(この記事は、2023年9月11日に配信しました第380号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、生誕150年を迎えたラフマニノフについてのお話です。

先日、「東大新聞オンライン」の記事で、音楽家のラフマニノフを取り上げていたので読んでみました。こちらの記事です。

【東大音ひろば】ラフマニノフ~ピアノで魅せるロシアの巨匠~

東大新聞オンラインは、東京大学の学生が独自の目線で執筆・編集している学生新聞だそうです。教授のインタビューや科学のニュース、東大の研究やスポーツ速報、学生主催のイベントなどの情報を発信しています。

「学生目線が他のメディアにはない強みです」と書かれていましたが、東大生がクラシック音楽を語るという時点で少し不思議な気もします。しかし、東大大学院卒のピアニストもいますし(ショパンコンクール・セミファイナリストであり、YouTube で、Cateen かてぃん として活動されている角野集斗さん)、東大生が子供の頃に楽器を習っていた割合は、一般的な小学生が楽器を習っている割合の倍以上というデータもあります。また、40年以上の歴史と現在も220人以上の在籍者がいる「東京大学ピアノの会」というサークルがある事などを考えますと、決して意外な事ではないことがわかります。

ちなみに、東大生が子供の頃に通っていた習い事については、以前、東洋経済オンラインの記事に掲載されていましたが、ランキングで第2位がピアノ、第7位にはヴァイオリン・エレクトーン・その他音楽教室系が入っていました。音楽系ということでまとめると6割となり、個人的には想像以上に多いという印象を持ちました。お父様お母様の立場で見たら、勉強もできて、楽器も演奏できてと理想的なお子様像に見えるかもしれません。

この東大新聞オンラインの「東大音ひろば」というコーナーの第1号で、ラフマニノフが取り上げられました。記念すべき第1号にベートーヴェンやモーツァルトなど、誰もが知っている音楽家ではなく、ラフマニノフを取りあげたところも若干捻っているというのかマニアックな感じもしますし、このご時世に、わざわざロシアの音楽家を取り上げなくてもとも思いましたが、単に今年生誕150年を迎えた作曲家として取り上げたようです。

出生と名字の由来から話は始まり、10代後半に作曲を本格的に学び、早い段階でチャイコフスキーなどから高い評価を受けたこと。交響曲第1番の初演で失敗したこと、その後作曲が出来なくなり、ピアノ協奏曲第2番で大成功を収めたことなどが書かれていました。ラフマニノフを語る時には、よく出てくる有名な話です。

18歳で、モスクワ音楽院のピアノ科を主席で卒業し、翌年には同じ音楽院の作曲科を主席で卒業したのですから、どれほど音楽的な才能を持っていたのかが伺い知れますね。ちなみに、ラフマニノフのピアノ曲で「前奏曲 嬰ハ短調 作品3-2 鐘」という有名な曲があります。2010年のバンクーバー冬季オリンピックで、フィギュアスケートの浅田真央選手が、この曲に合わせて演技を行い銀メダルを獲得して、一気に曲の知名度が上がりました。実際に、ピアノ教室の生徒さん方からも、弾いてみたいというお話を聞きましたし、私も講師演奏でこの曲を弾きました。この「鐘」は、ラフマニノフが作曲科を卒業した年に書かれた作品です。

また、交響曲第1番の初演の失敗については、ラフマニノフ本人にとってはかわいそうなくらい有名な話ですが、その理由については東大新聞に書かれていませんでした。指揮者のグラズノフが酔っ払っていて酷い指揮をしたとか、初演した場所が当時ラフマニノフが属していたモスクワ楽派と対立関係だったことが影響したとも言われています。その他にも、スコア(指揮者が使用する、全部の楽器のパート譜をまとめて書かれている楽譜)とパート譜(個々の楽器の楽譜)の不備がかなり多かったこと、初演時に他にも新曲がいくつかあり、オーケストラの練習が不足していたこと、初演前にラフマニノフの師匠に聴いてもらったところメロディー自体にダメ出しをされ、リムスキー=コルサコフにも、「この音楽は全く理解できない」と酷評されていて、音楽が時代よりも先に進んでいたため、聴衆に受け入れられず失敗となったことなども理由として挙げられるようです。

まだ24歳だったラフマニノフには、この失敗はかなりダメージが大きく、作曲活動が出来なくなるくらい精神的に追い詰められますが、精神科医のサポートなどもあり、27歳の時にピアノ協奏曲第2番を発表し、今度は大成功を収めて見事に復活しました。

東大新聞オンラインでは、この作品について「二重らせんを成すかのように整然とした調和」「ラフマニノフの高貴な出自をうかがわせるかのような華やかな宮殿風のメロディー」などの言葉が並び、なかなか高尚な雰囲気を漂わせる解説でした。そして、ラフマニノフのピアノ曲の難易度の高さから、全ピアノ作品を収録したピアニストが少ない事や、この記事を書いた筆者のお勧めのピアニストの収録についても書かれていました。

記事は、東大生の文才を感じるような文章で、最後まで興味深く読む事ができました。第2回目が、早くも楽しみです。

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(この記事は、2023年7月31日に配信しました第377号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、ピアノメーカーのお話です。

先日、ニューズウィーク日本版に、日本のピアノメーカーであるヤマハとカワイの記事が掲載されました。

ニューズウィーク日本版:ヤマハとカワイ「日本製ピアノ」が世界の舞台で愛される理由とは?

まずは、ピアノの歴史から始まります。17~18世紀に活躍をしたJ.S.バッハの時代には現在のようなピアノは存在せず、19世紀に入ってから本格的にピアノが使われるようになりました。19世紀当時は、いろいろなピアノメーカーがありましたが、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世によって、ピアノ制作技術者として初の「宮廷及び王室御用達ピアノ製造技師」の称号を与えられたのがベーゼンドルファー社でした。

以前、生徒さん方に、いろいろなメーカーのピアノの弾き比べをしていただき、どのメーカーのピアノの音色が一番好みなのかと聞いたことがありました。スタインウェイがダントツで人気なのではと思っていたのですが、結果はベーゼンドルファー社のピアノがダントツで人気でした。木の温かみやぬくもりが感じられる柔らかい響きが、よかったそうです。

かのフランツ・リストは、ベーゼンドルファー社のピアノの頑丈さと高品質を絶賛したそうで、リストが大勢の観客の前でピアノを弾いている様子を描いた絵画のピアノも、リストが晩年住んでいた家に置かれているピアノもベーゼンドルファー社のピアノです。リストが大変好んでいた様子が伝わってきます。

フランス音楽の大家でもあるドビュッシーは、ベヒシュタイン社のピアノを絶賛していましたが、ベーゼンドルファーもベヒシュタインも、著名人に使ってもらったことで知名度やブランドの価値が上がったという事になります。

現在ではどの業界でも行われている事ですが、この手法を戦略的に使ったのがスタインウェイ社でした。ニューヨークとハンブルクに工場を持ち、現在ではピアノと言ったら、どこのホールにも必ずと言っていいほど置いてあるのがスタインウェイ社のピアノです。発表会などで弾いたことがある方も、多いかもしれません。ラフマニノフやルービンシュタイン、ホロヴィッツにグールド、アルゲリッチなどなど歴史上の大ピアニストたちがこぞってスタインウェイ社のピアノを使用していて、大ホールでも大きな音量で音が響き、華やかな音色が特徴のピアノです。

第2次世界大戦でドイツが敗戦し、ベーゼンドルファー社やベヒシュタイン社のピアノが衰退したことも影響して、現在のような、どこのホールにもスタインウェイ社のピアノが置いてあるという状況になったのだそうです。

日本では、医療器具の修理をしていたエンジニアの山葉寅楠(とらくす)が起こしたヤマハ社が、1900年にアップライトピアノの製造を開始します。それから100年後の2002年に行われたチャイコフスキーコンクールのピアノ部門で、上原彩子さんが日本人で初優勝を果たしましたが、その時に使用されたのがヤマハ社のピアノでした。上原さんがヤマハ音楽教室の出身という事もあって、ヤマハは大々的に広告を出して大きな話題となりました。そして、2010年に開催されたショパン国際ピアノコンクールでは、アヴデーエワがヤマハのピアノを弾いて優勝します。ピアノメーカーにとって、世界が注目するコンクールで、自社のピアノを弾いて優勝してもらう事は大変な宣伝になります。

ちなみに、前回2021年のショパンコンクールでは、ブルース・リウさんが、イタリアのファツィオリ社のピアノを弾いて優勝しました。大変こだわったピアノ作りをしていて、そのために生産台数もかなり少なく、歴史が浅いにもかかわらず知名度や人気が急上昇しているピアノメーカーです。私の周りでも、ファツィオリ社のピアノの評判は高く、日本でも少しずつホールに置かれるようになってきていますので、これから弾く機会も増えてくるのかもしれません。

ヤマハは、ショパンコンクール後に新モデルのピアノを発表し、コロナ禍においても売り上げを伸ばし、気が付けば現在世界のピアノシェア第1位はなんとヤマハなのだそうです。「ヤマハは、品質が安定していて、どこか不具合があっても、部品を取り換えれば直るけれど、海外のメーカーは1台ずつ個性的だから、どこか不具合があった時に、部品の入手や本体の楽器との相性などで、直すことが簡単ではない」と、以前調律師さんが話していたことを思い出しました。

世界各国で気温や湿度など、ピアノを置く環境も違いますから、メンテナンスのしやすさは、世界シェアを広げる一つの要因になったのかもしれません。

このニューズウィーク日本版は、最後にヤマハ、カワイ、スタインウェイ、ファツィオリ各社のピアノで演奏している YouTubeの動画が掲載されています。いずれも、ショパンコンクールで優勝および好成績を残したピアニストのコンクール本番の演奏で、当然ながら演奏されているホールも同じという事になります。ピアニストの技術の高さや演奏解釈などではなく、ピアノの音色に注目をして聴き比べをしてみると、メーカーによってこんなにも音色の違いがあるのかと驚くかと思います。

ご自身の好みのピアノが見つかると面白いですね。

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(この記事は、2023年5月29日に配信しました第373号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、「音楽家のマリアージュな世界」という本のお話です。

最近、音楽之友社から出版された「音楽家のマリアージュな世界」というムック本を読みました。クラシック音楽ファンだけでなく、食べることが好きな方、お料理が好きな方にも、自然な形でクラシック音楽に耳を傾けてもらえるような、音楽家の食や趣味に特化した業界初の試みなのだそうです。クラシック音楽の堅苦しさや、長くて退屈、理解しにくいという固定概念を覆して、食や趣味で読者を引き込みたいという事で、様々な魅力あふれるコーナーが掲載されています。

音楽家とお酒のステキな関係を紹介している「マリアージュなこの1本」というコーナーや、大作曲家たちが食したであろう料理を再現した「歴史的大作曲家たちの食卓」、演奏家や音楽家のお宝にフォーカスした「コレクションのマリアージュ」、演奏家たちの演奏から受ける印象、インタビューなどから受ける人柄から考案されたオリジナルレシピを紹介する「30人のアーティストに捧げる口福レシピ」など音楽と食と趣味のコラボレーションで、気になるコーナーから読めるような作りになっています。

「マリアージュなこの1本」では、ヴァイオリニストや指揮者、ピアニストにチェリスト、オーボエ奏者などが登場し、音楽の事やお酒のこと、選んだお酒に合う料理のことなどを語っています。フォルテピアノの演奏家である川口成彦さんは、高校時代にスペイン音楽に興味を持ち、20歳の時に初めてスペインを旅行して、その時にシェリー酒に魅了されたというお話をしていました。演奏会の後にシェリー酒を飲みたくなるそうで、スペインの空気、歴史、文化とも密接に繋がるシェリー酒が音楽にも繋がり、スペインの音楽ともリンクするのだそうです。

ピアニストの入江一雄さんは、国内外のクラシック演奏家が集う行きつけの寿司屋さんで、ミュンヘンのビアホールでもらったジョッキで、エビスビールを飲みながら、お店のスペシャリテのお料理を食すのだそうです。お店の店主は、何を作っても最上級のものに仕上げていて、この姿勢が音楽にも通じるものがあり、様々な分野の音楽全てにおいて最高のものを目指したいとお話されていました。

ピアニストの小川典子さんは、川崎市のミューザ川崎コンサートホールのホールアドバイザーを務めていることもあり、ホール近くのホテルのダイニングレストランを選んでいました。リーズ国際ピアノコンクール第3位をきっかけに、たくさんのコンサートのお仕事が舞い込んできたそうで、今もイギリスを拠点に日本と行き来しながら演奏活動をされているそうです。英国では、ローストビーフが最高のごちそうで、特別な食事に欠かせないそうで、それに赤ワインを合わせて楽しんでいるそうです。

その他にも、ピアニストの伊藤恵さんは、行きつけのビストロに家族や音楽仲間と訪れて、ブルゴーニュの赤ワインを楽しむそうですが、音楽のインスピレーションをもらいに来ていると言ってもいいかもしれないと話されていたり、バーンスタインの愛弟子である指揮者の大植英次さんは、バーンスタインを思い出すというウイスキーのソーダ割や、洋食屋さんの名物「カツカレー」の話など、普段舞台の上で演奏している姿しか見ない演奏家の、演奏後の過ごし方などが垣間見えるようで、なかなか興味深く読めました。

お酒好きな方で、特にワイン好きでしたら、「ワインと音楽のマリアージュ」のコーナーがピッタリかと思います。ショパンコンクール日本人最年少入賞者であり、ショパンの全曲演奏でギネス世界記録も持っている横山幸雄さんは、ワインエキスパートの資格を持ち、イタリアンレストランも経営されているというピアニストです。フランスに留学している時からワインに親しんでいるそうで、日本でワインエキスパートの資格が始まった第1回目の試験で合格して、資格を取得したそうです。それぞれのワインがどのように違うのか、どのような好みで人はワインを選ぶのか、おいしさの違いはどこから来るのかなど、たくさんの書物を読んで研究し、実際に様々な種類のワインを飲んできたとのことです。その横山さんが、比較的リーズナブルなワイン2本と、多少値が張るワイン2本から、イメージするショパンのピアノ作品を選定して紹介しています。ワインについての話と、イメージされるショパンのピアノ作品の話と細かく解説が書かれていますので、ワインを飲んで音楽を聴くもよし、音楽を聴いてからワインを楽しむもよしと、それぞれの楽しみ方ができると思います。記事の最後には、「次回は、ショパン以外の作品にも合うワインを聞いてみたい」と書かれていましたので、続編が出るとしたら楽しみです。

「コレクションのマリアージュ」では、長らくNHK交響楽団の顔として国内外で活躍されてきたヴァイオリニストの篠崎史紀さんが、ご自身のコレクションから、マイセンの「ミュージッククラウン」シリーズを紹介していました。型を用いない製作技法で、様々な楽器をピエロが演奏しているシリーズです。もともと、食器を集めるのが趣味で、よく入り浸っていたお店のすぐそばにあるマイセンのお店を覗いて、一目で欲しくなったのだそうです。そこそこ値が張ることもあって悩んだそうですが、結局は購入して、その後は、欧州に行くたびに購入して少しずつ集め、12年から13年かけてコンプリートしたそうです。ユーモラスで且つ美しく、ピエロの表情に、人間の感情の全てがあるところがお気に入りなのだそうです。

他にも、スワロフスキーのスターウォーズのオブジェや、デュポンのスターウォーズ リミテッドエディションの万年筆を紹介していました。どれも、とても思い入れが強い様子が手に取るように伝わってきて、とても面白かったです。ご自宅は他にもステキなもので溢れていましたが、ちょっとだけ背伸びしたら手の届くようなお気に入りを少しずつ集めて、それを並べるのが至福の時間で、そのために仕事も頑張れるというお話が、とても印象的でした。

この本の最後のコーナーには、「30人のアーティストに捧げる口福レシピ」があり、様々な演奏家の紹介と共に、お料理のレシピが掲載されています。なるほどと思う演奏家と料理の組み合わせもあれば、意外と思う組み合わせもありましたが、料理の写真も大きく掲載され、実際に作って食べることができるのは興味をそそられます。

和食、洋食、ヨーロッパの郷土料理、ジャム、サラダなど、お料理の種類もいろいろありますので、このコーナーのレシピだけで、立派な献立が作れそうな気さえします。「歴史的大作曲家たちの食卓」にも細かいレシピが書かれていますので、実際に作って食しながら、その演奏家の作品を楽しむという贅沢な時間が楽しめそうです。

大変画期的で、音楽とグルメをここまで融合させた本は初めてでした。軽く読めるのに情報量が多く、なにより読んでいて大変楽しいものでした。早速、大人の生徒さん方におススメしたいと思いました。

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