(この記事は、2024年3月18日に配信しました第393号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、「情熱大陸」というテレビ番組のお話です。

毎週日曜日の夜に放送される「情熱大陸」は、様々な分野で活躍している人々を、密着取材を通して紹介するテレビ番組です。ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さん作曲のテーマ曲が大変有名で、今では小学校の合奏にも使用されるほどの人気なのだそうです。

音楽番組ではないのですが、これまで何人もの演奏家も取り上げていて、大変人気のあるピアニストのフジコ・ヘミングさんも、かつてこの番組に登場していました。リアルタイムで見た覚えがあるのですが、波乱万丈の人生を歩まれ、だからこそなのかもしれませんが、大変奥深く印象強い演奏をされていました。フジコ・ヘミングさんが番組内で演奏していたリスト作曲の「ラ・カンパネラ」も、この番組がきっかけで、今では彼女の代名詞とも言える作品になっています。

また、反田恭平さんも、かつてこの番組に登場され、以前このコーナーでも取り上げた覚えがあります。その後のご活躍は言うまでもなく、ショパン国際ピアノコンクールで、歴代の日本人最高位である第2位を受賞され、瞬く間に世界の一流ピアニストの仲間入りをされました。ピアニストとして活躍するとともに、ジャパンナショナルオーケストラを結成して様々なコンサートを開催し、プロデュースなどもされています。結成して3年目を迎え、チケットは軒並み完売という大変な人気で、大変珍しい株式会社の形態をとっているオーケストラなのですが、既に黒字化しているようで経営手腕も確かなようです。

前回の放送では、ピアニストの亀井聖矢さんが登場しました。満を持しての登場と言うセリフがピッタリな気がします。桐朋学園大学に飛び級入学して、その年に日本音楽コンクール、ピティナ・ピアノコンペティションという日本の若手音楽家たちの登竜門として大変有名な2つのコンクールの両方に優勝されました。演奏家を多く輩出しているトップクラスの音楽大学である桐朋学園大学に史上初の飛び級入学しているだけでも驚きですが、さすがに入学して1年も経たないうちに同時制覇するとは、大学側も想像していなかったのではと思います。この圧倒的な実力は、数々の国際コンクールでも発揮されていますが、2022年にロン=ティボー国際コンクールで優勝されて、知名度を不動のものにされました。

番組は、亀井さんが2年前に語ったという「ピアニストのゴールは、コンクールじゃない」という言葉から始まりました。ストラヴィンスキー作曲の「ペトルーシュカからの3楽章」という難曲を弾く亀井さんの姿は、番組で流れた「憑りつかれたかのように弾きこなす」という言葉そのもので、切れ味鋭い演奏と共に、惹きつけられる魅力を醸し出していました。もちろん番組の一場面なので、演奏もごく一部のみしか流れませんでしたが、おそらく誰もが、その凄さを感じたのではと思います。演奏直後に、会場のあちこちから歓声が沸き、映像を見る限りでは観客全員がスタンディングオベーションという状況になっていました。

これほどの輝かしい活躍をされていますが、ご本人は「いつまでも超絶技巧ばかり弾いていないで、ちゃんと自分の内面とかを含めてピアニストとしての幅をもっともっと深めていきたい」と、にこやかな表情でしたが、冷静な自己分析をされていました。昨年あたりから、ショパンの作品の練習をされているそうですが、「僕にとって、ショパンは凄く難しい作曲家で、全力で気持ちよく弾くと、繊細なショパンのキャパシティをオーバーしてしまうので、今はまだショパンが見つかっていない状態で、自分の中の良いショパン像に出会えるところまで成長できるように頑張ります」ともコメントをされていました。番組では、おそらくショパンと同時期のピアノフォルテでショパンの作品をを演奏している亀井さんが映っていました。素晴らしい演奏でしたが、ご本人はもっと高みを目指しているようです。

昨年、ドイツに移り住んで、200年以上の歴史があるカールスルーエ音楽大学に留学して、日本人ピアニストで教授の児玉桃さんに師事しているそうです。番組では、なかなか普段見ることのできない、ピアニストのレッスン風景の映像も見ることができました。

亀井さんの演奏を聴いた児玉さんは、「ショパンは、センチメンタルに弾こうとしてテンポを揺らしがちだけど、一定のテンポを保って弾いている所は良いと思います」と感想を話しつつ、「顕微鏡で楽譜を見るように、細かく見ていきます」という発言もしていました。児玉さんが、「長いフレーズなので、先に進みたいという気持ちはわかるけれど、進まないで、ショパンの祖国であるポーランドの事を思い(当時はロシアの支配下で、ショパンはフランスに亡命していた)、痛み、凄く寂しい気持ちを思いながら弾く」とアドバイスをしますと、亀井さんは頷きながら、時には児玉さんの顔を見つつ、iPadの楽譜に熱心に書き込みをしていました。「すごくきれいな音なんですけれど、もう少し深くまで行けると思うんですね」「ここまでは深いんですけれど、あとからその魂みたいなものが昇っていくように」という旨のアドバイスもされていて、ピアニストがレッスンを受けると、このような風景になるのだなあと大変興味深く見ました。

番組では、ピアノ以外でのプライベート映像も流れていました。友人の留学仲間とルームシェアをして住んでいる家で、携帯でレシピを見ながら、先程スーパーで買ってきた食材を使い、料理を始める姿も映っていました。ルームシェアしている友人が番組スタッフのインタビューを受けている最中に、亀井さんが若干危なっかしい手つきで食材を切りつつ、「今日、ゴミ出しありがとね」と話しかけて、友人が笑って返事をしていたり、亀井さんが、「僕は、一緒に住んでいてストレスは無いんですけど、どう?」と笑いながらルームシェアしている友人に返事を求めると、友人がニコニコしながら、「(ストレスは)無い、無い!」と答えて2人で笑いあっている姿は、普段の2人の生活ぶりが垣間見えたようで、ほほえましい感じがしました。

「一緒に過ごしていて面白いですね、楽しいし、話も面白いよね」と友人がインタビューに答えると、それを聞いた亀井さんが、「おお~、いいね。もっともっと(言って)」と笑いながら話していたり、パスタ料理を作りながら、「頼む、美味しくなってくれ」と話しながら「最後は、混ぜるで合っているよね?頼む、いい匂いではある」と、コメントも面白くて、亀井さんのユニークなキャラクターもよく伝わってきました。

リトアニアの音楽祭に招かれた亀井さんのリハーサル風景も流れていました。亀井さんがピアノを弾きつつ、不意に演奏を止めて、iPadの楽譜に書き込みをしていましたが、赤や青のペンでの書き込みがたくさんありました。左手の伴奏形の反復練習などもされつつ、また書き込みをしたりで、この日は8時間みっちりと練習をしたそうです。リトアニアでは初演奏だったそうですが、ここでも拍手喝采と次々とスタンディングオベーションも起こり、大好評の様子が映っていました。「完璧だったわ。とても個性的」「演奏の内容が、とても深くて日本の精神が感じられたよ」と聴衆のコメントも紹介されていました。

ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団との日本公演の様子も流れていました。リハーサルが短時間しかなく、オーケストラとタイミングが合わず苦悩する亀井さんの姿もありました。「本番のつもりで弾いたけれど、思うように提示しきれなかった。難しい。どういうプロセスが正解なのか、分からない。どうしたらいいんだろうなあ…」と、うつむいて無言になってしまっていて、相当悩んでしまっている様子でした。本番前に、この状態ですとかなり深刻だと思うので、本番の演奏はどうなってしまうのか、番組を見ている私も祈るような気持ちでした。本番の演奏が始まり、オーケストラの前奏の後に、亀井さんのピアノソロ部分が始まりましたが、先程の苦悩に満ちた姿とは打って変って確信を持った演奏をされていて、非常に驚きました。亀井さんの、憑りつかれたかのような表情まで見受けられ、「ホールで聴きたかったなあ」と後悔すら感じるような素晴らしい演奏でした。

演奏後、舞台袖に戻ってくると、水を飲み開口一番「楽しかった!」と晴れやかな顔をされていたところが、とても印象的でした。指揮者も、亀井さんと抱き合って演奏を称えていましたし、「オーケストラをよく聴いて、しっかり反応していたよ。素晴らしかった。このまま進みなさい」と声を掛けていました。亀井さんには、大変嬉しい言葉だったのではないでしょうか。

どこまで極めていくのか、目が離せない若手ピアニストの亀井さんを、これからも大いに注目していきたいものです。

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