(この記事は、第228号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、ヴァイオリンのお話です。

習いたいとか弾いてみたい楽器の中で、ヴァイオリンは、ピアノの次に挙げられるほど人気があります。

1人で弾くソロだけでなく、オーケストラの花形楽器でもあり、オーケストラをまとめるコンサートマスターもヴァイオリン奏者が務めます。

私も含めてピアノを弾く人から見ると、自分の楽器を持ち運ぶことができ、色々な場所で自由に練習したり、本番の演奏も自分の楽器で出来るところは常々羨ましいと思ってしまいます。

先日、ヴァイオリンの歴史を、ヴァイオリニストとヴァイオリン修理職人、研究者が探っていく「ヴァイオリン500年の物語」というテレビ番組を見ました。

ピアノはイタリアで生まれ、ショパンが活躍していた1800年代前半に現在の形とほぼ同じになったと言われていますから、今から200年くらい前に完成したことになりますが、ヴァイオリンはもっと古く、今から500年ほど前に、ほぼ完成されています。ピアノよりも長い歴史があるのですね。

ヴァイオリンの話になりますと、「ストラディヴァリウス」という名前がよく挙げられます。聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

ストラディヴァリウスは、1644年生まれのイタリアの楽器職人「アントニオ・ストラディヴァリウス」の事で、ヴァイオリンやヴィオラ、チェロなど弦楽器を製作しました。そして、彼が製作した楽器は世界最高の名器として、大変貴重な存在になっています。家を売ってストラディヴァリウスを手に入れたヴァイオリニストがいるほどです。

これだけ技術が発達した現在でも、ストラディヴァリウスの楽器には多くの謎があり、これを超える楽器を作る事が出来ないと言われています。

今回のテレビ番組では、このストラディヴァリウスの楽器の謎にも迫っていますが、カナダ出身のヴァイオリニスト ジェームズ・エーネスが演奏するヴィヴァルディの「四季」やパガニーニの「24の奇想曲(カプリース)」など、ヴァイオリンの数々の名曲をたっぷり聴く事も出来ました。リサイタル1回分のボリュームがあった気がします。

ストラディヴァリウスの楽器は、音色の美しさが他のヴァイオリンとは比べものにならないほど際立っていて、日本を代表するヴァイオリニストの徳永二男さんもインタビューの中で「色で音色を例えるなら、ゴールド」と話されていました。

では、実際に何が違うのかという事を科学的に分析し研究している方がいます。その研究に、先ほどのヴァイオリニスト ジェームズ・エーネスさんも協力していました。

ヴァイオリンは、中が空洞になっていて、上の板(弦が貼ってある方の板)と下の板、それを繋ぐ横板、魂柱(楽器の中に付いています)、低音を出す弦の下(上板の内側)に響きを支える板から出来ています。

一般的に、高い音は上板から、低い音は下板から響いていくのだそうですが、ストラディヴァリウスの楽器は、1キロヘルツ辺りの周波数の音が横にも響き、「音の揺らぎ」という現象も起きているのだそうです。これが、あの豊かな音色の秘密だったのですね。

ヴァイオリン修理職人の久保田さんは、近年自身でもヴァイオリン製作をしていて、科学的にストラディヴァリウスの音色にかなり近い楽器を生み出すことに成功しているそうです。

ピアノも長年使用していますと、弦が切れたり、中のフェルトなどが消耗するので修理が必要になりますが、ヴァイオリンは長年使用しますと、楽器が割れてきたり、表面に塗ってあるニスがはがれてきたりします。割れた所に小さな木の板を貼って補強したり、ニスを上から塗って直したりするそうですが、そうすることで元々の楽器の良さが損なわれてしまう事があります。

久保田さんは、古いバイオリンの修理を数多く手がけており、楽器の板の厚みやニスを工夫して、オリジナルの良さを取り戻すことをされてきました。その経験を元に、ストラディヴァリウスに近い音色のヴァイオリンを製作されたのですね。

自分自身だけでは、作り出せる楽器の数が限られてしまうので、できるだけ情報を公開して、良い楽器を世の中にたくさん出していきたいと話されていました。

ストラディヴァリウスは、現存する楽器の数が限られていますし、大変高価ですから一流の演奏家しか手にすることができません。しかし、同等の音色を気軽に楽しめる機会が増えれば、ヴァイオリンを弾く方にとっても演奏を聴く方にとっても朗報ですね。

日本のクラシック音楽界が、益々盛り上がる事にも繋がりそうですし、小さいお子様が、そのような音色が出せる楽器でヴァイオリンを習い始めたら、どのように成長していくのか考えるだけでもワクワクしてきます。

今後のヴァイオリン界も、目が離せませんね。

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(この記事は、第227号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、お子様の発表会とオーディションのお話です。

先日、毎年夏に開催しているお子様の発表会が行われました。今回は、初めて使用する会場で、2人のピアノの先生と合同で行いました。

朝から日差しも強く暑い日でしたが、少し早目に会場に入りますと、既に生徒さんが何人もいらっしゃっていました。

打ち合わせでは、アナウンスの原稿に演奏する生徒さんの名前の読み仮名を書いたり、足台の有無、補助ペダル使用の有無や持ち込みの有無、タイムスケジュールの確認などを行いました。

その後、初めて参加する生徒さんに、舞台上での動きのリハーサルを行い、定刻通りに始まりました。

私のクラスにも、今回初めて参加する生徒さんがいます。

その生徒さんは、以前から発表会に出たくないと言ってみたり、自宅練習やレッスンも消極的な姿勢になっており、本番に来てくれるのか心配していました。

しかし、開場時刻前にご家族で到着されていて、新しい黒い革靴に、おしゃれなシャツと半ズボンの装いをしていました。やはり、少々緊張気味の硬い表情でしたが、特別嫌そうな雰囲気でもなく、少しほっとしました。

お母様と舞台まで来ていただき、出番前の待機場所(舞台袖)やお辞儀をする位置の確認などを行いました。

今回は、会場の作りが少し特殊で、通常のように演奏後に舞台袖へ戻りますと、その後ご家族が座っている客席に戻るには、かなり遠回りをしなければならず、小さい生徒さんには、少々難しい事もあり、演奏後は、舞台隅にある階段を下りて、ダイレクトに客席に戻る流れにしました。

生徒さんが安心して演奏できるように、演奏前の舞台袖にお母様が付き添って頂く予定でしたが、それでは演奏後に合流できなくなってしまいます。

「お母様には、一番前の席に座って頂いて、弾き終わったら、階段を下りてお母様の所に行っていいからね? いいかな?」

当初の予定と異なってしまうので大丈夫かなと思いましたが、静かに、こくんと頷いてくれました。

全員出席のもと、定刻通りに発表会が始まりました。

一番最初は、先程の生徒さんの演奏です。

今回初めての参加とは思えない落ち着きぶりで、堂々と舞台に上がり、演奏も上出来で、とても安心しました。

別の生徒さんで、本番前のレッスンで暗譜が少々不安だった生徒さんは、舞台袖に来るなり、「間違えそうな気がする」と、しきりに話していました。

これまで何回も発表会に参加していて、慣れているはずが、思わぬ弱気な発言に少し驚きましたが、「そういうことを言うと、本当にそうなっちゃうから言っちゃだめよ」と話しますと、「でも、5回は間違えそうな気がするんだもん」と話していました。

暗譜以外は、かなり良い感じに仕上がっていましたので、「そうは言っても大丈夫なのでは?!」と思っていました。

しかし、出番が来て演奏が始まりますと、最初の1段目で早くもミスが始まり、その後も、あれっ?あれっ?という場所で小さなミスが重なってしまいました。残念ながら、出番前のご本人の予言が、当たってしまった結果になりました。

また別の生徒さんで、今年もオーディションに参加する生徒さんは、ご自宅で使用している補助ペダルを持参していらっしゃいました。持ち込んで下さったお母様に、生徒さんの様子を伺いますと、あまり上手くいっていないとのお話で、少し心配になりました。生徒さんは、いつもの本番のように、少々不安そうな様子で舞台袖に来ました。

「いつも通りに弾いたら大丈夫よ。コンクールの本番の時よりは、いいでしょ?」と聞くと、少しハッとしたような表情になり、若干表情が緩んだように見えました。

演奏が始まりますと、お母様がお話していたような不安さはなく、堂々とした演奏で、かなり力を発揮できたように思いました。

今回、最後の演奏を飾るトリを務めた生徒さんは、以前コンクールの全国大会で演奏した曲を披露しました。

バスケットボール部の練習漬けの日々は卒業しましたが、今度は受験のために、日々塾に追われていて、ピアノのレッスンの後にロビーで夕食を食べて、そのまま夜遅くまで塾の授業をこなしています。

受験生なので、練習時間もままならないと思いますが、しっかりとまとまった演奏を披露できました。

発表会は見学自由なので、生徒さんの小さいご兄弟がいらっしゃることも多いのですが、演奏中は驚くぐらいに静かな会場でした。演奏した生徒さん方も、きっと集中して力を発揮できたと思います。

発表会後暫くして、オーディションが行われて、私も審査員を務めました。これまで何回も務めていて、小学生の部を担当することが多かったのですが、今回は大学生の審査を担当しました。

オーディションの曲目は自由なので、ベートーヴェンやリスト、ドビュッシー、ラフマニノフなど、いろいろな時代の作品を聴く事が出来ました。

コンクールやオーディションは、点数をどのように出して合否を決めるのかケースによって異なり、同じコンクールでも地区大会と全国大会で異なる場合もあります。

例えば、各審査員が出した点数の平均点を計算し、○○点以上は合格としたり、審査員が出した点数のうち、最高点と最低点を削って、その他の点数で平均点を出して合否や順位を付けることもあります。

今回のオーディションは、審査員1人につき複数の投票権が与えられ、素晴らしい演奏をした参加者に1票ずつ投票し、その合計投票数が高い方から合格とする方式です。(どんなに素晴らしくても、1人の審査員が同じ参加者に複数投票することは禁止)

これまでは、最高得点の満点と、ほとんど票が入らない最下位はすぐに決まるものの、大多数は僅差となり、2次投票をしたり意見交換をするなど、なかなか審査に時間がかかっていました。

しかし今回は、いざ開票してみますと、綺麗に順位がついていて、審査員全員が驚くぐらいにすっきりと合否が決定しました。

私のクラスの生徒さんも別の日に審査があり、今回も見事に合格することが出来ました。

審査では、審査員全員が講評を書くのですが、その講評を読む限りでは、テンポの揺れを多少指摘されましたが、曲の各場面の変化がしっかりと出来ていたことや、曲に合わせた演奏が出来ていたこと、完成度の高さを評価して頂けました。

これから、合格者の披露コンサートまで少し時間がありますので、さらにバージョンアップした演奏を目指して、生徒さん自身が、「かなり思ったような演奏が出来た」と手ごたえを感じ、今後の自信に繋げられればと思っています。

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(この記事は、第226号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、日本最高峰の芸術教育で有名な、東京藝術大学(芸大)のお話です。

芸大は、近年、様々な新しい取り組みを行っています。そのいくつかをご紹介したいと思います。

1つ目は、「早期教育プロジェクト」です。

中学受験などで音楽教育を辞めてしまう子供も多いわけですが、もっと夢を持って音楽や芸術に突き進んでもらいたいという事で始められたプロジェクトです。

主に、小中学生を対象に、芸大の先生と学生が全国各地に赴いて、公開レッスンを行うもので、1人約40分のレッスンを無料で受けられます。

芸大の先生などから、直接レッスンを受けることは、芸大に入らない限り難しいものですし、特に東京以外に住んでいる方にとっては、遠方から通う事になりますから益々難しくなります。

公開レッスンは全国各地で開催されていますし、ピアノ以外の楽器のレッスンも行われているのも嬉しいですね。

公開レッスンの前には、芸大のランチタイムコンサートが行われるので、芸大生の演奏を聴く事が出来ます。学生にとっても学校以外での演奏の機会が与えられますので、良いプロジェクトではないでしょうか。

2017年現在、全国で565名の子供たちが参加しているそうです。

2つ目は、「音楽配信」です。

国内外の音楽市場に向けた芸大生のキャリア支援及び機会の創出を目指したもので、9組の学生代表の演奏を収録したアルバム「東京藝大音楽学部 推薦学生によるクラシックから純邦楽まで! 現在(いま)聴くべき究極(9曲)!」を配信しています。iTunes クラシックチャートで、第1位にもなったそうです。

3つ目は、「クラウドファンディング」です。

大学が提供する様々な芸術作品に、一般から資金を募るプロジェクトです。新しいパトロン制度とも言えそうですね。社会が芸術家をサポートできる文化の醸成を目指してスタートしました。

芸大に遺されたレコード2万枚の危機を救うプロジェクトでは、支援する金額によって、御礼状やHP、レコード保存箱への芳名だけでなく、芸大図書館の見学ツアーや普段入れない書庫の見学、蓄音機でのレコード鑑賞、支援者限定蓄音機コンサートへの招待や、「あなただけの蓄音機コンサート」の開催、澤和樹学長による特別限定コンサートと懇談会へのご招待もあったそうです。

若い音楽家たちを支援したい方にとっても、惹きつけられる魅力的なプロジェクトと言えそうです。また、音楽だけでなく、アートや生け花など、色々なジャンルのプロジェクトも立ち上がっていますので、興味があるものを応援するのもいいですね。

4つ目は、「東京藝大ジュニア・アカデミー」です。

芸大には付属の高校がありますが、今年から中学生を対象とした教育も行うそうです。と言っても付属の中学を新設するのではなく、「早期教育プロジェクト」を発展させた形で、芸大の先生などによるレッスンが受けられるプロジェクトです。

授業のスケジュールは、実技のレッスンがあり、お昼休憩後ソルフェージュの授業、休憩後またソルフェージュの授業、実技レッスンと、一日みっちりと音楽の勉強が出来るようになっています。

芸大の先生が主に授業を担当されるそうですが、海外から招いた先生のレッスンや室内楽のレッスンなども行われる予定だそうです。

芸大の構内には奏楽堂というホールがあり、海外の大学やオーケストラから教授や演奏家を招いてレッスンや演奏会を開いていますが、この奏楽堂での発表会も含まれているようです。

全国から優秀な人々が集まる学校なので、敷居が高いイメージを持っていましたが、実際には結構開放的になってきているようです。芸大がより身近になり、世界で活躍できる人材が多く育っていくといいですね。

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