謹賀新年 2024


2024年1月22日


(この記事は、2024年1月8日に配信しました第388号のメールマガジンに掲載されたものです)

新年を迎えましたが、能登半島での地震や羽田空港での事故などが相次いで起こり、大変な思いをされている方々も多くいらっしゃるのではないでしょうか。亡くなられた方々へのご冥福と、一日でも早い復興を祈りつつ、微力ながらもお役に立てる事をしていきたいと思っています。また、このような時こそ、音楽の力で希望が見いだせたり、つかの間の癒しが得られたら幸いです。

新年1回目は、2024年にメモリアルイヤーを迎える音楽家についてのお話です。何人もの音楽家がいる中で特に有名な人というと、スメタナやヨハン・シュトラウス1世、リムスキー=コルサコフ、ホルスト、フォーレなどが挙げられます。

スメタナは、チェコの作曲家で生誕200年を迎えます。スメタナの代表作というと、交響詩「わが祖国」より第2曲「モルダウ」が真っ先に挙げられるのではないでしょうか。なんとも言えない哀愁の漂う音楽は、大変印象強いものがありますね。

ヨハン・シュトラウス1世は、オーストリアのウィーンの音楽家で生誕220年を迎えます。通称「ワルツ王」とも呼ばれました。ウィーンナーワルツの基礎を築いた音楽家です。息子のヨハン・シュトラウス2世や、他の息子達や子孫も音楽家になっています。代表作は、「ラデツキー行進曲」がまずは挙げられます。大変華やかな音楽で、毎年、世界中で放映されているウィーンフィルハーモニー交響楽団のニューイヤーコンサートで必ずアンコールに演奏され、指揮者の合図で、聴衆が手拍子をしながら音楽を楽しむのが、お決まりの光景です。

リムスキー=コルサコフは、ロシアの作曲家で生誕180年を迎えます。「ロシア5人組」の一人で、プロコフィエフなどの後のロシアの作曲家達やフランスの作曲家ラヴェルなどにも大きな影響を与えました。「熊蜂の飛行」が一番有名な曲と思います。目の前で、蜂がブーンと飛んでいるような光景を、とても速いテンポの音階の上下で表現していて、一度聴いたら忘れられないような音楽です。

ホルストは、イギリスの作曲家で生誕150年を迎えます。あまりピンとこない方も多いかもしれませんが、組曲「惑星」の作曲家、または平原綾香さんの「ジュピター」の原曲を作曲した人という紹介の方がわかりやすいかもしれません。地球を除く7つの太陽系惑星に、それぞれ1曲ずつ作られた組曲で、この組曲1つで大変有名な作曲家になりました。宇宙をテーマにした音楽ですから、ロマンを感じます。

フォーレは、没後100年を迎えるフランスの音楽家です。作曲家だけではなく、ピアニストやオルガニストとしても活躍をし、ラヴェルなどを育てました。儚さと優美さを兼ね備えた「シシリエンヌ」は、大変美しい音楽で聴いたことがある方も多いのではと思います。

そして、日本の音楽家である團伊玖磨(だん いくま)も忘れてはならない音楽家で、生誕100年を迎えます。上皇ご夫妻のご成婚の際に「祝典行進曲」、天皇皇后両陛下のご成婚に「新・祝典行進曲」を作曲したり、日本を題材にしたオペラ「夕鶴」、ラジオ体操第2の音楽なども作曲しました。誰もが幼少期に歌った「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「おつかいありさん」は彼の代表作でもあり、最も有名な曲だと思います。

今年も、いろいろな楽しい音楽のお話をお届けしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

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(この記事は、2023年12月18日に配信しました第387号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、12月6日に出版されたばかりの「指先から旅をする」という本のお話です。

たまたま何かふとした時に、この本が近々出版されることを知り、慌てて先行予約をして入手しました。なにしろ、大人気ピアニスト藤田真央さんの初エッセイという事ですから、大変注目度が高いのではないかと思います。本の帯にも、「Amazon演奏家・指揮者・楽器の本 第1位」というマークが大きく書かれていました。

木漏れ日の降り注ぐ森の中の小道で、藤田さんが無邪気にピアノを楽しそうに弾いている姿の描かれた表紙は、美しい風景を見ているかのような感じさえして、ついうっとりと見とれてしまいました。

演奏家の本といっても、ライターの方が演奏家を取材して書かれたものもありますが、この本は、「WEB別冊文藝春秋」に掲載されている連載のエッセイをまとめたもので、藤田さん自らが文字を綴ったものです。忙しい演奏活動の中で書かれたのかと思うと、それだけで驚嘆してしまいます。「WEB別冊文藝春秋」は、フリーで読めるのは前半の少しだけですし、今回の本は出版されたばかりで、これから読もうと楽しみにされている方もいらっしゃるかと思いますので、その楽しみを阻害しないように気を付けつつ、でも印象に残ったことなどを少し書いていきたいと思います。

この本は、2021年から23年までの2年間の記録をまとめたもので、260ページ以上ある本ですが、写真も多く掲載され、各項目ごとのお話は短く、インタビュー記事や対談のコーナーもありますので、すいすいと読み進めることができます。写真は、藤田さんの演奏会の写真や、街中でのスナップ写真など、いろいろなものが掲載されていますが、印象深かったのは、藤田さんが使用されている楽譜の写真です。リストの作品の楽譜なのですが、藤田さんの恩師である故・野島稔さんからのアドバイスも書き込まれています。ピアニストの使用している楽譜、しかも書き込みがされているものなんて滅多に見ることができませんので、必見かなと思いました。

故・野島稔さんは、日本を代表するピアニストで、東京音楽大学の学長も務めていました。高校3年生の時に日本音楽コンクール第1位を受賞、その後ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール第2位も受賞され、カーネギーホールでデビューコンサートを行いました。ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールやエリーザベト王妃国際コンクール、仙台国際音楽コンクールなど数々の国際コンクールの審査員も務め、国際的に大変評価の高いピアニストです。平成25年度には、日本学術院賞も受賞されています。

野島先生とは、藤田さんが11歳の時に出会ったそうです。全日本学生音楽コンクールの小学生部門で、藤田さんが第1位を受賞された時に審査員をされていたのが野島先生でした。小学生の部を初めて審査したら、藤田さんに出会ったということですから、何かご縁があったのかもしれませんね。その後、野島さんは東京音大の学長となり、しばらくして藤田さんは東京音大の付属高校に入学、さらに同大学へ進学され、17歳くらいから野島先生の直接指導を受けるようになったそうです。そこで、「野島イズム」ともいうべきピアノ演奏への向き合い方や演奏法をたっぷりと学んだそうです。一音一音の響きを大切にすることやハーモニーへのこだわりは、野島先生から受け継いだものと書かれています。

野島先生とのレッスンの様子も描かれています。ピアニストがどんなレッスンを受けてきたのか、なかなか知ることができませんので大変興味深く読みました。いくつか、印象深い言葉を挙げておきます。

・ピアノは「弾く」のではなく、鍵盤を「押さえる」もの・左右それぞれの音の響きを合わせる
・弾き方は自由でよろしい、その代わり、あなたの理想とする音に近づけるよう努力しなさい

全ての意味は分かりませんが、でも、これらの言葉からストイックに真摯さを持ってピアノに向き合うという姿勢が見えてくる気がしました。以前、藤田さんが海外でのコンサートが増えていた時期に、「いろいろな経験を積んで、人間として見聞を深めたい」と話したそうです。この時の野島先生の答えが、大変驚きました。「音楽を学ぶ以上に、幸せなことなどあるのでしょうか。」世界各国で演奏活動をされてきたピアニストの発言は、大変重みがあるなあと感じました。藤田さんも、この言葉を心の大切な場所に刻み付けていて、折に触れてこの言葉や野島先生の声を思い出すでしょうと綴っていました。

全体を通して、藤田さんの感受性の豊かさと、語り口の丁寧さを感じました。そこがまた、藤田さん得意のモーツァルト作品の演奏にも通じるものがある気がします。

ちなみに、この「指先から旅をする」の愛蔵版の発売も決定したそうです。写真をたくさん見たい方や動画も見たいという方は、こちらの愛蔵版の方が良さそうですね。

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(この記事は、2023年12月4日に配信しました第386号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、仲道郁代さんのピアノリサイタルのお話です。

先日、仲道郁代さんのピアノリサイタルに行ってきました。2000人以上の客席数がある、かなり大きなホールで行われました。通常、このくらい大きなホールで演奏会が行われる場合は、オーケストラとの協奏曲を弾く時が多く、そうでない場合は、もう少し小さいホールで行われることが多いように思います。海外の巨匠クラスや大人気の演奏家などでないと、数千人のお客さんを集めることは大変だと思いますから、仲道郁代さんの人気ぶりが伺えます。

会場の入り口に着く前から、大勢のお客さんが一斉にホールを目指して歩いていて、「人が多くて凄いね」と友人と話しながら会場に向かいました。コロナがきっかけだと思いますが、ホールスタッフがお客さんのチケットの半券をちぎって渡す「チケットもぎり」がなくなっています。今回も、チケットを見て確認するのみでしたので、スムーズにホールに入ることができました。開演10分前くらいに到着しましたが、既にかなりのお客さんが入っていましたし、「本日は満席のため…」という会場アナウンスも流れていて、やっぱり客席が埋まっていて人気なのだなあと改めて感じました。

リサイタルは、ベートーヴェンのピアノソナタ「月光」から始まりました。黒地にゴールドの柄の入ったドレスを着た仲道さんが登場し、自ら「月光」というタイトルについての解説を話してから演奏をされました。解説が終わってマイクを置いた瞬間に、すぐ演奏が始まりましたので、弾く前に呼吸を整えるとか、集中力を高めてからという行動が全くないように見えてビックリしました。おそらく、解説をしながら既に演奏モードに入っているのかなあと思いますが、リサイタルの全ての流れを、完全にご自分のベストなタイミングでコントロールされているようでした。

「月光」は、全楽章を一気に弾かれていたので、とてもまとまりのある演奏でしたし、キャリアを重ねてこられた深みを感じるもので、さすが日本を代表するピアニストだなあと思いまいした。仲道さんは、近年ベートーヴェンに力を入れて取り組まれていて、私も以前から興味を持っていました。と言うのも、仲道さんが30代くらいの時に、ベートーヴェン研究家の故・諸井誠先生から、徹底的な楽譜の読み方や解釈を教えていただいたそうで、それがピアニスト人生の大きなターニングポイントになったとインタビュー記事で答えていたからです。これほど思い入れのあるベートーヴェンの演奏を、プログラムの最初に聴くことができて、既に満足した気分になりました。

その後は、ベートーヴェンと同じくドイツ系の作曲家ブラームスの晩年の小品を、数曲弾かれました。ブラームスを語る時に、切っても切れないのがシューマン夫妻との関係性です。三角関係だったとか、ブラームスの片思いだったとかいろいろと言われていますが、仲道さんの解説では、深い友情というような内容でした。ロベルト・シューマンの評論でブラームスの知名度が上がり、そのロベルトの奥さんのクララは、天才少女として各国に演奏旅行してきた名ピアニストともなりますと、ブラームスから見ると、自分の名を世に紹介してくれた恩人と、憧れの先輩ピアニストと捉えていたかもしれません。そこに深い友情が芽生える事にも、納得できる気がします。リサイタルでは、小品集の中から数曲の演奏でしたが、あっという間に演奏が終わってしまいましたし、とても味わい深い演奏をされていましたので、続きの作品も聴きたくなってしまいました。

休憩後の後半は、ショパンの名作がずらっと並んでいるプログラムになりました。

舞台に登場した仲道さんは、淡いピンク色のオーガンジーのような軽やかな生地のドレスを纏って登場されました。まさかドレスのお召し替えをされるとは、客席の誰もが思っていなかったようですし、仲道さんに大変よくお似合いのドレスだったこともあるのか、登場した瞬間に「うわ~」という驚きとため息交じりの声が上がっていました。

マイクを持ち、「今日は、ピアノを弾かれている方がたくさんお見えになっているとお聞きしましたので、プログラムには載っていないのですが、ショパンの幻想即興曲を演奏します」と話され、嬉しいサプライズにひときわ大きな拍手が沸き起こっていました。ピアノを弾いている方にとっては、いつかは弾いてみたい憧れの曲ですが、このくらい大変有名な曲ともなりますと、意外にリサイタルの曲目に並ばないものです。

「曲の途中の明るい場面になるところで、どこか懐かしい感じがしますが、何故そのように感じるのか?」という仲道さんの問いかけに、「ああ、確かに何故だろう?」「調性の影響かしら」と思っていました。会場のあちこちで、「?」という雰囲気のささやき声などが上がり、「今、理由を聞きたい?」と物腰柔らかな話し方で、仲道さんが話しかけていて、会場の雰囲気が一気に明るく楽しく変化していきました。「何だろうと思いながら、聴いてみてください」というトークの後、間髪入れずに演奏が始まり、演奏に種明かしがありました。

この曲は、最初のメロディーの音の長さを引き延ばした形で作られていて、結局ずっと同じメロディーを聴いているから、懐かしく聴こえるというものでした。曲の背景だけではなく、楽曲分析のようなトークも、曲を理解して楽しむにはとても嬉しいものです。いつもとは違う視点を持って、演奏を聴かれたお客さんも多かったのではないかと思いました。

その後も、子犬のワルツやバラード第3番、第4番、英雄ポロネーズなど、ショパンの曲というと名前の挙がる曲が勢ぞろいでした。ショパンの作品を弾く時、とても華やかに、華麗に弾かれるピアニストがとても多い気がしますし、それがまた美しい音楽に聴こえる訳ですが、仲道さんの演奏は一味違っていました。華麗で上品ではあるのですが、どこか落ち着きというのか、影というのかを感じました。高音部の音が特に、キラキラした感じを抑えていたように感じました。ショパンがずっと病弱だったことや、革命が起きて家族や友人たちと離れて、ショパンのみがフランスに渡り、生涯祖国に帰ることができなかったこと、死後はせめて心臓のみを祖国ポーランドに持ち帰ってほしいと願ったこと(教会に安置されています)という、仲道さんのトークを踏まえて聴きますと、「なるほど」と納得するような演奏でした。

また、仲道さんは、以前から作曲家が当時使っていたフォルテピアノなどの古楽器を用いたリサイタルも行っています。ショパンが活躍をしていた時は、ピアノという楽器がほぼ完成していたのですが、何千人も入るような大きなホールで、大きな編成のオーケストラにも負けないような大音量で響かせる楽器ではなく、もっと繊細は響きなのです。当時のショパンが聴いていたであろう音の響きを、現代のピアノで表現していたのかなあと思います。

リサイタル全体を通して、仲道さんのトークに「何故、○○なのか?」というフレーズが何回も使われていて、楽曲分析や時代背景、作曲家の事、当時の演奏スタイルなど、作品のあらゆる視点から作品を奥深く研究されている感じがして、さすが日本を代表する名ピアニストだなあと思いました。「ピアノというのは、ピアノに向かって音符が弾けるかどうかではありません」とインタビュー記事でも答えていて、とても戒めにもなりましたし、「本気で曲を解釈し、自分が納得するくらい丁寧に曲と向き合ってください」というアドバイスも、とても重みのある言葉で心に刺さりました。生徒さん方にも、折を見て共有していけたらと思いました。

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