(この記事は、第95号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「ピアノ教室の出来事」は、定年退職を機にピアノを習い始めた生徒さんのお話です。
この生徒さんは、昨年からピアノ教室に通われており、まだ半年未満です。
昔からピアノに憧れていたという感じではなく、「時間が出来たので、ちょっとやってみようかな」と思われたようです。
学生時代に少しギターを弾いていたそうで、少しだけ楽譜が読めるという状態でレッスンがスタートしました。
大人の初心者用の教材では、始めの方は連弾曲になっていて、両手を使うのですが同時に使うことはなく、どちらかの手だけを使って弾く曲になっています。
少し音が読めましたので、すぐに弾けるようになり、しかも恐る恐るゆっくり弾くという事ではなく、すらすらと軽やかなテンポで弾いていました。
たまに指番号を間違えてしまうことはありましたが、結構よいペースで教材を進められそうだと思っていました。
教材も進み、少しづつ曲も長くなり、いよいよ両手で同時に弾く曲に入りました。
最初は、両手とも同じ音を弾くような練習曲でしたので、大した問題もなくすぐに仕上がり、次の曲以降は両手で同時に違う音を弾いたり、それにプラスして両手で違う長さの音を弾くような曲(右手と左手が違うリズムの曲)になっていきました。
通常、ピアノの曲はこのような曲が殆どなのですが、初心者の方には、これがとても難しく感じるものなのです。
どちらかの手の音を伸ばしておくことはわかっていても、いざその個所になると手を間違えてしまったり、固まってしまうこともありますし、うっかり忘れて通り過ぎてしまうこともあります。
この生徒さんの場合は、焦ってテンポがとても速くなり、難しい個所でつまずいた後は、そのまま ずるずると弾けていた所まで弾けなくなってしまう状況でした。
続けて何回か弾きますと、曲の弾き始めからテンポが速くなっていて、勢いで弾いてしまおうという感じにも見受けられました。
しかし、たまにとても上手に弾ける時もあるのです。
実は、有名な曲を弾く場合、曲をご存じの事もあり、なんとなく「こんな感じかな」という雰囲気で弾いて、たまにスラ~と弾ける時があるのです。
「あっ、今、とてもよく弾けましたね」という事にはなるのですが、本当に理解した上で弾いているとは言い難く、その後似たようなリズムの曲を弾く時に、同じように弾けるのか、少し不安が残るのです。
この生徒さんは、ゆっくりなテンポで弾いてみますと、左右の手が混ざらずに、しかも正しいタイミングで弾けていましたので、とにかくゆっくりなテンポで練習をするようにお話をしてみました。
「ゆっくりなテンポですと、しっかりと弾けていますので、ご自宅でも速くならないように気を付けて見てくださいね。ただ、ゆっくり弾くのは、わかっていても結構難しいですし、曲のイメージからしますと速く弾きたくなってしまうと思います。慣れるまでは相当な忍耐力が必要なので、あまりストレスが溜まらないようにして下さいね。」
ゆっくり弾くということは、次の音やリズムなどを考える時間ができますから、本来は簡単なはずなのです。速く弾く方が、指が上手に動かせなかったり、リズムを間違えてしまったりと難しくなります。
しかし、頭で理解して意識して指を動かしていない場合、ゆっくり弾くと曲のペースが狂ってしまい、これまで弾けていた所までわからなくなってしまう事になるのです。
小さいお子様の生徒さんでも、「この速さじゃないと弾けない!」と話されることがたまにありますが、それもコントロールして弾いていないという事ですので、改善が必要
になります。
この生徒さんは、先日のレッスンでは少しミスがあったものの、随分とコントロールして弾くことが出来るようになり、音楽の安定感も少しづつ見えてきました。
「この1週間で、随分と変わりましたね、びっくりしました。結構大変な練習だったと思いますが、相当練習をなさったのではないですか?」とお話しますと、
「それほどでも・・・。でも、ゆっくり弾くように気を付けてやっていました」と、少し照れながら話されていました。
テンポの安定やコントロールして弾くことが定着するまで、まだしばらく時間がかかると思いますが、焦らずに良い意味でマイペースに進めていければと思います。
また、大人の生徒さんですので、難しいことを習う時の説明や共感、フォローも欠かさないようにしようと、改めて感じました。
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