(この記事は、2023年2月6日に配信しました第365号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、一昨年2021年に開催されたショパン国際ピアノコンクールで優勝したブルース・リウさんのお話です。
ご存知の方も多いと思いますが、ショパンコンクールは、5年に1度ショパンの故郷であるポーランドのワルシャワで開催される世界最高峰の国際ピアノコンクールです。ブーニンやアルゲリッチ、ポリーニなど、そうそうたる大ピアニストを何人も輩出しています。最近、同コンクールで第2位となった反田恭平さんと第4位の小林愛実さんが結婚されたという、おめでたい話題もありました。
ショパンコンクールの優勝者は、一夜にして世界のスーパースターになると言わるほどですが、前回優勝者のブルース・リウさんはどうだったのでしょうか。日本でもコンサート活動を開始されていて、気になるところです。東洋経済オンラインに、ブルース・リウさんのインタビュー記事が掲載されていたので読んでみました。こちらの記事です。
東洋経済オンライン:ショパンコンクール優勝者が語る演奏の本質
ショパンコンクールが始まる前は、誰が優勝するのか意見が分かれていたと思いますが、コンクール後に公開された審査員の採点表を見ますと、ブルース・リウさんは全ての審査員から高評価を得ており(普通は、それなりに分かれると思いますが)、手堅く優勝を勝ち取ったことがよくわかります。
この記事には、昨年12月の来日公演の様子も書かれていました。やはり、ショパンの作品を演奏しましたが、それだけではなくラヴェルやリストも弾かれ、アンコールでは、なんと5曲も弾いたとのこと。アンコールは、通常1、2曲演奏することが多いわけですが、いかにリサイタルが盛り上がり、素晴らしい演奏だったのかが伺い知れます。しかも、アンコール曲を1曲弾くごとに、スタンディングオベーションが起こったそうですから、当日足を運ばれた観客の皆さんが羨ましくて仕方ありません。
ショパンコンクールで優勝した後は、短期的にも長期的にも時間の使い方が変わり、緻密なスケジュールが要求されると話されていますが、その中でも音楽を弾く喜びやエネルギーを失わないように大切にしているそうです。コンクールに優勝すると、それを重圧に感じる方が多い中、ブルース・リウさんは、聴衆からの期待と前向きに受け止め、ショパンだけでなく、いろいろな作曲家の作品を弾いてレパートリーにしたいと答えていました。
ブルース・リウさんが、ショパンコンクールに出場したのは24歳のときで、ある程度人として成長し、メンタル的にも成熟してきたタイミングでの出場がとても良かったと話しています。ショパンコンクールは、冒頭でもお話したように5年に1回の開催で、しかも年齢制限がありますから、ご自身に良いタイミングで参加できる確率は高くありません。また、審査員の顔ぶれを見て、いわゆるウケのよい演奏を目指すのではなく、自分の個性と、表現したいものを出し切ることに専念したと話しています。
200年くらい前に活躍した本当のショパン像は誰にもわからないわけですが、とても複雑で多面的な人だったと捉え、固定概念を持たず、即興的な部分も大事に、これからもどんどんショパンを掘り下げていきたいと意欲を語っていました。
私もショパンコンクールのライブを聴いて、ブルース・リウさんの演奏は、きっちりと練りに練ってこれ以上はないという完成されたものというよりも、どこか何物にも縛られない、自由な音楽という印象を持っていたのですが、記事を読んで、「ああ、やっぱり。なるほど」と腑に落ちた感じがしました。そのような考えに、ショパンを練習することで身に着いた柔軟性が加わり、コンクールでの演奏に結び付いたのだと思いました。
スポーツ好きで、美術や文学、歴史にも大変興味をお持ちとのこと。またジャズも好きでよく聴いているそうで、かなり多趣味な面も、ブルース・リウさんの演奏に影響を与えているようです。多面性・多様性を大切にしていることが垣間見れます。
反田さんや小林さんのように、テレビやイベントなどでよく拝見するわけではないので、今回のインタビュー記事は、とても興味深く読む事ができました。演奏だけでなく、このようなインタビュー記事を読む事で、ピアニストの人となりを知ることができ、今後演奏を聴く楽しみも変化してくるでしょうし、より興味を持って聴くことができそうです。
しばらくは、ショパンコンクールの覇者という肩書で演奏活動をすることが多いのでしょうが、その肩書が取れた時、どんなピアニストになっているのか、今後の進化にも大変注目したいところです。
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