(この記事は、2022年10月31日に配信しました第358号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、小学生の生徒さんのレッスンのお話です。

朝晩もだいぶ寒くなり、紅葉が見頃を迎えている所も多いようです。ピアノ教室の生徒さん方にも、「寒くなってきましたから、お教室にいらっしゃるときに、手が冷えないようにしてくださいね」と話しています。3ヵ月ごとにレッスンの予定表をお渡ししていますが、それを見た生徒さんが、「もう、年明けのレッスン日まで書かれているのですね。時が経つのは、早いものですね」と感想を漏らしていました。

先月下旬辺りから、小学生の生徒さん方には、通常よりパワーアップしてレッスンを行っています。例年では、夏の発表会が終わり2学期に入ると、本来のレッスンのペースでじっくり落ち着いてレッスンを行うのですが、今年はだいぶ様子が異なっています。というのも、今年はヤマハのコンサートグレードを受験する生徒さんが何人もいるのと同時に、小学校の学習発表会や音楽会で演奏する曲をレッスンで見てほしいという方が続出しているのです。

恐らくですが、これまでコロナの影響で中止していた学校行事が、だんだんと再開されてきていて、それに伴って音楽関連の行事も復活してきているのだと思います。コロナが流行り始めた頃、しばらく休校になりましたが、その後学校が再開しても、しばらく音楽の授業は合唱などの歌なし、鍵盤ハーモニカやリコーダーの授業もなし、リズム打ちくらいしかなく、「音楽の授業がつまらない」と残念そうに話していた生徒さんもいました。あれから2年余り経ち、学校の音楽の授業もコロナ前の状態にだいぶ戻り、みんなで合奏して披露する場も復活したということのようです。

ある生徒さんは、ピアノパートのオーディションがあるとの事で、楽譜を持って来ました。1週間後くらいに、決められたところまでを弾かなければならないとの事でしたが、幸い生徒さん自身で譜読みをしてきていましたので、より良い指使いに修正し、強弱を付けるポイント、そしてペダルを入れる箇所を決めて、華やかに弾けるようにレッスンをしました。

原曲ではピアノが使われていないらしく、アレンジされたピアノのパート譜には、演奏不可能な指示が書かれていたのですが、生徒さんと一緒に原曲を聴きながら、「こういう風に弾いたら、かなり元の曲に近くなるね」と確認して、実際にピアノで弾いて練習もしてみました。生徒さんのお母様も、演奏不可能なところについては疑問に思っていたそうなので、レッスン後に説明しましたが、「なるほど~」と疑問が解消されてすっきりされた様子でした。

その後、生徒さんから、「無事にピアノパートのオーディションが終わり選ばれた」という嬉しい報告を聞きました。「曲の続きの部分も、お家で練習して、わからない事があったら、また楽譜を持ってきてね」とお話しました。きっと張り切って、曲の続きも練習していると思います。

今年の春くらいに入会された生徒さんも、同じ様に小学校の行事で演奏する楽譜を持ってレッスンに来ました。レッスンでは、両手で異なる音を弾き始めて少し経ったくらいなのですが、持ってきた楽譜を見ますと、16分音符なども並び、しかも結構テンポの速い曲です。生徒さんのお母様は、「難しくて無理だから、やめて他の楽器にするように言っているのですが…」と少々困ったような表情でお話をしていました。

確かに、かなり難しいと思いますが、生徒さん自身は、「かっこいいから弾きたいんだよね」と話していますので、頑張って練習してみようという事になりました。本来ならば、一音ずつ音を読んで、音符の長さからリズムを見て、指番号を考えて、拍子に合わせて弾く、そしてだんだん速く弾けるようにするという流れになりますが、そこまでの時間的猶予もないので、「ここは、この指番号で弾いて、こんなリズムなのよ」とごく小さいフレーズに分けて、見本として弾いて真似して弾いてもらい、一人でも弾けるように練習をしました。

生徒さんも、普段のピアノレッスンでは、まだ出てこない指使いやリズムに難しさを感じていたようでしたが、黙々と何回も練習をして、だんだんと自力で弾けるようになってきました。その様子を見ていますと、かなり本気で「かっこいいから弾きたい」と思っているのだなあと改めて感じました。翌週のレッスンでは、前回弾いたところをバッチリ弾けるようになっていましたので、続きをレッスンすることができ、あともう一息で全部弾けるようになるというところまで進むことができました。どちらかというと大人しいタイプの生徒さんですが、一連のレッスンを通して、実は内に秘めた情熱を持っていることがわかり、生徒さんをより深く知るよいきっかけにもなったと思いました。

小学校高学年の生徒さんは、今年もピアノパートを希望していて、希望者は少なかったそうですが、それでもオーディションがあるという事で、レッスンに楽譜を持って来ました。中盤から後半にかけては、同じ和音の連打なので、音さえ読んでしまえばだいぶ楽なのですが、オーディションで弾く曲の冒頭部分は、リズムが少し難しく、音を把握するのもやや難しいフレーズでした。また、他の生徒さん方の曲とも共通するのですが、原曲がピアノで弾く曲でない場合、ピアノ演奏の指運びを考慮していないので、弾きにくい箇所が出てくることがあります。そのため、どの指を使うと一番弾きやすいのか、決めることが重要になります。レッスンで生徒さんと相談しながら指番号を決めて、なんとかオーディションで弾く範囲のフレーズを弾けるようにしました。

その後、この生徒さんもピアノパートを弾けることになり、現在もレッスンを続けています。かなりたくさんの楽器との合奏になるので、どの部分で何の楽器がどんなメロディーを弾いているのかを把握しないと曲の全体像がつかめませんので、私がメロディーを弾いてそれに合わせて弾くということをしています。

さすが高学年の生徒さんともなると、自宅での練習も工夫していて、学校の先生から他のパートの音源をもらってきて、iPhoneで流しながら合わせて弾く練習をしていました。そのため、レッスンでいきなり私がメロディーを弾いても、つられることなく弾けていて、とてもびっくりしました。練習を始めて最初の頃は少し難しそうでしたが、もう大体弾けるところまで進んでいますので、次回のレッスンからは、ヤマハのコンサートグレードの曲の練習も、本格的に始めてみましょうとお話をしたところです。

生徒さん方が、ピアノ教室以外の場所で、日頃のピアノレッスンを生かして活躍できることは、私としても大変嬉しいものですし、きっとご家族の皆様も同じ思いなのではと思います。ピアノを弾いていて、またピアノレッスンを受けていて、よかったと思っていただけるように、これからも日々精進したいと思います。

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絵画と音楽のお話


2022年10月31日


(この記事は、2022年10月17日に配信しました第357号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、絵画と音楽のお話です。

10月も半ばとなり、過ごしやすい気候となりました。行楽などお出かけにピッタリな季節ですね。街中では、だいぶ前からハロウィン関連のグッズや装飾を目にするようになり、すっかり秋を感じる風物詩の一つになった感じがします。

秋は、芸術の秋でもありますが、芸術は音楽だけでなく、美術や建築、服飾、文学、デザインなど実に様々です。音楽の世界では、作曲家たちが日夜、新しい音楽を生み出すべく奮闘しているわけですが、そのアイディアはどこからきているのか、どうやって音楽を作り出しているのか、疑問に思う事も少なくありません。ドレミファソラシという限られた音を使って、いろいろな作曲家が次々と新しい音楽を作り出し、一部似ている音楽はあるとしても、他の誰とも被ることなく新しい音楽を作り出すのですから、凄いなあと感心せずにはいられません。

ベートーヴェンは、散歩しながら構想を練り、ショパンは、外部の音を遮断した防音の部屋の中にこもって、悩みに悩んで何回も書き直しながら作曲をしていたそうです。シューベルトは、いつでもどこでもアイディアが降ってくるそうで、いつでもメモできるように、寝ている時も枕元にメモ帳を置き、眼鏡をかけて寝ていたとも言われています。友人達との会食中に急にひらめいて、テーブルクロスにメモを書き始めた事もあったそうです。

ベートーヴェンの散歩しながらというのは、少しかっこいい感じもしますし、ショパンはなんだか追い込まれた悲壮感のようなものを感じたり、シューベルトは、クラシックの作曲家の中では、若干地味な感じがしていましたが、実はこれぞ天才という人だったのかと思ったり、クラシックの作曲家も、それぞれ独自の作曲方法があったようです。

いずれの作曲家も、自己の内面と向き合うことで作曲活動している点は共通している気がしますが、それだけではなく、他のものとの関わりの中で音楽を生み出すきっかけを得ることも多かったようです。ショパンなどのロマン派の作曲家は、貴族のサロンで演奏していましたが、そのような場を通して当時の文豪や画家たちとの交流があり、いろいろと刺激を得て、作曲活動に役立てていたようです。

月刊ピアノ10月号には、「絵画と音楽」という特集が組まれていますが、これを見ますと、絵画からインスピレーションを得て生み出された音楽について、詳しく説明がされていました。

例えば、ボッティチェリの絵画に、「春」「東方三博士の礼拝」「ヴィーナスの誕生」という作品があります。どれも大変有名なので、ご存知の方も多いと思います。イタリア・ルネサンスの傑作です。この15世紀の3枚の絵画からインスピレーションを得て、同じイタリアの20世紀の音楽家レスピーギは、管弦楽の作品を作曲しました。タイトルは、そのままスバリ「ボッティチェリの3枚の絵」です。雑誌にはQRコードがあり、そこから視聴できますが、絵画を見て音楽を聴きますと、絵画のどの部分を表現したのかが分かったり、自分が絵画から得た印象との比較などもできて、とても面白い音楽鑑賞ができると思います。

同じルネサンスを代表する画家に、レオナルド・ダ・ヴィンチがいます。「モナリザ」や「最後の晩餐」などの作品が有名ですね。「最後の晩餐」は、処刑前夜のキリストと12人の使徒の晩餐の様子を描いたもので、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院の食堂に描かれた壁画です。キリストが、この12人の使徒の中に、裏切り者がいると予言し、使徒たちが動揺する場面が描かれていますが、この壁画の中にも登場しているマタイが書き記した福音書を元に、ヨハン・セバスチャン・バッハが管弦楽と合唱、独唱などで演奏する「マタイ受難曲」を作曲しました。

また、同時期のルネサンスで活躍したミケランジェロは、バチカンのシスティーナ礼拝堂にある大変有名な「最後の審判」という壁画を描いていますが、中央に描かれたキリストが、死者たちに裁きを下しています。最後の審判の日は、「怒りの日」と呼ばれ、モーツァルトやヴェルディなども、死者のためのミサ曲の中で「怒りの日」という音楽を作曲しています。両方の曲とも、聴き覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

もっと古い時代のグレゴリオ聖歌の中にある「怒りの日」のメロディーは、リストやサン=サーンス、マーラー、ラフマニノフなどが引用しています。作曲家によって、それぞれの「怒りの日」が表現されていますので、聴き比べますと大変面白いと思います。

ピアノ曲に影響を与えた絵画としては、18世紀のロココ様式の時代に活躍した画家ヴァトーの「シテール島への巡礼」があります。愛の女神ヴィーナスの島と呼ばれるシテール島に、何組もの恋人たちが訪れるという、官能的で喜びに溢れた絵画なのですが、20世紀の作曲家ドビュッシーが、この絵画からインスピレーションを得て作られたのが、ピアノ曲「喜びの島」です。第1メロディーからして、柔らかくウキウキしたような印象の音楽で、まさに喜びに満ちた作品と言えるかと思います。

月刊ピアノでは、他に、葛飾北斎とドビュッシーの作品についてや、19世紀後半にヨーロッパで巻き起こったジャポニズム(日本趣味)の影響を受けた音楽なども紹介されていました。絵画の大きな写真も掲載されていますので、とても分かりやすい特集だと思います。

音楽だけでも、十分楽しめる完結されたものですが、そこに至るまでに影響を受けた絵画について知ると、より音楽も深く理解することができますし、なにより楽しみが増してくると思います。今年の秋は、一味違った芸術の秋を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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魅せるピアノ奏法


2022年10月16日


(この記事は、2022年10月3日に配信しました第356号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、魅せるピアノ奏法のお話です。

9月も終わり、秋本番となりました。この土日に、お子様やお孫さんの運動会があったという方も多いのではないでしょうか。スポーツの秋に食欲の秋、読書の秋、芸術の秋など、いろいろな場面で秋を感じることと思います。コンサートやリサイタルも、以前に比べてだいぶ復活してきているようですから、コロナですっかり足が遠のいてしまった方も、オンラインとは違った生の音楽の素晴らしさを味わってみるのも良いかもしれません。

書店などにも置いてありますが、ピアノの楽譜付きの月刊誌「月刊ピアノ」というものがあります。ピアノや音楽のいろいろな話題だけでなく、クラシックからJポップまで幅広いジャンルのアレンジ楽譜がたくさん掲載されています。今回、その特集に興味があり、手に取ってみました。

特集は、「魅せるピアノ奏法」というもので、最近話題になっているH ZETT Mさんやレ・フレールさん、菊池亮太さんの3人を取り上げていました。

H ZETT Mさんは、体をのけぞったり、ピアノの下にもぐったり、飛び跳ねたりと、いろいろな体勢でパフォーマンスをしながら凄い演奏テクニックでピアノを弾くピアニストです。このような演奏を生徒さんが真似したら、指導されている先生方は腰を抜かしそうですが(笑)。

ピアノのリサイタルやコンサートは、かしこまっていて堅苦しいイメージもありますが、このようなコンサートでしたら大変気軽ですし、面白いので聴きに行きたくなりますね。雑誌のインタビューの中でも、「ピアノは、本来座って弾くべき。立って弾くのは、弾きにくいし間違いだから。でも、音楽という世界で一般的な善悪、正しい、正しくないという枠にとらわれなくてもよい場面があると考えている。何か魅せようというよりも、面白いことないかなあと探している」と話していました。

固定概念から飛び出して、もっと自由に楽しもうという姿勢が感じられます。それにしても、いろいろな体勢でよくピアノが弾けるなあと感心してしまうのですが、これも日頃の練習の賜物のようです。普段は、チェルニーの練習曲をメトロノームに合わせて練習していますが、結構ゆっくりのテンポで、一音ずつ確認しながら弾いているのだそうです。本番でのびっくりするようなパフォーマンスも、実は日々の基礎練習があってこそと言えるのかもしれません。

レ・フレールさんは、連弾のピアニストとして以前から有名です。一般的な連弾のデュオという幅を超えた、兄弟ならではの阿吽の呼吸で素晴らしいピアノ演奏を披露し続け、今年で20年を迎えるそうです。7人兄弟の3番目、長男の守也さんと、5番目の圭土さんのコンビで、お二人ともルクセンブルクの国立音楽学校に留学してピアノを学ばれたそうです。連弾は、1台のピアノを2人で弾くもので、高音部担当のプリモ、低音部担当のセカンドというように、役割分担して1つの音楽を奏でますが、レ・フレールさんはそれだけではなく、演奏中の1人の後ろからもう1人が手を伸ばして二人羽織の形で演奏したり、1人が演奏中にもう1人がピアノに後ろ向きで手を伸ばして弾くというような、実に様々な連弾スタイルを編み出し、魅せるピアノ連弾を確立しました。

即興演奏中に疲れたから替わって、という事で編み出された連弾スタイルもあるそうですから、何か派手な事をしようと狙っているというよりも、日々の練習などで自然と生み出されたものなのかもしれません。独創的な音楽と1台4種の独自の連弾スタイルから、キャトルマンスタイルとも呼ばれています。かつて、幼かったモーツァルトが、宮殿で目隠しをしたり鍵盤を布で隠したままチェンバロを演奏したそうですが、レ・フレールさんの連弾を見たら、きっとビックリするでしょうね。

菊池亮太さんは、超絶技巧を駆使した演奏を披露しているピアニストです。「月刊ピアノ」の中に、いろいろな奏法の動画が見られるようにQRコードがあるので(H ZETT Mさんや、レ・フレールさんのQRコードもあります)、気になる方は実際に動画をご覧になるとよいでしょう。その中に、シフラが編曲した超絶技巧のピアノ曲「熊蜂の飛行」を菊池さんが駅ピアノで演奏している動画があります。リストの再来とまで言われるシフラの編曲ですから、弾きこなせるピアニストも多くはない程の難曲です。

これを、菊池さんは、いとも簡単に弾きこなしていて、最初は観客ゼロの状態でしたが、人々が続々と集まっている様子が映っていました。白髪のお婆様もピアノに吸い寄せられるように近づいていましたし、その横をベビーカーを押しているお母さんと制服姿の幼稚園児が歩いてきているのですが、お母さんの制止を振り切って幼稚園児が菊池さんの方に近づいていく姿もあり、演奏後はあちこちから拍手が沸き起こっていました。練習すれば誰でもできる領域ではありませんが、だからこそ、菊池さんのようなスーパーテクニックを駆使したかっこいいピアニストになりたいと憧れの気持ちを抱く方も多いのかもしれません。

どの方も、単にピアノ演奏を披露するだけではなく、これまでの常識の枠を超えて、お客さんをあらゆる角度から楽しませてくれるピアニストだと思います。また、ピアノという楽器は、思った以上にいろいろな可能性がある楽器だと思いました。今度は、是非生の演奏やパフォーマンスを見てみたいものです。

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