(この記事は、2020年7月6日に配信しました第301号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、先日放送された「駅・空港・街角ピアノスペシャル」のお話です。
この番組は、世界15の街に置かれたピアノでの演奏を、定点カメラで2年間取材したものです。視聴者のリクエストをテーマごとにまとめて、スペシャル番組として放送していました。3時間くらいの番組なので、まずは前半編を見ました。
アメリカ・ミネアポリスの空港に置かれたピアノでは、靴磨きの仕事を終えた男性が演奏していました。この方は、全米を回って米軍基地のバーでプロのバンドマンをしていて、先日引退したばかりだそうです。その時にリクエストの多かった曲を弾いていました。
「僕が弾くと、みんなハッピーになれるんだ。それが一番大事。僕もハッピーになれるけど、人を幸せにできるのは凄いことだ。音楽は、パワフルな魂を放つすばらしいものだ」と話していました。
カリフォルニアからの旅行帰りの高校生カップルは、彼がピアノを弾いて、彼女に歌うように誘い、レ・ミゼラブルを演奏していました。彼女は、子供の頃から教会の聖歌隊で歌っていたそうで、とても上手でビックリしました。音楽が終わると、2人で笑顔でハイタッチしていた事が印象的でした。
オランダの古都ユトレヒトの駅に置かれたピアノでは、移住のため、もうすぐお別れするという15・6歳の学生が演奏していました。1年前に、この場所を見つけ、毎週セッションをしてきたそうです。演奏が終わると、はにかんだ笑顔で拍手に答えていました。
ジャーナリズムを学ぶ専門学校生は、ハーモニカを吹くおじいさんと一緒にピアノ・マンを演奏していました。5歳からピアノを弾いていたそうで、レパートリーが60曲以上もあるそうです。すごいですね。彼の演奏に合わせて、横で小さな女の子が踊りだしていて、かわいらしかったです。音楽の道も諦められないそうで、駅ピアノで練習をしているのだそうです。いつの間にやら、多くの人が集まって聴いていました。
「音楽無しの人生は考えられない。悲しいとき、嬉しいとき、いつでも音楽が僕のそばにあった。しゃべる言葉も音楽。心に響くすべてが音楽だ」と話していました。
次に演奏していた、IT企業の営業マンは、生後すぐにインドネシアから養子で来たそうで、7歳の時に養子先の祖父からピアノを習ったそうです。義父がギターを弾き、家族みんなで合奏していたそうです。「音楽は生活を豊かにすると、義母がいつも言っていた。音楽で自分の思いも表現できる」と話していました。
イギリス・ロンドンの駅では、ロシア出身のシステムエンジニアの男性が、クイーンの曲を笑顔で楽しそうに弾いていました。子供の頃からクイーンの大ファンで、自分なりのアレンジをして演奏しているのだそうです。出勤途中に必ず1曲弾き、それによって落ち着いて仕事が始められるそうです。歓声が飛ぶほどの盛り上がりで、何度もお辞儀をして答えていました。
スコットランドの都市グラスゴーでは、パーカーのフードを被り、リュックサックを背負ったままの看護学生の男性が弾いていました。素朴な雰囲気の男性が、切ない音楽を弾いていて、ピッタリだなあと思いました。学校で友人がサッカーをしていても、音楽室で一人ピアノを弾いていたそうで、就職したら、お給料を貯めてピアノを買うのが夢なのだそうです。本当にピアノが好きなんだという事が、とてもよく伝わり、思わず応援したくなってしまいます。
アメリカ・ロサンゼルスの駅では、日本のアニメ曲を、両親と旅行中の中国の高校生が弾いていました。日本のアニメが大好きで、曲は何度も聴いて覚えるのだそうです。ピアノは、インターネットで独学で学んだそうで、今の時代ならではという感じです。それにしても、日本のアニメの人気ぶりを改めて感じました。
チェコ・プラハの駅では、映画「タイタニック」の曲を、スーパーの男性店員が仕事帰りに弾いていました。美しいメロディーが多いので、映画音楽が大好きなのだそうです。弾いていると、一人の男性が荷物を置いて携帯で撮影しながら聴き入っていました。演奏が終わると、その男性はすぐに近づいてきて、「すごくよかった」と言いながら握手を求め、「これでも食べてくれ」と言って、サンドウィッチを差し出し、立ち去っていきました。「誰かに聞いてほしいと思いながら演奏している。喜んでもらえると嬉しい」と話していました。なかなか日本では見られない光景で、感動を表現しているところに、凄いなあと感心しました。
また、愛犬と散歩の途中、アメリカ人の英語講師は、バッハを弾き始めました。演奏が始まると、犬は床に伏せてじっと聴いているように見えました。他の犬が通りかかると、近寄ってなにやら話しているようにも見えるのですが、その後はまた元に戻って伏せていました。演奏が終わると、そばでじっと聴いていた男性が近寄って「素晴らしかったよ。ビールでも飲みなよ」と言って、小銭を渡していました。
オーストラリア・ブリスベンの空港に置かれた真っ赤なグランドピアノでは、74歳のジャズピアニストの男性が、映画「オズの魔法使い」の曲を演奏していました。奥様との旅行の帰りだそうです。1年前に膵臓がんが見つかり、化学療法を行ってきましたが、ファンの支えもあって辛い治療を乗り越えられたのだそうです。弾いているたたずまいが絵になっていて、かっこいいなあと思いました。
「またピアノを弾けて、私は幸運です。みんなのために弾けることは、とても嬉しいです」 いろいろな困難を乗り越えたからこそ演奏できるような、味わい深い音楽でした。
フランスから来たバンド仲間の4人組は、ノリの良い音楽を演奏していました。「みんな笑顔になる、良い雰囲気を作りたいね。音楽なら、地球上のあらゆる魂と繋がれる。それがミュージシャンの役割さ」と答えると、仲間の一人が「良い答えだね」といって、一同笑っていたのが印象的でした。
イタリアのシチリアでは、バカンス帰りでほろ酔い気分の女性が、「男と女」を弾いていました。学生の頃から弾き続けている曲で、若き日の思い出が詰まった曲なのだそうです。30年前にミラノの音楽院を卒業して、ピアノ教師を長年してきたそうで、どうりで雰囲気のある音楽を演奏しているなあと思いました。とても魅力的でした。
8歳の男の子は、ノリの良いブギウギを即興で弾いていました。上手だなあと思って見ていますと、通りかかった男性が演奏に加わります。子供よりも、むしろ男性の方が楽しそうに弾いていました。この男性は、なんとプロのミュージシャンなのだそうで、いつの間にかとても多くの人が取り囲んで聴いていました。
男の子は、「ピアノは大好き。テレビゲームよりも断然楽しいよ。ピアノは多くの人に聴かせられるし、ハッピーにできるからね」と答えますと、一緒に演奏したミュージシャンも、横でうんうんと頷きながら聴いていて、「彼は素晴らしいよ。今度2人でレコーディングしようよ。みんな買ってくれるよ思うよ」と笑顔で話していました。男の子に、大きな夢を与えているようにも見えました。
ノルウェー・オスロの空港では、卓球の試合に遠征するチームの女の子を、男の子が何回も誘って連弾を弾いていました。初めての連弾なのだそうです。男の子は、弾きながら終始、弾きなれない女の子の演奏に合わせていて、やさしいなあと思いました。演奏が終わって、2人ともはにかんだ顔をしたのも素敵でした。
兵庫県の神戸では、高校生の女の子とお母さんが、ラ・カンパネラの連弾をしていました。お母さんは、ピアノ講師をしているのだそうです。お母さんは、「娘が反抗期なので、ピアノを一緒に弾くことしかできなくて。でも、一緒に弾くと心が通じ合うかなと思って、一緒にコンクールに出ようと誘った」と話していました。娘さんは、お母さんとのコンクール出場をお友達に話したら、「まだ、そんなことを(お母さんと)しているのと言われたそうで、変なのかなあと思ったけど、いざ弾いてみると、これはこれでいいかも」と思ったそうです。ちなみに、その親子は後日コンクールに出演して、賞をもらったのだそうです。
アメリカのミネアポリスでは、同棲1年目のカップルがピアノを弾きながら歌を歌っていました。ピアノを弾いている男性は、プロのピアニストだったのですが、今は医大生なのだそうです。母親が病気になったことをきっかけに医療の道を志す決心をし、今は会社勤めの彼女が支えているのだそうです。とっても楽しそうに演奏していて、見るからに幸せそうなカップルでした。
前半だけでも、いろいろな人が、いろいろな形でピアノを楽しく弾いている姿が見られ、とても興味深く見ることができました。
私も以前、海外の空港でピアノが置いてあるのを見かけましたが、気恥ずかしくて、とてもとても演奏することはできませんでした。しかし、この番組を見ますと、あの時勇気を出して1曲だけでも弾いておけばよかったなあと惜しい気持ちになりました。
後半編も楽しみに、見てみたいと思います。
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