(この記事は、2021年4月12日に配信しました第320号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、「ららら♪クラシック」というテレビ番組のお話です。
「ららら♪クラシック」の最終回を見ました。音楽の魅力を伝えてきたこの番組も最終回となり、総集編としてこれまで取り上げてきたテーマを振り返る内容になっていました。
東京芸術大学の音楽教育を見学するコーナーでは、一学年にたった2人しか入れない指揮科の見学をしていました。才能を見込まれた生徒さんのレッスンの様子です。
オーケストラに、ちゃんと自分の目指す音楽を理解してもらい、納得して演奏してもらうためには、少なくとも自分の音楽の解釈を正確に伝える必要があります。司会の高橋さんが、指揮者体験をしていましたが、ベートーヴェンの交響曲「運命」の指揮をしてみますと、合図を送っているのに演奏者が弾く事ができません。高橋さんも「あれっ?」と言っていました。指揮科の教授が、曲の最初に休符が書かれているので、そこを正確に合図するようにとアドバイスし、高橋さんが改めて指揮をしますと、きちんと演奏することができていました。高橋さんも、とても嬉しそうな笑顔をされていました。
次に、作曲科のレッスン室のドアを開けると、意外にもエレキギターの演奏の真っ最中でした。ロックバンドの白熱したライブ風景のようで、演奏が終わると司会者の高橋さんとアナウンサーのお二人は、あっけにとられた表情でした。高橋さんが、「これは、クラシック?」と恐る恐る聞きますと、指導されている教授は、「いやいや、これは彼が作曲した音楽のエレキギターパートの演奏なんです」と解説していました。創造・創作とは、自分がやりたいと思う一番先頭を目指していくという理念があり、それを表現するためには技術が必要で、それを指導しているのだそうです。
「という事は、クラシックの未来も、この学校で創造しているわけですね」と高橋さんがコメントされていましたが、未来の音楽家が日々技術を磨き、創作している姿は興味深いですね。指導されている先生方も、伝統を重んじて守る一方で、新しいものを取り入れて更に良いものにしていくという姿勢が素晴らしいと思いました。
スゴ技にびっくり楽器特集というコーナーでは、楽器の女王と呼ばれるヴァイオリンで、超絶技巧の演奏をしていました。単に技術を見せびらかすのではなく、バイオリンの魅力を伝えることも重要だと演奏家がコメントされていました。
造形美のあるオーボエは、姿とは裏腹に、演奏するのが最も難しいと言われる楽器です。オーボエの演奏の難しさは、音の発生源であるリードと呼ばれる部分にあります。リードだけを吹くと、草笛のような音がするのですが、歯に充てることなく唇だけを当てて音を出します。これが、とても大変で息苦しいのだそうです。
オーボエ奏者の自宅の作業場には、リードを作るための道具が、テーブルいっぱいに並べられていました。材料となる葦が、袋いっぱいに入っていて、道具を使って縦3つに割り、内側を1ミリ以下に削るのだそうです。この演奏家は、0.57ミリから0.58ミリに削っていましたが、大変細かい作業ですね。
ちなみに、その後は水につけて柔らかくして、リードの形に整えて完成させるそうです。演奏するまでに、このような作業を演奏家自らが行っていたとは驚きですね。
男性の高い声のパートであるテノールの紹介では、オペラの声の出し方を教えていました。体を楽器にして、声を大きくするというよりも共鳴させて響かせるものだと解説されていました。テノール歌手の指導で、テノールの名曲を高橋さんが歌うコーナーでは、息が続かなくて苦しそうな表情が写っていて、ご本人も「辛い」とコメントされていました。
楽器のこだわりや、一流演奏者の命もかけた凄さを感じたと、高橋さんがコメントされていました。
世界一流のオーケストラである、ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団を訪問したコーナーでは、本拠地のウィーン学友協会の内部が映し出されていました。黄金のホールとも呼ばれ、ニューイヤーコンサートでもおなじみのホールです。番組では、ウィーンフィルの練習風景も放映されていました。普段なかなか見ることができない貴重な映像で、丁寧に一音一音に磨きをかけていく様子が見れました。
世界最高のオーケストラを呼ばれる理由について、ウィーンフィルの楽団長は「ブラームスやブルックナー、マーラーにワーグナー、そしてヴェルディ。みんな自分の作品を私達のために指揮しました。こんなオーケストラは、他にはありません。その体験こそが、我々の中に刻まれていて、これが世界一と言われる理由かもしれません」と話していました。
ワルツ王と呼ばれた作曲家 ヨハン・シュトラウスの子孫に会うコーナーもありました。今でも一族が音楽家で、その方は、ヨハン・シュトラウスからみて5代目にあたりますが、作曲はされていないそうです。「なぜ、作曲をしていないのか?」という質問に、「こんなに才能ある作曲家がいるんだから、もう十分でしょう。『美しき青きドナウ』や『こうもり』を超えられる? 無理でしょ?」と笑顔で答えていました。
『美しき青きドナウ』は、今でこそオーケストラの演奏でお馴染みですが、元々は戦争で疲れた人々を勇気づけるため、アマチュアの合唱団がヨハン・シュトラウスに作曲を依頼し、そのメロディーに合唱団が歌詞を付けた合唱曲でした。「どんなに恐ろしい状況でも踊れ」という歌詞が書かれていて、踊れば恐ろしい運命も忘れられるということのようです。
今では、ゆったりとした心地よい流れで優美さを感じる作品という捉え方になっていますが、当時は辛い時代を生き延びるためのメッセージが込められていました。そのような曲の背景を知ると、より音楽の感動が深まると高橋さんがコメントされていました。
コロナ禍で生の演奏を聴く機会が減っているこの時期に、音楽を届けようと奮闘する演奏家を取り上げるコーナーでは、新日本フィルハーモニー管弦楽団のテレワークが紹介されていました。
テレワークだと合わせるのが至難の業といわれる楽曲にチャレンジということで、ロッシーニ作曲のウィリアム・テル序曲を演奏していました。出だしのトランペットの細かい音も見事にピッタリとタイミングが合っていて、音だけ聞いているとそれぞれが別の場所で演奏しているとは思えない程ピッタリさです。しかし、映像を見ますと、お子さんが後ろで指揮者のマネをしていたり、食器棚の前で演奏していたり、アスリートぽい恰好で演奏している人もいて、確かにテレワークという事がわかります。見ていてとても面白く、プロの技の素晴らしさが大変よく伝わるものでした。
テクノロジーと音楽のコラボのコーナーでは、大学と企業が共同開発したアンドロイドと一緒に演奏する演奏家が紹介されていました。音楽は、元々テクノロジーと密接な関係にあり、テクノロジーは基本的に退化することがなく進化しかしないのが面白いと話されていました。それによって、創作が触発されていくのだそうです。
演奏も映し出されていましたが、近未来の音楽を聴いているような、なんとも不思議な世界を体感でき、音楽の幅の広さを改めて感じました。
「クラシックは、古臭くて昔のものだという既成概念があったけれど、あらゆる音楽の中にあって、現代もあって未来もあって、今後の変化が楽しみだ」と高橋さんが話されていました。あらゆる音楽を、それぞれが色々な楽しみ方で味わう事ができるという、音楽の多様性も感じる番組でした。
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