするのか、改めて聞いてみたところ、「ショパンの曲が良いなあと思って譜読みを始めて、だいたい弾けるようになって改めて音楽を聴いたところ、思ったよりもだいぶ速いテンポで弾いていて、これを本番で弾くのはかなり大変な事になりそうで、ちょっと難しそうだなあと思って、メンデルスゾーンの曲にしました」とお話をしていました。
「そうなのね。さすが中学生にもなると、仕上げまでの道のりや見通しも考えて曲を選ぶのね」と私も感心してお返事をしました。単に弾けるようになるだけではなく、より興味を持ったり理解を深めるために、メンデルスゾーンの人柄や生活ぶり、家族の話、時代背景などをお話して、次回から早速練習を始めることになりました。
もうすぐグレード試験を迎える生徒さんは、その忙しい最中にもかかわらず、ご紹介した曲をあっという間に聴き比べたようで、2日後には「発表会の曲は、○○にします」とお教室に着くなり、真っ先に答えてくれました。先日、ご両親がグランドピアノを購入されて、「家のピアノが弾きやすい」という事で、ますます日々の練習に精を出しているようです。
グレード試験が終わるなり、翌日から発表会の曲の練習を始めるというスケジュールなので、一息つく暇もなさそうですが、「グレードの試験会場のすぐ近くに楽譜屋さんがあるから、終わったら楽譜を見てみましょうね」と、お母様もおっしゃっていましたし、生徒さんも頷いていました。忙しくなりそうではありますが、発表会に向けても頑張っていただけそうな気がしています。
少しずつコロナが落ち着き始めていますが、今年のお子様の発表会も、概ね昨年と同じく1回の参加人数を例年の半分ほどに減らし、演奏を終えたら直ぐに解散という流れになりそうです。少々味気ない感じですが、安心して参加いただき、1年に1度の晴れ舞台を楽しんでいただけるように、これからしっかりと準備をしていきたいと思います。
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