(この記事は、2024年9月30日に配信しました第406号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、クロード・ドビュッシーのお話です。

クラシックTVというテレビ番組で、クロード・ドビュッシーを取り上げていたので見てみました。司会者の清塚さんがアレンジしたドビュッシー作曲「月の光」のピアノ演奏で、番組はスタートしました。

番組ゲストは女優の成海璃子さんで、映画でピアニスト役をされていた時に、ピアノの指導が清塚さんだったという関係があるそうです。大の音楽好きと紹介されていました。成海さんは、5歳くらいからピアノを習っていたそうですが、数年で止めてしまい、その後はピアノを弾く機会がなかったそうです。しかし、コロナが流行した時にピアノを再開し、ラグタイムを練習しているという成海さんに、清塚さんが「え~っ!」と言って、ちょっと話が盛り上がっていました。ラグタイムは19世紀末頃、北アメリカで生み出された黒人音楽に影響を受けた音楽ジャンルで、スコット・ジョブリン作曲の「エンターテイナー」がとても有名な作品です。清塚さんがラグタイムもクラシックに取り入れたのは、ドビュッシーではないかという話をしますと、もう一人の司会者で歌手・モデルの鈴木愛理さんと成海さんがとてもびっくりしていました。

ドビュッシーの印象について、成海さんは、「テレビやコマーシャルで何回も聴いたことがある有名な曲ばかりで、有名な曲が多くて聴き覚えのある曲ばかりだなあという印象がある」と答えていました。

番組では、ドビュッシーの代表曲として「ベルガマスク組曲」から「月の光」のピアノ演奏を見ながら、「メロディーとも言えないような音楽で、口ずさむような音楽でもないし、不思議な感じがする音楽ですね」と清塚さんが解説していました。確かに、ベートーヴェンやモーツァルトのように覚えやすいメロディーという訳ではないですね。また、ハープ演奏で「アラベスク第1番」、ピアノ演奏で「亜麻色の髪の乙女」が流れますと、「美術館に行っているような気分がしますね」という解説や「天才だなっと思いますね」という感想も出てきていました。

ドビュッシーがどんな作曲家なのかという質問に、清塚さんは、とても困っている表情を浮かべつつ、「一言で説明するのは難しいよ。だけど、テレビだから仕方なく一言でいうと、音楽で絵を描いた人」と答えていました。司会の鈴木さんが、笑いながら直ぐに「えっ、どういうことですか?」と聞き返し、成海さんは、「絵を描く?!」と不思議そうな表情を浮かべていました。確かに、「?」と思う方も多いかもしれません。「音楽を鑑賞しているというより、映像を観ているような気分に不思議となっていますよね。ビジョンやイメージで、絵を音で描くところが、ドビュッシーのすごいところだなあと思いますね」という清塚さんの言葉に、「うん、映像が浮かんできますよね」「目を閉じたくなる感じ」と鈴木さんも成海さんも頷きながら感想を話していました。

ドビュッシーは、1862年にパリ近郊の町で生まれましたが、この頃のパリは経済的にも政治的にも不安定だったそうです。ドビュッシー家の生活も影響を受けていたようです。ドビュッシーは内気で不愛想な性格だったそうで、番組では幼少期のドビュッシーの写真も紹介されていましたが、少し気難しそうな雰囲気でした。学校帰りに、同級生が安いお菓子を一杯買って、ほおばる中、ドビュッシーはおしゃれなパイやキャンディーを少量だけ買うような子供だったそうです。

ドビュッシーに運命の転機が訪れたのは、カンヌに住む叔母の家を訪れた時です。そこで、これまで触れたことがないピアノに出会い、叔母がコレクションしていた絵画なども初めて目にし、ドビュッシーは大きな感銘を受けたそうです。そして、パリに戻ると、ピアノを始めてわずか10ヵ月でパリ国立高等音楽院に入学したそうです。すごい天才ぶりですね。しかし、気難しい性格だったために音楽院に馴染むことができず、友達も音楽家ではなく別のジャンルの人ばかりだったそうです。叔母の影響で目覚めた美術への興味と、音楽以外の交友関係がドビュッシーの音楽に重要なものだったようです。

番組では、ドビュッシーの交友関係をまとめて紹介していましたが、特に美術界では、ドガ、ルノワール、ドニ、ロダンなどの名前が挙がっていました。有名人ばかりで驚きますね。この頃のパリは、芸術家たちが集まっていた時代で、カフェで朝から晩までずっと芸術談義をみんなでしていたそうです。成海さんに交友関係について聞きますと、「ミュージシャンの方で、仲良くさせてもらっている人が多いですね」と答えていました。直ぐに、「じゃあ、女優仲間はそんなにいないの?」と冗談で聞くと、成海さんは大笑いしながら「うん」と頷いていて笑いが起きていました。「ドビュッシーと一緒だね」「別のジャンルの友達が多いんですよね。なんでですかね」と成海さん自身も驚いていました。「別のジャンルの方のお話を聞いている方が、勉強になったりするよね」「なんかわかる気がしますね。違うところからもらう感性の方が、吸収できたりしますよね」と話がどんどん盛り上がっていました。

番組では、ドビュッシーの音楽と絵画の深い関係について、当時ドビュッシーが出版した楽譜の表紙を3つを紹介していました。

1つ目は「選ばれた乙女」という作品の楽譜で、この作品自体も絵画から着想されたもので、画家のドニに表紙の絵を発注する程こだわりがあったようです。2つ目は「交響詩 海」という作品の楽譜で、日本の浮世絵を表紙に使っています。ドビュッシーは、自分の書斎にも同じ浮世絵である葛飾北斎の作品を飾ってました。3つ目は、「子供の領分」という作品の楽譜で、この表紙はなんとドビュッシー自身が描いたのだそうです。この「子供の領分」の作品の中にも、成海さんが練習しているラグタイムの音楽に通じるものがあるという感想も飛び出していました。

「楽譜の表紙にもこだわるという点でも、ドビュッシーの美的感覚と、絵で作品の内容を象徴している事がわかりますね」という清塚さんの解説に、成海さんも頷いていました。絵画と曲が強く結びついているドビュッシーは、異国への興味も持ち合わせていました。先程紹介した書斎に浮世絵を飾るだけでなく、仏像まで所有していたそうで、エキゾチックな要素を自身の作曲に取り入れていました。例えば、「金色の魚」という作品は、日本の絵画で、金で描かれた魚から影響を受けたそうですし、「アラベスク第1番」は、イスラム美術のアラベスク模様から着想を得て作曲したのだそうです。

番組では、いろいろな文化を音楽に取り込んでいる異国情緒を投影している部分を、清塚さんが生演奏しながら紹介していました。「アラベスク第1番」では、曲線が連なるアラベスク模様を作品で表していて、清塚さんの演奏を聴いて「出口のない感じ」「糸を巻いているような感じ」「細い感じ」と次々と成海さんと鈴木さんが感想を話していました。

「塔」という作品は、パリ万博でドビュッシーがインドネシア・ジャワのガムラン音楽に感銘を受けて作られた作品です。番組では、なんとドビュッシーがパリ万博で聴いたとされる「クボギロ」という作品を生演奏で披露していました。初めて聴きましたが、音楽の雰囲気が「塔」のピアノ曲の雰囲気に通じるものがあるなあと感じました。とても癒される音色でした。ガムラン音楽の演奏者が、使用された楽器についても解説していました。青銅という金属で作られた楽器で、ひとつずつの楽器の調律をわざと微妙にずらしていて、それによって全体の余韻に「うねり」を生み出しているのだそうです。「そのうねりが、西洋音楽には無いエキゾチックさを生みますよね」と清塚さんも感心しながら感想を話していました。「高音で細やかに旋律を描き、時々低音でゴーンという名前の大きな鐘のような楽器を叩くのを、この様に表現しているのではないか」と、清塚さんがお話しながら演奏していました。「これを聴くと、確かにガムラン音楽を表そうとしていることがわかりますね」と話をしていて、私も頷いてしまいました。

「亜麻色の髪の乙女」や「雨の庭」についても、清塚さんは以下の様に語っていました。

「亜麻色の髪の乙女の冒頭のように、メロディーでもあり和音でもあるものが一本に繋がり、それが細くなびいている感じがして、行ったり来たりしている様子も情景が浮かびます。この冒頭部分を聴くだけで、あたたかい色に包まれた絵画で、繊細で美しい方がたたずんでいる様子が、共通のイメージとして浮かびますね。これがドビュッシーのすごいところなんだよね」

「版画という組曲の中に「雨の庭」という曲があるのですが、結構雨が降っている感じで、床にたたきつけるような雨の感じで、絵画でいうと、土とか床に雨が降っている一瞬の様子を表していて、マイナーな和音を使って、同じ音を連打で使う感じが、バタバタとした躍動感を感じて、音楽でビジョンを表現していて、すごいね」

「絵画を観るときの感覚までをも音楽で表現していて、まさにデザインや絵を描くように音を配置していて、これまでになかった作曲方法を使用して、音楽でイメージを与えてくれていて、こういう和音やリズムの作り方がジャズやロックやポップスにも影響を与えたんですね」と清塚さんが熱く語ると、成海さんも「ドビュッシーって偉大ですね。ピアノという楽器で、ここまで表現できる、表現の可能性に刺激を受けた」と感想を話していました。

西洋の音楽に、東洋の音楽を取り入れたり、絵画的な要素を取り込んで新しい音楽作りをしたドビュッシーの素晴らしさを改めて感じた番組でした。

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(この記事は、2024年9月16日に配信しました第405号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、ピアニストという仕事についてのお話です。

世の中にはいろいろな仕事がありますが、ピアノが好きなお子様の場合、ピアニストに憧れることもあると思います。自分自身のことを振り返ってみても、華やかなドレスを着て、オーケストラとフルコンサートピアノで共演しているピアニストを見て、ピアニストに憧れたものです。しかし、ピアニストが、リサイタルでの演奏以外に何をしているのか、お子様にとってはなかなかイメージが湧かないと思います。

ちょうど、ピアニストにインタビューしている記事がありましたので、読んでみました。インタビューを受けたのは嘉屋翔太さんというピアニストで、2021年にフランツ・リスト国際ピアノコンクールで最高位を獲得されています。3歳の頃にヤマハ音楽教室で先生がピアノを弾いている姿を見て、「カッコいい。自分もピアノを弾きたい」と思ったことがピアニストになったきっかけだそうです。

開成中学・高校生の時にも、ピアノのコンクールで相次いで好成績を収め、高校2年生の時には、コンクールで上位入賞することが出来たらピアニストを目指すため音大受験をすると決めたのだそうです。当時のピアノの先生からは、ピアニストとして活躍できる人は限られ、狭き門であると伝えられていたそうですが、猛練習をして東京音大のピアノ演奏家コース・エクセレンスに特待生として入学することになったのだそうです。

インタビューでは、ピアニストの仕事について「演奏活動」と「練習」を挙げています。演奏活動のために練習は欠かせません。観客の皆さんにはステージで披露する演奏しか見えていませんが、その裏には日々の地道な準備や練習があると話されています。

「演奏活動」には、月に2、3回のコンサートがあり、多くが依頼されたもので早ければ1年前から、急な依頼だと1、2か月前に依頼が来るそうです。コンサートの形態は様々で、ソロのこともあればアンサンブルもあり、会場がサロンのこともあれば個人のパーティーという事もあるそうです。演奏曲目は、リサイタルの場合、自分でテーマを決めて自由に選ぶこともあれば、主催者から希望がある場合には意向に沿うような曲目にするそうです。どちらにしても、特定の時代の作品を選んだり、友人関係師弟関係、相互的な影響を受けた曲を選び、演奏会が終わった時にお客さんの教養が一つ増えるような、お客さんにとって新しい発見や学びが得られるようなプログラムを心がけているのだそうです。確かに、リサイタルやコンサートに行こうと思った時には、誰が演奏するのか、どんな曲を演奏するのかをチェックして選びますよね。ピアニストは、そういうところにも気を配っているのですね。

コンサートに関わる打ち合わせやスケジュール管理、衣装の準備などは全てピアニスト本人が行うそうで、コンサート用のチラシを作ったり、プロモーションもピアニスト自身で行っている方もいるのだそうです。

記事では、具体的に1日のスケジュールも書かれていました。午前中に2時間ほど楽譜の背景などを調べ、午後に2時間半ほど大学院でレッスンを受け、夜に4時間ほど楽譜の全体像を細かく見ながらピアノの練習をしているのだそうです。単に指の練習のためにピアノを弾くのではなく、音楽の構造を理解することを大切にしているそうです。楽曲は、起承転結のある物語のように書かれているものが殆どなので、楽譜の全体像を細かく見ることが大切ですし、一方で音楽には表現をつけることも大切なので、作曲家や作曲当時の時代背景などの調べ物をする時間も、仕事の時間として確保しているのだそうです。また、大学院のレッスンでは、自己練習でまとめたものを先生と共有して、ディスカッションするのだそうです。自分の思い描いた音楽と伝統的な解釈に、大きな隔たりがないのかを確認して、新たな解釈を吹き込む可能性を探るためなのだそうです。

ピアニストのお仕事でのやりがいや苦労についてというテーマでは、指を滑らかに動かすような、ピアノを弾く技術を磨く職人的な側面と、楽曲の魅力を独自に解釈をして表現するという芸術的な側面があることや、音楽には正解がないのが苦労する点ですが、同時にやりがいも感じていると話していました。正解がない音楽の世界では、日常生活で感じる全てのことが演奏のインスピレーションの源になっているのだそうです。

ピアニストになるために、どのようなことを学んだのかというテーマでは、「演奏面」と「対外的な面」という2つの軸で努力をしたそうです。「演奏面」では、ピアノはただ指先で弾くものではなく、耳を使って弾くものだということに気づいたそうです。派手で指をたくさん動かす超絶技巧の曲を弾くのが好きで、そういう曲を弾く自分に酔いしれていた側面もあったそうですが、先生に「何も内容が無い」と指摘されたそうです。ただ音を出すだけなら練習すれば多くの人ができますが、少ない音でいかに人の心を動かせるのかがプロのピアニストだと気づいたのだそうです。そのため、本当に美しいのかと審美眼を養うために、一音一音をじっくり聴きながら弾く練習に切り替えたそうです。バランスよく響いているのか、本当に自分は、ちゃんと音が聴こえていたのかと立ち止まりながら練習をしていて、自分の演奏が変わってきたと思えるまで、1、2年かかったそうです。

対外的な面では、「ピアニストの肩書を得ること」「演奏の機会を増やすための人脈づくり」という2つのことを努力したそうです。大学の特待生になって、演奏の仕事を得られるようにはなったそうですが、やはりフランツ・リスト国際ピアノコンクールで入賞してからの方が、箔が付くので圧倒的に演奏の仕事が増えたそうです。ピアニストとして仕事をするには、第3者から認められる必要があるのですね。

もう一つの「演奏の機会を増やすための人脈づくり」では、演奏の機会を得るために、コンサートを主宰されている方との関係作りを行ったそうです。マネジメント会社との契約をした今でも、以前のお付き合いから仕事の機会を得ることがあるのだそうです。ピアニストは人間関係が重要な仕事なので、礼儀やコミュニケーションの積み重ねを大切にしてきたそうで、演奏の仕事をいただく際にも役立っているそうです。

将来の夢や目標については、クラシック音楽本来の楽しみ方を伝えられるような活動をしていきたいとお話ししていました。クラシック音楽は単に古いという意味ではなく、本来は「一流の」という意味のラテン語が由来だそうです。クラシックを新鮮なもの、廃れないもの、洗礼されたものとして、その価値を広めるような活動をしたいという意気込みも話していました。また、伝統的なクラシックのスタイルを持ちつつ、新しさも兼ね備えることがクラシック音楽界に必要なことと考えていて、将来的にはそのような曲を自ら書いて発表していきたいとも話していました。クラシック音楽の素晴らしさを次の世代に伝えることにも意欲があり、音楽も勉強もどちらも学べるような教室の構想もお持ちなのだそうです。

最後に、お子様の保護者に向けたメッセージとして、人生の中で本気で何かを成し遂げなければならない局面が訪れると思うので、お子様が何かに挑戦したいことがある場合には、環境が許すのであれば挑戦できるようにしてほしいと話していました。ご自身の経験として、かつて一緒に学んだ友人達から刺激を受けることが多々あるそうですし、またご両親が音楽にあまり詳しくはなかったそうで、理解が得られずよく喧嘩もしていたそうです。よくお子様と対話して、お互いの理解を深めることが大切ですし、また、お子様はどこかで保護者を喜ばせたいと思っているものなので、些細なことでもよいので愛情を伝えたら、お子様の頑張りの原動力になるのではともお話しされていました。

ピアニストの普段の生活ぶりなどは、まず知る機会がありませんので、とても興味深く読みましたし、お子様への接し方などについても、学ぶことの多い内容でした。併せて、今後の嘉屋翔太さんのご活躍にも注目していきたいと思いました。

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晩夏のピアノ教室


2024年9月16日


(この記事は、2024年9月2日に配信しました第404号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、晩夏のピアノ教室の様子です。

大型の台風が発生して、思った以上に進路予想が目まぐるしく変わり、また速度もかなり遅く、日々どこに向かうのか今後どうなるのか心配しながら天気予報を見ていた方も多かったのではないでしょうか。レッスンにいらしている生徒さん方とも、そのようなお話をしていたところですが、温帯低気圧に変わり、ちょっとほっとしているところです。

台風が接近している時にレッスンが予定されている場合、生徒さん方の安全を考えて終日または半日の休講にします。台風だけではなく、大きな地震や大雪などの天災全般に共通するものです。生徒さんの中には、「徒歩なので行けます!」と言われる方もおり、そのくらいピアノのレッスンに前向きという事で大変嬉しく思いますが、レッスン中に天気が大荒れになってしまい帰宅できないとか、帰宅途中で何かあっては大変です。そのため「急な休講の場合は、後日補講をしますので、どうぞご心配なさらずに。日時を改めてレッスンしましょう」とお話をしています。

今回の台風でも、レッスンに重なりそうな方が多く、予定通りにレッスンが行えるのか心配していましたが、どうにか休講せずにレッスンを行うことができました。しかし、時間帯によっては、土砂降りの中来られた生徒さんもいて、「本当にすごい雨で…」と話し始め、「ここまで来るのに本当に大変でした」と話が続くのかと思っていたら、「長靴を履いてきてしまったから、私、ちゃんとピアノのペダルが踏めるのかしら?」と、意外な話の展開になり驚きました。

最近、趣味のスポーツをしている最中に足を痛めてしまったそうで、救急車で病院に運ばれてしまうという出来事があり、ピアノのレッスンをお休みされていました。ピアノ教室も夏休みがあり、お休みが続いていましたので、「やっと今日はピアノのレッスンに行ける!と楽しみにしていたんです」ともお話をされました。「長靴ですと、確かに足が動かしにくいですが、このお天気ですと仕方がないですしね。無理なくペダルを使ってみてください」とお伝えしてレッスンをしました。

そして、レッスンが終わるところで、「前に、先生の演奏を録音させていただいたでしょ?あれを何回も聴いているんですけれど、どうも私の弾いている曲と同じように聴こえなくて、全然違う曲に聴こえるんです。こうやって、よ~く何回も聴いているんですけれど…」とお話をされました。「なるほど、同じ楽譜を見て同じピアノで弾いているので、同じ曲なんですがね」とニコっとしながらお返事をしますと、「そうですよね~」と笑っていました。

「まあ、いろいろと理由があるとは思いますが、例えばこの箇所を普通に弾きますと・・・・。(演奏後に)こうですよね。〇〇さんもそのように弾いていらっしゃいますが、それを、私が録音した時には、メロディーはこの箇所なので、そこを少し強く目立つように、(メロディーだけを弾いて)このように弾いていて、他の箇所は伴奏なので、(演奏しながら)このように少し弱く弾いていたんです。それを合体して弾くと…(演奏後に)こうなるわけです」と演奏を交えながら解説をしました。

生徒さんは食い入るように熱心に聴いていて、「あ~」とか「そうそう」とか、いろいろな反応をされていました。「楽譜には、この音はメロディーだからちょっと強めに弾くとか、これはそこまで重要な音ではないので、弱めにとか一切指示が書かれていないので、演奏する方がいろいろと見抜かないといけないんですよね。いろいろな音をよく整理して弾くと、演奏がすっきりとまとまりますし、またこのピアノという楽器は、一度にいろいろな強さで音が出せます。ピアノの誕生以前の楽器では、できなかったので画期的な楽器と言えるかもしれませんね」とも説明をしました。

生徒さんは、「なるほど~」と何回もうなずきながらおっしゃっていました。「なので、またご自宅などで録音を聴くときに、そのような個々の音の強さを変えながら弾いているという視点で聴いてみると、またちょっと聴こえ方が違ってくるかもしれませんね」とお話をしますと、「そうですね。早速自宅でまた聴いてみます」とおっしゃっていました。

ピアニストなどのプロの演奏は、すごいとか上手という事はどなたもお分かりになるのですが、では何がすごいのか、どのような工夫をしているのか、どの部分が自分の演奏と異なるのかというところは、わからないこともあります。レッスンで、具体的に演奏をしながら細かく説明をすることで、生徒さん方に理解していただけたり、納得していただけたり、ご自分の演奏にも取り入れてみようと思っていただけたり、また鑑賞するときの楽しみ方の広がりを感じていただけたら嬉しい限りですし、生徒さん方も、ピアノのレッスンに来てよかったと思って下さるのかなあとも思っています。

この生徒さんが、演奏や音楽の鑑賞の仕方が、どのように変化するのか楽しみです。

お子様の生徒さん方は、夏休みをそれぞれ楽しまれているようで、ちょっとうらやましいなあと思ってしまいます。使用している楽譜の最後の曲に取り掛かっている生徒さんは、「今日ね、ピアノが終わったら楽しみなことがあるの」と話していました。「え~、何、なに?」と聞きますと、「今日は、夜更かしして韓流ドラマを見るの!」とニコニコしながら話していて、夜更かしが楽しみというのも、かわいらしいなあと思って聞いていました。

また、別の生徒さんは、もうすぐ学校が始まるねと話しますと、「え~、やだ~。ずっと夏休みがいい」と、これもまたよくある小学生の感想で、こちらもまた気持ちがわかるなあと思いながら聞いていました。

既に、一足早く2学期が始まっている生徒さんは、「今日は始業式の日なのに、授業もあるし給食もあって疲れた」と既にお疲れモードだったり、その他にも、「夏休みは、いろいろな習い事の大会とか合宿とかがあって、すっごい忙しい」と話している生徒さんもいて、「学校が始まった方が、かえって楽かもしれないわね」と話しますと、「ああ、そうかもっ!」と妙に納得していて、むしろ私の方が驚くという事もありました。

大人の生徒さんの中には、1000人以上の収容客席を持つ大ホールで、スタインウェイとベーゼンドルファーのピアノの弾き比べができるという企画に参加された方がいます。難曲や大曲も「譜読みは難しいけれど、楽しいです」とおしゃり、弾きこなす生徒さんなのですが、発表会の参加をお勧めしますと、「小さい頃に発表会とかは出たので、もう人前で弾くのはいいです」と、ご丁寧な口調で毎回お断りされてしまうのです。レッスン室のピアノもグランドピアノとしては小さめですし、レッスン室も狭いですから音の響きもあまりない環境でしか弾いていないので、日頃からもったいないなあと思っていました。

偶然にも、先程の弾き比べの企画を知り、早速この生徒さんにお知らせしたところ、参加されることになりました。非公開のため、後日お話を聞きますと、「今弾いているラフマニノフは、スタインウェイで弾いた方がとても合うなあという感じで、ベートーヴェンの月光は、ベーゼンドルファーで弾いた方が落ち着いた感じが合っていて…、そうそう坂本龍一の曲は、スタインウェイの方がよかったです!」と、饒舌に話をされていました。

「同じ曲を、2台のピアノで弾き比べをして、こんなにもピアノによって違うんだと思って、とっても面白かったです!」と、相当楽しかった様子が伝わってきて、私もとても嬉しくなりました。「そうなんですよね。ご自分で、同じ曲を、一度に異なるメーカーのピアノで、今回のように楽器のサイズも近いもので弾き比べると、一番違いがわかるんですよね。以前にも、ピアノの弾き比べ体験はされていますが、今回は大ホールでの弾き比べですから、音もよく響きますし、なかなか贅沢な企画でよかったですね」とお返事をしました。

生徒さん方の充実ぶりを見ると、私も大いに刺激を受け、頑張ろうというエネルギーもいただいている気がします。今年も残り4カ月ですので、大いに張り切ってレッスンを進めていこうと思います。

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