(この記事は、第217号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、「難しいピアノ曲」についてのお話です。

少し前ですが、日曜日に放送されている「題名のない音楽会」を見ました。日曜の午前中に、気軽にクラシックを楽しめる番組で、大変な長寿番組ですね。

その日は、「難しいピアノ曲と作曲家」というテーマでしたが、「チョップスティック ハンガリー狂詩曲風」というピアノの連弾から始まりました。

左右それぞれの手の指1本づつ、計2本の指で弾く事から名前が付いた「チョップスティック(お箸)」という作品を、リストのハンガリー狂詩曲のような、超絶技巧の連弾の曲にアレンジしている作品です。

原曲を弾いたことがある方もおられると思いますが、とても軽快でかわいらしい雰囲気の楽しい音楽です。それを、ハンガリー狂詩曲風にアレンジしますと、どんどん音数も増えて、演奏の最中に高音部の方が、低音部に移動したり、とてもゴージャスな音楽になっていました。

そのあとは、ストラヴィンスキー作曲 G.アゴスティ編曲の「火の鳥」より「凶悪な踊り」を取り上げて、オーケストラの作品をピアノで弾く時に難しいところについて、アナウンサーとヴァイオリニストの後藤龍さん、ゲストのピアニスト2人とトークを繰り広げました。

簡単にまとめると、以下の3点が難しいところのようです。

・ ピアノ1台でオーケストラの音域を演奏するので、跳躍が激しく、瞬間的に高音を弾いて、直後に低音を弾くような手の動きになり、音を間違えないように弾くのが難しい。

・ 広い音域を弾くので、腰を浮かさなければならない。

・ 同じメロディーを、次々と違う楽器で弾いている所を弾き分ける必要がある。

その後、ピアニストが実際に演奏されましたが、司会の後藤龍さんが、「これは凄いなあ」という表情で、演奏に見入っていた姿が印象的でした。

演奏と共に、テレビ画面には、「弦楽器のピチカート(弦を指ではじく)をピアノで表現するのが難しいです」とか、「通常、ピアノの楽譜は2段の五線で書かれていますが、この場面では3段の楽譜で書かれています」など、随所に演奏者のコメントが流されていて、聴くポイントがわかりやすいと思いました。

「難しい曲」というと、ヴァイオリニストでもあったパガニーニが有名で、物凄いテクニックで「魅せる」ことをしていたわけですが、それをピアノの世界で行っていたのが、ピアノ界のスーパースターとも言われるリストです。

番組では、リストと同時代で、リストからも超絶技巧ぶりを恐れられていたアルカンという作曲家の「鉄道」という練習曲が演奏されました。演奏は、アルカンの作品のみを演奏するリサイタルを行い、ネットの世界で「ピアニート公爵」としても注目されているピアニストの森下さんです。

楽譜を見ると、音数も思ったほど多くなく、一見するとそんなに難しそうに見えないのですが、右手に延々と16分音符が続き、しかも物凄くテンポの速い曲で、テレビ画面には、演奏されている場所の楽譜が映されているのですが、本当にテンポが速いので、映されている楽譜も凄い速さで動いていき、目が追い付かなくなりそうな感じでした。

司会の後藤龍さんも、あまりの凄さに笑いが出ていましたが、ペダルの踏み替えも、スゴイ速さで行っており、演奏している森下さんも、弾き終わった後、「はあ~」とため息を付いていたのが印象的でした。やはり、ピアニストにとっても、演奏するのが大変なのですね。

番組の最後には、バラキレフ作曲の「イスラメイ(東洋的幻想曲)」が演奏されました。イスラメイは、コーカサス地方の民族舞曲の事なのだそうです。

19世紀の有名なピアニストであるハンス・フォン・ビューローが、「あらゆるピアノ曲の中で一番難しい」と話していたそうです。私が音楽大学に通っていた頃、卒業試験に、この作品を弾いていた人が何人もいました。

細かい音符がたくさん出てきて、当時は、「とにかく息つく暇もない難曲」という印象でしたが、今改めて聴いてみますと、それだけではなく、色々な表情のある面白い作品だなあと思いました。

難しいテクニックの作品は、どうしてもその難しさに目がいきがちですが、その先にある表情豊かな音楽を楽しむことを忘れずに鑑賞したいものですね。

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(この記事は、第216号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、ここ数週間の間に音楽業界に飛び交った話題のお話です。

まずは、クラシックの作曲家の中で思った以上に人気があり、一度好きになるとハマってしまう方も多いバッハにまつわる話題です。

J.S.バッハが作曲した歌曲「おお永遠、そは雷の言葉」の直筆譜が、当時初演されたドイツのライプツィヒに戻ることになり、記念式典が開かれたそうです。スイスの財団が所有していたものを、ライプツィヒ・バッハ資料財団が198万ユーロ(約2億3800万円)で購入したそうです。

作曲家の直筆譜は、作曲の過程が見えたり、曲の解釈や演奏のヒントになるので、大変貴重かつ重要な資料です。28ページもある作品だそうですが、これから研究が進み、バッハの音楽への理解がさらに深まるといいですね。

次は、グラミー賞の話題です。名前を聞いたことがある方も多いと思いますが、アメリカの音楽界で最高の栄誉とされている、ナショナル・アカデミー・オブ・レコーディング・アーツ・アンド・サイエンス (NARAS) が主催する音楽賞です。映画業界の「アカデミー賞」と同等に扱われるほど、現在では世界的に権威ある賞になっています。

これまで、日本人ではオノ・ヨーコさんや坂本龍一さん、上原ひとみさん、小澤征爾さんなどが受賞されています。

そして今年、ピアニストの内田光子さんが、ドイツのソプラノ歌手の伴奏を務めたアルバムで見事に受賞されました。内田光子さんは、2011年にもモーツァルトのピアノ協奏曲のアルバムで受賞されたので、日本人では初の2度目の受賞となります。

そして最後に、音楽教室業界に激震が走った話題です。

日本音楽著作権協会(JASRAC)が、大手の音楽教室など楽器の演奏を学ぶ教室から著作権料を徴収する検討をしているという話です。しかも、来年1月から徴収することを考えているそうです。

公衆に聴かせるために演奏する「演奏権」は、その音楽を作詞した人と作曲者が占有するので、これまでにもコンサートやカラオケ、ダンス教室、フィットネスクラブなどでの演奏に使用料を徴収してきましたが、この演奏権が、音楽教室にも当てはまると判断し、日本音楽著作権協会(JASRAC)が管理する楽曲について使用料を徴収したいという事のようです。

当然ながら、音楽教室業界は猛反発しており、ヤマハをはじめとする音楽教室各社が「音楽教育を守る会」を立ち上げ、対応を協議しているそうです。音楽教室での練習や指導のための演奏は、演奏権に該当せず、著作権料の徴収は、文化の発展に寄与するという著作権法の目的にも合致しないと主張しているそうです。

個人的には、教室に通われている生徒さんのほとんどは、個人の楽しみとしていらしていますので、公衆の場で弾くのは発表会のみという方がほとんどです。もともと発表会などは該当しないので、普段のレッスンに関しても該当しないのではと思っています。

もし仮に著作権料を支払う事になった場合、その使用料を生徒さん方に負担して頂く事にもなりかねず、そうなりますと日本音楽著作権協会(JASRAC)の楽曲を外して曲目を選ぶという事も起こりうるのではないかと心配しています。

音楽教室業界に大きな影響を及ぼすことにもなりますので、今後の推移を注意深く見守りたいと思います。

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(この記事は、第215号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、昨年亡くなられたピアニストの中村紘子さんのお話です。

1994年に出版された「アルゼンチンまでもぐりたい」という本を、たまたま見つけて読み返してみました。

それ以前に書かれた「チャイコフスキー・コンクール」が、とても興味深い内容で一気に読んでしまった記憶があります。日本だけではなく、世界で活躍されているピアニストがこんな面白い本を執筆していたなんて凄いと思い、その後の「ピアニストという蛮族がいる」、そして今回の「アルゼンチンまでもぐりたい」と読み進めてきたわけです。

この本を初めて読んだのは学生時代で、ピアノと格闘していた時でした。あの頃とは自分自身も随分変わりましたので、同じ本でも読み返してみますと、新たな発見や感想が芽生えるものです。

「アルゼンチンまでもぐりたい」は、月刊誌に書かれていた連載をまとめたものなので、それぞれの項目が短めで、とても読みやすい本です。コンサートや音楽関連の話だけでなく、飼っていたペットのお話なども出てきます。音楽関連の話では、名演奏家や政治家、皇后美智子様のお名前まで並び、その方々との交流について書かれています。リアルに描かれているので、まるでその場に居合わせたかのような臨場感まで味わえます。

もちろん、同じピアノを演奏する者として、とても興味深かったり、参考になるお話もいろいろと書かれています。

例えばコンサートでは、熱心に演奏に耳を傾ける聴衆が殆どだと思いますが、よくよく見回してみますと、ついウトウト…という方もいらっしゃいますよね。良い音楽を聴いていると、幸せな気分になって居眠りをしてしまう事があり、ピアノの大巨匠リヒテルのリサイタルを聴く度に、良い気持ちになって寝てしまうピアニストもいるのだそうです。だからと言って、コンサートで寝るのが良いというわけではないと思いますが。

演奏会で履く靴についてのお話も書かれていました。演奏会の靴は、極端なほど注意深く選び、もちろん本番前には念入りに履き慣らし、そして、気に行ったら履きつぶすまで使用するのだそうです。そして、どんな色のドレスにも合うように、シルバーを選びます。これは、同じようにされている方も多いと思いますが、発表会などで少しカジュアルな装いだった場合、ゴールドやシルバーの靴は合わない事もあります。普段履いている靴のまま演奏する事もあるかと思いますが、歩き慣れた靴でも、ピアノのペダルに慣れていないと、演奏に支障が出てしまう場合もあるので注意が必要ですね。

フィギュアスケートと(1人で弾く)ピアノ演奏の共通点についても書かれていました。どちらも、一発勝負でやり直しができない事、結果に対する責任を全て自分一人で負う事、テクニックと芸術性の2つが評価される事などです。どんなに普段上手に弾けていても、本番にミスを連発したら残念な演奏になってしまいます。その場の一回限りの演奏で、全てが判断されてしまうのです。また、フィギュアスケートも、技術が素晴らしくても感動するような演技でなければ優勝はできません。指だけがよく動くピアニストの運命と似ていると、本の中で書かれていました。

本番で演奏する時、それがどんなに小さい会場であっても、緊張してあがってしまうというのは、誰もが経験していることだと思います。なんとか克服したいと思い、いろいろと工夫するわけですが、本の中でもこの「あがる」という事について書かれていました。万全の備えをしていても、突発的に自分を襲ってくるという表現をされていて、まさにぴったりと思ってしまう方も多い事でしょう。

ヨッフムという巨匠クラスの指揮者は、指揮台に上がるといつもポケットから小さなメモを取り出して頷くのだそうです。ある日、オーケストラの人がそれについて尋ねると、そのメモを見せてくれたそうです。さて、なんと書かれていたと思いますか? 偉大な指揮者が見ている演奏直前のメモですから、よほど重要な事が書かれているのかと思いますよね。

その答えは、「落ち着いて」。

よく私たちも本番の舞台袖で、生徒さんにお話している言葉そのものです。多くの舞台を経験している音楽家でも、実は同じなのだと、ある意味ホッとしてしまいます。

ちょっと変わった「あがらない」ための対策をしていたポーランドのピアニストは、舞台隅の良く見える所に愛犬を座らせ、ピアノの上に祈祷書を置くのだそうです。愛犬は、もちろん本物のペットですから驚きですよね。ペットの犬と、祈祷書がないとピアノを弾けないと言って、そのスタイルを貫いていたそうです。今では、ちょっと考えられないですがね。

ピアノ界の大巨匠の一人ホロヴィッツが、かつて13年ぶりに演奏会を開いたとき、中村さんの知り合いが最前列で聴きに行ったそうです。その方のお話では、ホロヴィッツは手が震え、膝がガクガクしていて、プログラムの前半の演奏は、ずっとあがったまま終わってしまったのだそうです。超一流のピアニストでも、緊張するのですね。

中村さんご自身のエピソードも書かれていて、以前、本番前に同じピアニストの友人が訪ねてきたのだそうです。その時に友人が、先日同じ曲を弾いたときに間違えてしまった箇所の話をしたのだそうです。そして、中村さんの演奏が始まりますが、先程友人が話していた箇所で、同じように間違えてしまったのだそうです。それ以来、演奏前には絶対人に会わない事にしていたのだそうです。

確かに、本番直前でネガティブな事を考えたりしますと、本当にそのようになってしまうので、反面教師として覚えておきたいですし、「メモを見る」というのも良さそうですね。

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