(この記事は、2020年7月20日に配信しました第302号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、前回の続きで、先日放送された「駅・空港・街角ピアノスペシャル」の第2部のお話です。

この番組は、世界15の街に置かれたピアノでの演奏を、定点カメラで2年間取材したものです。視聴者のリクエストをテーマごとにまとめて、スペシャル番組として放送されました。

オランダの古都ユトレヒトの駅に置かれたピアノに向かったのは、南米スリナム出身でガラス工事職人です。ピアノ歴10年で、即興演奏をしていました。

そこへ大きな荷物を抱えたギニア出身の男性が現れ、演奏に合わせて、持っていた大きな荷物を叩き始めました。アフリカの伝統楽器(打楽器)が入っているのだそうです。

セッションが終わった後、ピアノを弾いていた男性が、「いいねえ。素敵だ」と言ってハイタッチをすると、打楽器を演奏していた人が「なんか弾いてよ」と催促し、「あまり上手じゃないけど弾いてみるよ」といって、今度は少し軽快な即興演奏で歌い始めます。

「すごい音だ。心が掴まれちゃったよ」とピアノを弾いた男性が話すと、「音楽に国境はない。今日初めて会ったんだよ。モダンなピアノとアフリカのジャンベの組み合わせが。ワーオ!、驚きでしょ」と楽しそうに話していました。

次に現れたのは、1週間前にこのピアノで出会った2人組でした。音楽の専門学校生の女性が弾き語りを始めると、一緒にいた男性も歌い始め、美しい2重唱が始まりました。男性は、大学の音楽科を卒業したばかりなのだそうです。とても息の合った演奏につられて、聴いていた男性も口ずさみ始めます。

この男性に、「あなたの声、素敵よ。歌は好きなの?それともピアノを弾きたい?」と、ピアノを演奏していた女性が声をかけ、他の女性も誘って歌い始めると、ライブ演奏に行く途中だったバンドマンもギターを一緒に演奏を始めて、どんどんと演奏の輪が広がっていきます。「音楽は人を結びつけるの。すごいわ、本当に。」と感激した様子で話していました。

マルタ島に置かれたピアノでは、真っ赤なTシャツをきた男性が、たまたまその場にいた女子大生を誘って演奏を始めました。女子大生が、伴奏の音楽のキーをもっと下げてほしいとリクエストすると、即座に答えていました。調性を変えて演奏するという事ですから、凄いですね。

赤ちゃんを前側に抱っこしたピアニストの女性は、そのままの姿でショパンのアンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズを演奏していました。赤ちゃんは、じっとお母さんの指の動きと演奏に興味津々で、笑顔で聴き入っていました。時折一緒に弾こうとしたり、演奏を聴いている人に向かって微笑んでいる姿も、とても可愛らしく、演奏しているお母さんの穏やかな表情もとても素敵でした。

次は、男性がドビュッシーの月の光を弾いていました。かつてプロのサッカー選手を目指し、アメリカの学生リーグでも活躍していたのだそうです。しかし、5年前に怪我でプロへの道を断念し、その頃に、独学でピアノを覚えたのだそうです。

「サッカーに全てをかけて、プロを目指していたからショックだったよ。でも、人生とはそういうもの。前に進まなきゃね。それで、ピアノを始めようと思ったんだ」と話していました。

アイルランドのダブリンでは、カラフルなペイントを施されたピアノで、近くに住む大学生が演奏を始めました。自宅にピアノがないので、ここで毎日練習しているのだそうです。すると、iPhone を片手に持った女性が近づいてきて、「素敵だったわ」と話しかけ、今度は、この女性がピアノの前に座ります。この女性は、ピアノを教えているのだそうで、ブルースを弾き始めます。

先程の大学生が、「ブルースは弾けなくて…」と話すと、「ホント?ちょっとしたコツを教えるわ」と言って、ブルースのレッスンが始まり、連弾の演奏も始まりました。「ありがとう。しっかり練習します。弾けるようになりそうだ」と嬉しそうに話していました。そして、「こうやって、誰かと出会って一緒に演奏できるのは最高さ。音楽は共通の言語で、誰かとつないでくれる」と話すと、ピアノ教師も、「そう、言葉を超えてね」と頷いていました。

ロンドンでは、ミュージシャンがピアノに向かっていました。弾く前から、通行人に「一緒にベートーヴェンを弾こう」と誘い、「好きな鍵盤を叩けばいいんだよ」と話して、ベートーヴェンの歓喜の歌を一緒に演奏していました。ノリの良い演奏に誘われて、どんどん聴衆が増えていき、盛り上がっていきます。演奏後は、一緒に演奏していた女性とハイタッチをして、とても楽しそうでした。

「俺は、ピアノが大好きさ。人生そのものだ。ピアノが無かったら死んだも同然。死んだらこの駅のそばに埋めてくれ。そのくらいピアノを愛しているんだ」と、情熱的に話していました。

プラハでは、夜勤の仕事に向かう男性が、今の心情を綴ったオリジナル曲を演奏し始めました。「心を穏やかにして、正しいことだけを考えよう。悪の誘惑に打ち勝つんだ。そうすれば、新しい人生を始められる」と歌っています。若い頃、事件を起こして服役していたのだそうです。ピアノは、刑務所の中で覚えました。

この駅でピアノを弾いていたら、女性が声をかけてきてくれて、最近一緒に暮らし始めたのだそうです。「今まで、いいことなんてなかったけど、でも、この愛を見つけたのは、最高の幸せさ」と話していて、拍手が沸き起こっていました。

シンガーソングライターのさだまさしさんが、このシーンを見て、「音楽は、本当に人を救う事ができるんだなあと思った。いいことなんて一つもなかったという言葉が、胸に刺さりましたね。音楽は、こんなに人を変えるんだなあ」と話していました。

ハリウッドでは、4ヵ月前に引っ越してきた 59歳のコメディー俳優が、ピアノの演奏を始めました。32年間連れ添った妻と離婚し、ニューヨークから車でハリウッドまで来たのだそうです。人生の再出発をかけ、オーディションを受ける日々を送っています。通りかかりの家族が演奏に加わり、大合唱が始まりました。

「年齢なんて関係ない。僕は、棺桶に入るまで夢を追い続けたい。僕たちは、世の中に何かを与えるために存在しているんだ。音楽は、言葉の壁を越えて、誰もが心と心で通じ合えるステキなものだよね。だから、歌うし演奏もする。それで周りの人が幸せになるのなら本望さ」と話していました。この決心と行動力は、スゴイと思いました。

エストニアのタリンでは、恋人と来たポーランド人の銀行員が、ショパンのノクターンを弾いていました。ピアノは、7歳から弾いていて、ポーランドの国立音楽院に通っていたそうです。親友が、ショパンコンクールで優勝したそうで、彼には勝てないと思ってピアニストの道を諦めたのだそうです。

「私より上手な人は、いくらでもいますよ。私の才能はこんなものです。銀行員になるなんて思っていなかったなあ。これが人生なんです」と言いつつ、また笑みを浮かべて2曲目を弾き始めました。ちなみに、コンクールで優勝した親友は、大切な人生の宝物なのだそうです。

日本の神戸では、車椅子に乗った女性が左足で器用にペダルも使って、AKB の曲を演奏していました。目が不自由ですが、幼稚園生の頃に音色に心を奪われて、ピアノを習い始めたのだそうです。今では、お気に入りの曲をアレンジして弾いているのだそうです。弾き終わると、満足そうな笑顔を見せていたのが、とても強く印象に残りました。

「小さい頃から音楽が好きで、聴くのも演奏するのも好き。ピアノを習っていてよかったと思いました」と、感慨深そうに話していました。

オーストラリアのブリスベンでは、真っ赤なピアノで、海洋学者のオランダ人がパッヘルベルのカノンを弾いていました。10歳からピアノを弾いていて、楽しくて毎日弾いているのだそうです。深海に憧れて海洋大学に進学し、学費を稼ぐために、ピアノ弾きのアルバイトをしていたら、それが評判を呼び、ピアニストとしても活躍していたのだそうです。学者とピアニストという2足のわらじを履いているなんて、憧れてしまいました。

昼間は、海洋学の先生をして、夜はホテルでピアノを弾いているそうで、ピアノを弾くことでエネルギーが湧いてきて、やる気がみなぎるのだそうです。「周りも喜んでくれると、自分の喜びにもなる」と話していました。

オランダのアムステルダムの駅では、イスラエルから来た18歳の青年が、ショパンの幻想即興曲を弾いていました。プロのピアニストになるのが夢なのだそうで、ピアノを見つけると弾かずにはいられないそうです。本当にピアノが好きなのだという事が伝わってきます。情熱に満ちた演奏で、気が付けば多くの人が拍手を送っていました。

いろいろな人生を歩んでいる人が奏でるピアノの演奏は、どれもが演奏の出来栄えを超えた味わい深いもので、音楽の神髄を改めて感じることができました。普段、ピアノに向き合うと、音のミスやら上手に弾こうという事を気にする事が多くなってしまいます。もちろん、向上心も大切ですが、出来ないところばかりに目を向けて、一番重要な楽しむという事を忘れがちな気がしています。大いに反省する良い機会にもなりました。

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