(この記事は、第96号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、ピアニスト達の系譜についてです。

クラシックの音楽家は、作曲活動がメインと思われがちですが、とても演奏が上手だった音楽家もたくさんいます。

昔は「ピアニスト」とか「作曲家」と呼ばずに、「音楽家」と呼ばれていましたが、それは作曲活動や演奏活動といった1つのジャンルだけではなく、音楽全般について活躍していたからです。

例えば、J.S.バッハは、膨大な数の作品を残していますが、当時ピアノが作られる前に広く使われていたチェンバロという鍵盤楽器をお弟子さん方に教えるための教材として作曲した作品も多く含まれています。

現在のように、たくさん、いろいろな教材があったわけではないので、教材を作ることも音楽家の仕事だったのですね。

演奏もピアノだけではなく、モーツァルトのようにヴァイオリンがとても上手だったり、シューベルトのようにとてもきれいな声を持っていたり、バッハやサン=サーンス、フランクのようにパイプオルガンの演奏がとても上手だった人もいます。

「エリーゼのために」「ソナタ悲愴」「ソナタ月光」など多くのピアノ曲を作曲したベートーヴェンも、幼少の頃からピアノの演奏がとても上手でした。

ベートーヴェンは、「ウィーンへ行ってモーツァルトに習いたい」と思っていたそうですが、実際に訪れた時に既にモーツァルトは他界しており、モーツァルトの先生でもあったハイドンに習います。

そのベートーヴェンも、作曲活動や演奏活動の他に、お弟子さんのレッスンをしていました。その一番弟子が、膨大なピアノ練習曲を書いたことで有名なチェルニーです。

ピアノを弾いている人にとって、チェルニーの練習曲は必須の教材ですが、とにかく量が多く、あまり音楽的な感じがしないので(練習曲なので当たり前かもしれませんが)、苦しまれた方、または今苦しんでいる方も多いかもしれません。

当時、チェルニーは音楽教師として、とても有名でした。

バッハと同じく、お弟子さんを育てるためにあの膨大な練習曲を作曲したのですね。

チェルニーが育てたお弟子さんの中で、おそらく一番有名なのが、「愛の夢第3番」や「ラ・カンパネラ」で有名なリストです。

現在でも史上最高のピアニストと称賛されていますが、神業のようなテクニックと華麗な演奏で当時大人気でした。

リストも多忙な演奏活動の傍ら、400人以上のお弟子さんを育てたことで有名です。

そのお弟子さんの中で有名なのが、ザウアー、ル-ビンシュタイン、ハンス・フォン・ビューローです。

このあたりの時代になりますと、録音が残っていますので当時の演奏を聴くことができます。

ザウアーのお弟子さんの、そのまたお弟子さんが、現在活躍されている内田光子さんや、アルゲリッチになり、ルービンシュタインのお弟子さんがネイガウス、そのお弟子さんがリヒテルやエミール・ギレリスになります。

その他にも同じリストの孫弟子として、ラフマニノフやホロヴィッツ、アシュケナージ、ブレンデルなど、現在世界のトップクラスで活躍されているピアニスト達の名前が挙がります。

リストと同時期に活躍し、ピアノの詩人と呼ばれたショパンも、もちろんお弟子さんを育てていました。現在でもショパンの楽譜として有名な「コルトー版」の著者であるコルトーや、フランス音楽の演奏で大変有名なフランソワなどがそうです。

現在活躍されているピアニスト達の先生の先生の・・・と歴史を遡っていきますと、学校の音楽の授業で習ったベートーヴェンやリストなど、有名な音楽家にたどり着くのです。

これらの音楽家が本当に実在していた事を、改めて感じますね。

数百年前の音楽家たちの音楽の真髄は、楽譜という紙の上だけでなく、実際の演奏に脈々と受け継がれているのです。

そう思うと、現在のピアニスト達の演奏の聴き方も、少し変わってくるのではないでしょうか。

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(この記事は、第94号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、ピアノ調律師のドキュメンタリー映画「ピアノマニア」についてのお話です。

ピアノを弾く人にとって、調律師さんとの付き合いは年に1・2回くらいだと思いますが、それでも調律師の存在は欠かせません。

ヴァイオリンなどの弦楽器やフルートやトランペットなどの木管楽器・金管楽器など、ほとんどの楽器は、演奏する人が自ら調律をします。ピアノが誕生する以前によく使われていた鍵盤楽器:チェンバロでも、同様に演奏する人が調律をします。

しかし、ピアノは、とても複雑で精密な楽器なので、ピアノの調整や修理などを専門に行う調律師が誕生しました。

調律師の仕事として、狂ってしまった音を直したり、切れてしまった弦を張り直すくらいは誰でも知っていますが、調律師が実際にどのような生活をしていて、どのような事をしているのか知らない方がほとんどなのではないでしょうか。

そんな調律師に密着したドキュメンタリー映画「ピアノマニア」が公開されているので鑑賞してきました。

主人公のシュテファンは、世界最高峰のピアノとして有名なスタインウェイ社の調律師で、名ピアニストのピエール=ロラン・エマールの録音に向けて、他のピアニストの調律などの仕事もしつつ、1年以上もの歳月をかけて、調律をしていくストーリーです。

ピアニストは、自分が思い描く最高の演奏を追い続けますから、おのずとピアノやピアノの調律に対しても大変なこだわりを持っています。

ピアニストが求めているピアノの音色を察して、楽器選びからピアノの椅子にまで神経を使い、ピアニストと何度も話し合いながら、具体的なピアノの音色や響きを探していく場面は、とても神経を使い、また神経をすり減らす、とてもストイックな仕事なのだと感じます。

ピアニストが求めている音になるように、音色や響きを工夫しても、ピアニストがあまり気に入ってくれない場面では、気の毒な感じさえしました。

それでも、ピアニストが最高の演奏をするために苦労を惜しまず、録音する日に間に合わせ、ピアニストから最高の褒め言葉を貰った時の笑顔は、これまでの苦労が報われた安堵感に満ちていました。

ピアニストが自分の調律したピアノの音色に心から満足しているという事は、調律師にとっては調律師冥利に尽きるのかもしれません。

この映画では、他にもラン・ランやブレンデルなど大人気ピアニスト達が登場し、コンサート前のリハーサル風景も見ることができます。

日常のごくごく普通のピアニスト達の姿は、とても親近感が湧きますし、リハーサル風景は通常では絶対に見られないので、とても興味深く、貴重なシーンにも感じました。

この映画では、ピエール=ロラン・エマールが、J.S.バッハの「フーガの技法」という作品を録音しています。

この作品は、1740年代に作曲されたバッハの晩年の作品で、未完の傑作とも言われました。演奏楽器の指定がないので、チェンバロや室内楽、オーケストラなど色々な楽器で演奏される作品です。

ピエール=ロラン・エマールは、この曲をピアノで演奏するわけですが、1台のピアノでチェンバロのような響きや、オルガンのような響きなど、曲の場面に応じて具体的なイメージを調律師や録音スタッフと話している場面が出てきます。

この収録された演奏は発売されていますので、映画を思い出しながら聴きますと、演奏者の意図や思いを更に感じることができるかもしれません。

バッハ:フーガの技法
エマール(ピエール=ロラン)

ユニバーサル ミュージック クラシック

映画「ピアノマニア」は、東京のシネマート新宿や、大阪のシネマート心斎橋、愛知の名演小劇場で公開されていますが、3月には静岡のジョイランドシネマ沼津や静岡シネ・ギャラリーでも公開されるようです。

なかなか貴重な映画だと思いますので、足を運んでみてはいかがでしょうか。

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(この記事は、第93号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、音楽家の寿命についてのお話です。

21世紀の現代から見ても、数百年も前に作曲された音楽が全く古さを感じさせず、むしろ新鮮であることに、驚きを感じます。

作曲家が全身全霊を傾けて生み出された音楽は、音楽家自身の身を削って作られた作品と言っても過言ではありません。

裕福な家庭に生まれた音楽家もいれば、生活していくのがやっとで、五線紙を買う余裕もなかった音楽家もいます。

また、国民的大スターになって、葬儀に何万人ものファンが参列した作曲家もいれば、お葬式も行われず、お墓もなかった作曲家もいます。

生まれた国や時代、生活環境などは異なりますが、寿命という点から見てみると、長寿だった音楽家と短命だった音楽家の両極端に分かれるようです。

まず、長寿だった音楽家を挙げてみましょう。

ワーグナー 70歳
ラフマニノフ 70歳
ヨハン・シュトラウス二世 74歳
リスト 75歳
ロッシーニ 76歳
ハイドン 77歳
エルガー 77歳
フォーレ 79歳
メシアン 83歳
リヒャルト・シュトラウス 85歳 
サン=サーンス 86歳
クライスラー 87歳
ヴェルディ 88歳
ストラヴィンスキー 89歳
ロドリーゴ 97歳

今回「ピアノのしらべ」でご紹介した、シベリウスも91歳という長寿でした。

70代は、現代の平均寿命から見ますと、長寿に入れてよいのか迷うところですが、時代を考えますと十分長寿と言えると思います。

次は、反対に短命だった音楽家です。

瀧廉太郎 23歳
シューベルト 31歳
モーツァルト 35歳
ビゼー 36歳
フォスター 37歳
メンデルスゾーン 38歳
ガーシュイン 38歳
ショパン 39歳
ウェーバー 39歳

モーツァルトやショパンが短命だったことは有名ですが、他にも色々な作曲家がいて、日本人の作曲家、瀧廉太郎がわずか23歳の短命だったことは、殆ど知られていないのではないでしょうか。

それでも「花」「箱根八里」「荒城の月」「鳩ぽっぽ 」「雪やこんこ」「お正月」など、次々と傑作を生み出したのは、すごいですね。

他の音楽家も、30代でこの世を去ってしまった訳ですが、もっと長寿で活躍する期間が長かったら、更に多くの傑作が生まれていたかもしれないと思うと、とても残念です。

このように音楽家の寿命を知ると、音楽の聴き方や感じ方が、少し変わってくるかもしれません。

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