(この記事は、2024年7月8日に配信しました第401号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、嫌われている大作曲家のお話です。

毎週土曜日に放送されている「題名のない音楽会」で、「嫌われている大作曲家を特集!」とありましたので見てみました。好きな作曲家ですと、モーツァルトやショパンなどと答える方が多そうですが、苦手な作曲家は、聞かれること自体ありませんし思い当たる作曲家もいないので、かえって興味をそそられました。

さて、誰の事かというと、ブルックナーでした。

ヨーゼフ・アントン・ブルックナーは、オーストリアの作曲家で、交響曲ばかりを作曲していましたから、ピアノを弾いている方には馴染みが少ないかもしれません。番組では、いきなり「苦手な作曲家ランキング」を紹介していましたが、音楽雑誌で大変有名な音楽の友社が2011年、2014年、2018年、2021年と4回の調査を行い、常にトップ2にブルックナーが入っていたのだそうです。

「常に上位にランクイン!」とのアナウンスも入り、いかにブルックナーが好まれていないのかを紹介していました。しかし、一方で、近年ブルックナーの曲は演奏会で取り上げられる事も急増しているそうで、実は今では大人気の作曲家でもあるようです。こうなりますと、人気なのか苦手なのか矛盾していて、ますます興味を持ってしまいました。

ブルックナーは、今年生誕200年を迎えた作曲家で、世界中でお祭りムードになっているようです。番組では、ブルックナーをこよなく愛する指揮者として、沼尻竜典さんがゲストとして参加されました。沼尻さん曰く、ブルックナーは、最近コンサートで演奏されることが多く、お客様もたくさん来てくださるようになり、ブルックナーの熱狂的なファンは「ブルヲタ」とも呼ばれているそうです。

この「ブルヲタ」の特徴として、男性ファンが多く、一人で鑑賞するそうです。コンサートでは、男性トイレに行列ができ、「ブルックナー行列」と呼ばれているのだそうです。司会者が、「本当ですか~?」と聞き、オーケストラのメンバーはクスクス笑っていましたが、沼尻さんは真面目な顔で話をしていて、本当なのか冗談なのか判断が難しいですね。

「なぜ、人気者なのに苦手な人が多いのか?」という質問に、沼尻さんは大きく3つの理由があると説明していました。

その1として、「メロディーが口ずさめない!」と話した瞬間に、会場もオーケストラのメンバーも噴き出して笑い声をあげていました。「例えば、ベートーヴェンの第9(交響曲第9番)だと、♯ファ~ソララソ♯ファミレ…と歌いながら今日のコンサートは良かったなあと思いながらお家に帰るわけですけれど、ブルックナーは、そういう感じではないんですよね。音楽を聴いていただいて、口ずさめるのかどうか、お客様に判断して頂いた方が良いかと…」と言って、ブルックナーの交響曲第5番の演奏が少し披露されました。

司会者が、「ほほほ…」と少し困ったようなリアクションをして、「確かに、これは口ずさめないです」と感想を話しますと、「これは、跳躍進行と言って、隣の音より離れた音に飛んで進行するので、人間の声ではコントロールできないところまで音が飛んでいて、音域が広いので、オーケストラだけにしかできない音域のサウンドが楽しめるという事なんですね」と解説をしていました。

その2として、「音楽が重い!」を挙げていました。オーケストラの編成も多く、たくさんの楽器によって音の厚み・音圧がでます。オーケストラの全楽器が同じメロディーを演奏して、重厚感を増す効果があり、ブルックナー・ユニゾンと呼ぶのだそうです。重くないとブルックナーじゃないとも言われているそうで、「アドレナリンが出るんです!」とも話されていました。

番組では、実際にオーケストラが少し演奏をしていましたが、沼尻さんが「かっこいいでしょ!」と話していて、「音圧が、ぐわ~っとくるわけですよ。その後に休みがあったでしょ。それを、ブルックナー休止って言うんです」と続けて話していました。全部の楽器が演奏を休止して、音量や音圧にメリハリを出して、余韻を味わうのだそうです。「だんだん、ブルックナーが好きになってきたでしょ?」と司会者に問いかけていました。他にも、トレモロという、全部の弦楽器が弓を短く反復する演奏で、重厚感を増す効果があるということも紹介をしていました。「みんなで、うわああ~っと、弓を素早く反復して動かして演奏していますけれど、疲れるんですか?」と司会者が演奏後の客員コンサートマスターに聞きますと、「いや~、もう痛いです。人生の中でも指折りの痛みだと思います」と大真面目に答えていました。「一番疲れた頃に、弦楽器のトレモロをやらなきゃならないんです」と沼尻さんも話していて、ブルックナーは演奏者にとって大変ハードな曲を書いているのだなあと思いました。

その3として、「曲が長すぎる!」を挙げていて、司会者も会場の聴衆も思わず声を上げて笑っていました。ブルックナーの交響曲は、1曲で約60分から80分くらいかかるそうで、あまりに長いため、後に削って改訂した曲もあるのだそうです。「なんで、ブルックナーの曲って、長いものばっかりなんでしょうね」と司会者が質問しますと、「曲を作っているうちに、長くなっちゃうんじゃないかと思うんですけれど、例えば、サグラダファミリアやケルン大聖堂なども何百年かけて作られたらしいですけれど、材料を積み上げていくうちに、どんどん長くなってしまったんじゃないかと。それから、緩徐楽章というゆっくりなテンポの楽章があって、これが長いんです。例えば1小節演奏するのに、5、6秒かかるわけですから、8小節演奏すると50秒とかかかるわけです」と沼尻さんが説明しますと、司会者が苦笑した後に、ハッとした顔をして「8小節で?? 50秒?? これは聴いてみたいですね」と話して演奏が始まりました。

「美しい曲じゃないですか。大型客船に乗って、す~っと航海しているようなそんなイメージもありましたけれど、眠くなりそうなテンポ感ですね」と司会者が感想を話しますと、「いつまでも釣り糸を垂らして、いつお魚が来るんだろうって思いながら、私は今、海と繋がっているんだと言う釣り人のような心境ですね」「悟りの境地みたいになってきましたね」と会話が続き、会場のお客さんからも笑いが起こっていました。

「ブルックナー自身は、苦手だと言われている事を聞いたら、どう思うのでしょうね」と司会者が聞きますと、「いや、なんとも思わないでしょうね」と沼尻さんが即答していて少し驚きました。司会者も、「本当ですか?」と不思議そうに聞きますと、「だって、別にお客さんのために曲を作っている訳ではないんです」「えっ?じゃあ誰のために…?」と司会者が聞きますと、即座に「神様。神様のために曲を書くわけですから、先程の跳躍進行は、教会の屋根が空に向かって真っすぐ伸びているでしょ。それと同じように、音楽も出来るだけ神様のところに近づきたいから、3オクターブも音が跳躍しちゃうわけです。また、ブルックナー自身はオルガニストでした。なのでオルガンの重厚な音がぶわ~んとなるんです」と沼尻さんが解説をしていました。

ブルックナーは、幼少時から教会のオルガンで、オルガニストだった父親から音楽の手ほどきを受け、その後オーストリアのリンツ大聖堂の専属オルガニストとして活動をしていました。そのため、ブルックナーが作る音楽も、オルガンの重厚な音をイメージしているのだそうです。

ブルックナーの作った曲が長いという理由も、人間の叡智を超えた神へ捧げる曲だからなのだそうです。また、ブルックナー休止も、音を切った時に、教会でオルガンを演奏すると残響が7~10秒ほどあるので、教会のオルガンの残響をイメージしているというお話もされていました。

実際にブルックナーの演奏をたくさんされている指揮者の解説を聞きますと、ブルックナーの音楽の神髄を解き明かしてくれたようで大変勉強になりました。「段々クセになる」「1度はまると抜けられない」と言われているブルックナーの音楽を、たっぷり時間をかけて聴いてみたいものです。

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(この記事は、2024年6月24日に配信しました第400号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、「家、ついて行ってイイですか?」というテレビ番組のお話です。

ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、番組のディレクターが街中で通りすがりの人に声を掛け、同意を得られた方の帰宅にご一緒して、自宅訪問をしながら、その方のいろいろなお話を聞くというバラエティー番組です。

先日は、都心から少し離れた駅前で、「今、お話を聞いてもいいですか?」と番組ディレクターが千鳥足ぎみの女性に声を掛けている所から番組のVTRがスタートしました。

「今、何をしているのですか?」と聞きますと、女性は「飲んだ後で帰るところで、結構な酔っ払いです。ハハハハッ」と、かなりのご機嫌な様子で答えていました。「帰りのタクシー代をお支払いする代わりに・・・」と番組ディレクターが同行取材の交渉をしようとすると、「でも、すぐそこ。ハハハッ」と、だいぶ楽しそうな笑い声と共に答えていました。結構簡単に、自宅についていく撮影の許可をされていて、少しびっくりしましたが、これも、もしかしたらお酒のせいなのかもしれませんね。

「大したものは、何もないですよ。本当に私一人なんで、今。最近一人暮らしに急になっちゃった。フフフ」と答えていて、ほろ酔いでなくても、なかなか面白いタイプの方なのかもと思いました。「お仕事は何をしているのか?」と聞かれた時に、「人前で披露したり、人に教えたり…」と答えていて、少し謎めています。途中でコンビニに寄り、お買い物をしていて、何を買ったのかと番組ディレクターが聞きますと、大好きなビールとスナック菓子だそうで、帰宅してからも、まだまだ宴会が続きそうです。

今のところに住むきっかけや、どのくらいの年月住んでいるのかという話をしながら、帰路を進みます。

ご自宅に着いて、オートロックの入り口で、バッグから鍵を出そうとしますが、なかなか見つからず。「えっ、ちょっと待って、ホントにちょっと待ってね」とゴソゴソ探すのですが、その後「鍵がありません。うふっ」と少し楽しそうに答え、仕事場にあるのかと聞きますと、「はい。残念ながら、そういう事になります。むしろ…ありがとうございます」と答えていて、VTRを見ていたスタジオの司会者が、「えっ? むしろ?(どういう事)」という驚きの声を漏らしていました。意味不明だなあと思っていましたが、「一緒に取りに帰ってくれるので、ありがたいです。やった~っ!」とガッツポーズまで飛び出し、「あっちに行きましょ~。フフフ」とかなりのご機嫌ぶりが伺えました。

スタジオの出演者も、「(酔っぱらっていて、ハイになっているというよりも)ナチュラルハイだよね」と感想を話していて、もともと陽気なタイプの女性なのかもしれません。

その後タクシーに乗って、職場に鍵を取りに向かうのですが、車内でもいろいろとインタビューが続きました。「その職場は、私が1年間の中で、ほぼそこにいると言っても過言ではない。そこに全部を注いでいる。そういった場所に戻っています」と話していて、どういう職業なのか興味がそそられますね。

職場のあるビルに到着し中に入りますが、「なんの会社?コンクリートうちっぱなしだし」と番組のゲストが不思議そうに話しているのも頷けるほど、なかなか想像がつきません。カーテンの奥に進みますと、急にかなり天井の高い部屋になっていて、なんとパイプオルガンが鎮座していました。でも、取材をしている番組ディレクターやVTRを見ている番組のゲストなどはよくわからなかったようで、「スタジオ?なにこれ?」と口々に話していました。パイプオルガンだと女性が話しますと、「教会にあるやつじゃん」と番組のゲストが話していて、番組ディレクターも少し驚いているような感じでした。家の鍵は無事にあったのですが、その後パイププオルガンの説明がありました。

「ね、これ凄いでしょ。正直言って、これはホントに小型なもので。本当に大きいものだと、大きなコンサートホールの正面にバ~ンとあるようなもので。これは、高さが2.5メートルくらいで、私の生きがいです」と話していました。番組ディレクターも、「これで、小型?」と驚いていましたが、他の楽器と比べてこれほどまでに高さのある楽器は他にはないので、驚くのも頷けます。ちなみに、ピアノは一番大きなサイズのフルコンサートピアノで、3メートルくらいの長さがありますが、水平方向に長い事や、基本的に鍵盤数は、どのサイズも同じ88鍵なので、鍵盤のある方向から見ますと、ピアノの中の弦を見ない限り楽器の長さがあまりピンとこないと思います。

番組では、このパイププオルガンを使って、女性が実際にバッハの有名なトッカータとフーガニ短調の演奏をしていました。先程までの千鳥足ぎみで、だいぶほろ酔い気分を通り越しているようなテンション高めだった様子から、一変して真剣なまなざしでオルガンを演奏していてとても驚きました。

「顔が今までと違う」「変わりましたね!」と、番組ゲストたちも次々にその変貌ぶりに驚いている様子でした。演奏が一段落すると、「おお~っ」「見直した!」と称賛するコメントまで飛び出し、この女性、実は凄い人だったのではと思わせるような感じでした。でも、やはり、まだお酒が抜けていないようで、「(今演奏した曲は)鼻から牛乳で有名な曲です。ハハハ」と楽しそうに話していました。番組ディレクターが改めて職業を聞きますと「私は、オルガニストです」と答えていて、番組ゲストたちも「へ~っ」と驚いていました。

「この場所は、何ですか?」という質問に、「オルガンスタジオで、変な儀式をしているわけではなくて、ここでちゃんとオルガン教室をしています。小学生から80歳の方もいらっしゃったり、物凄く幅広い年代の方がいらっしゃっています」と答えていました。「子供の頃、オルガンって学校にあった気がするんですけれど、それとパイプオルガンとは違うのですか?」という質問には、「発音の原理がちょっと違うんです。このパイプオルガンは、500本の小さいパイプとか大きなパイプがいっぱい入っていて、それも全部手作りです。鍵盤はプラスチックじゃなくて、木で出来ています」と答えていました。「日本製ですか?」と聞きますと、「ドイツです。全部の部品を分解した状態で日本に運んで、ドイツの職人の方が一から組み立てます」と説明をしていて、番組では分解した状態のパイプがずらっと並んでいる写真が映し出され、数の多さに番組ゲストが驚いていました。

「いくらぐらいするんですか?」という質問には、「ですよね~、それ、みんな気になるんですよね~。これを一からオーダーメイドで作ると、たぶん2千何百万円」と答えていて、その時のゲストの驚嘆の声が一番大きかったと思います。

「ピアノとは全然違っていて、パイプオルガンは完全に管楽器の部類に入るので、鍵盤を押して、それから風がパイプに送られて音が鳴るので、完全に笛だと思っていいと思います。教会の礼拝とか結婚式とかオルガンコンサート、演奏会とか・・サントリーホールで演奏したりしています」とお話もされていました。

「足も鍵盤の一つなんですよ」と話しながら、足鍵盤の演奏を始めますと、「これ、チョー難しいじゃん」「え~っ!」と番組のゲストたちが、驚きのコメントを次々とされていました。「足って、つま先と、かかとがあるじゃないですか。それぞれ別の鍵盤を、同時に押す事も出来るんです」と実際に演奏していて、初めて見るテクニックでしたので、私も食い入るように見てしまいました。

「こんなの、難しすぎて無理だよ~」「(足鍵盤を押すというより)足が踊っているじゃん」「両手と足と、全部違う動き!」「それも、ノールックだよ。何も見ていないんだよ」と、非常に率直な感想がたくさん上がっていて、最後には「かっこい~」というコメントまで登場していました。「足は足で独立して使っているので、私たちオルガニストは、手も使うし両足をこうやって使って演奏する生き物なんです」とも解説していました。

ちなみに、この女性は、幼稚園生の時に音楽好きのご両親が流すレコードの中にパイプオルガンの音源があって、雷じゃないけれどびりびりっと天から降ってくるようなスペシャルな音色だなっという事が印象的だったと話していました。

番組の冒頭部分では想像できなかった展開に、だいぶ驚きましたが、なかなか面白い番組に出会ったなあと思いました。

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(この記事は、2024年6月10日に配信しました第399号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、お子様のピアノ発表会のお話です。

毎年行われるお子様の発表会が、先日行われました。今回は、初めて参加される生徒さんが4人ほどいたので、新鮮な顔触れになりました。

年が明けてから、「今年の発表会で、どんな曲を弾きたいか、もちろん、コレ!という曲があったら曲のタイトルを教えてね」と生徒さん方に、少しずつお話をしていました。中高生くらいになりますと、「〇〇を弾きたい」「◎◎さんが弾いていた曲を弾きたい」などと具体的にお話が出てくるのですが、小学生くらいですと、なかなか難しいようです。それでも、今回は曲名を挙げてのご相談があり、積極的な曲選びの姿勢に嬉しくなりました。

この生徒さんは、発表会後にコンクールを受ける事になっていましたので、発表会の曲を優先的に練習しつつ、コンクール用の曲も少しずつ練習を進めることになりました。順調に練習が進み、発表会の曲が早めに仕上がりそうでしたので、短めの新しい曲を追加するのか、コンクール用の曲も発表会で追加で弾くか相談し、最終的にコンクールの曲を追加で弾く事にしました。3拍子の舞曲なのですが、リズムが微妙に変化していきますので、区別して弾いていく必要がありますし、頻繁に場面が変わりますので、それぞれの表情付けにも気を配らないといけない音楽になっています。

発表会本番では、軽快な舞踏のリズムに乗って弾く事ができていましたが、普段のレッスン室とは異なり、一番大きい型番のフルコンサート用ピアノということもあり、思ったよりも抑揚の幅が小さく、各場面の変化の弾き分けが伝わりにくかったと感じました。コンクールでも、当然ながら大きな会場で弾きますので、今回の発表会の経験を生かして、細かいところをより丁寧にもっと変化をつけて、聴いている審査員の先生方に伝わるように弾いていきたいものです。

この生徒さんのお姉さんも、今夏にコンクールに参加しますが、発表会では、将来的にコンクールで使いたいと思っている曲を弾きました。生徒さんにとっては、初めて弾く近現代の作品ですし、テクニックなど全般的に難易度が高く、普段はあまり譜読みに苦労していない様子でしたが、今回ばかりは、リズムが今一つはっきりとわからなかったり、和音の譜読みにも多少苦労していたようでした。

それでも、発表会まであと数週間というあたりから、メキメキと完成度が上がってきて、指示を出さなくても1週間でほとんど暗譜までしてきて、とても驚きました。発表会当日は、出番前に緊張はしていたものの、大きなミスもなくきれいに、また最後の場面ではしっかりと盛り上げて華やかに弾き終えました。これまで弾いたことのない時代の音楽でしたが、優美な音楽を美しく弾ける生徒さんには、思った通りにピッタリで、やっぱりよく似合うなあと思いました。生徒さんの持ち味をより引き出して、夏のコンクールの演奏でもアピールしていけるように、レッスンを進めていきたいと思います。

今回、初めて発表会に参加した6歳の生徒さんは、ヴァイオリンを習っているお姉さんの発表会をお客さんとして見たことはあるそうです。しかし、いよいよご自分が演奏者として参加することになります。普段のレッスンでも、アナウンスの後から、演奏が終わって舞台袖に戻ってくるまでの一連の流れを何回も練習したり、ピアノの蓋を全開にして、発表会と同じような状態にしたり、「発表会まで、レッスンはあと〇回だからね」と発表会が近づいている事をお話していましたが、度胸があるのか、あまりピンと来ていないのか、全くと言っていいほど緊張していない素振りを見せていました。

発表会当日、出番前に舞台袖に来た時にも普段と変わらない様子で、「この服、小学校の入学式で着たの。ネックレスはお友達からもらったんだ~」と話し始めました。いつも、自信に満ちているようなタイプではないと思っていたのですが、どうも私のこれまでの見立ては間違っていたのかもと思っていますと、「靴はね、さっき買ってきた!」と意表を突く話しに、思わず「えっ」と声が大きくなってしまいました。慌てて小声で、「そうなのね。とてもピカピカ光っていて素敵よ」とお返事をしました。もう少しで出番と言う時には、「せっかくピアノにも慣れてきたんだけど、ピアノ辞めちゃうんだよ
ね~。プールを習うことになったんだ」と爆弾発言まで飛び出しました。これまで、多くの発表会を経験してきましたが、本番直前にピアノを辞める発言をした生徒さんはいませんでしたので、心臓が止まるかと思う程ビックリ仰天しました。やっとの思いで、「そうなの…」とお返事をするのがせいぜいでした。

そして、生徒さんの番になりました。1曲目の暗譜が意外にも苦戦していて、似たようなフレーズが3連続で出てくるために、きちんと出来る時もあるのですが、時々混ざってしまって間違えてしまう事がありました。レッスンの時には、「1回目は、ソだよ」とお話をしたり、「1回目のフレーズの最後の音って、何だっけ?」と質問をして、なんとなく弾けるという事ではなく、明確に他と区別して確信を持って弾けるように練習をしました。本番で成功するのか、ドキドキしながら見守るというより、祈るような気持ちで舞台袖から見ていましたが、一番心配していたところは、とてもスムーズに弾けていてホッとしました。後半で少し間違えましたが、すぐに修正したので、ミスがあまり目立たずに弾く事ができていましたし、2曲目は大好きな曲なので、普段と同じように弾けていました。いろいろな意味で、ハラハラドキドキしましたが、終わってみれば初舞台が成功したので、拍手を送りたいと思いました。

もう一人の初参加の生徒さんは、お兄さんがピアノを習っていましたので、練習している姿を見ているからなのか、要領を掴むことが早く、あっという間に自分のものにできる生徒さんです。レッスンでは、少し間違えるだけで、笑いながら「あああ~」と言っては最初から弾き直していて、いつも楽しそうにピアノを弾いています。

発表会では、大好きな曲と、普段弾いている音域とは少し異なるところで弾く曲を組み合わせて弾く事にしました。曲の難易度としては、大好きな曲とあまり変わらないのですが、最初の手の準備がいつも微妙にずれるという問題がありました。両手ともずれることもあれば、片方の手は合っていたのに、もう片方がずれるという事も多々ありました。最初のポジションさえわかれば、すらすらと弾けてしまうので、いかに弾き始めのポジションを自力で正確に用意できるかが、演奏全体の大きなカギとなっていました。考えてみますと、ピアノという楽器は白い鍵盤と黒い鍵盤がずら~っと並んでいて、その88個の鍵盤の中から音を出さずに最初に弾く鍵盤を見つけ出さなければならないのですから、小さい生徒さんにとっては、なかなか大変な事なのかもしれません。

それでも、発表会ではたった1回しか弾くチャンスがないわけですから、完璧にできるように、最初のポジションの探し方を細かく順番を付けて楽譜に書き、レッスンで何回も一緒に練習をしました。送り迎えにいらしているお母様も、弾き始めの場所がよく間違える点を気にされていましたので、その旨をお知らせして、自宅でも確認をしていただくようにお話もしました。すると、1、2回のレッスンでやり方を掴んで、完璧にできるようになりましたし、生徒さん自身も「(最初のポジションの探し方は)大丈夫」とお話されていて、すっかり自分のものにしたようです。「ああ見えて、実は結構緊張するタイプなんです」と、以前生徒さんのお母様が心配そうにお話をされていましたが、本番では大好きな曲を抜群の安定感で弾きこなし、ネックになっていた2曲目の弾き始めのポジションも、流れるようなスムーズな動きで正確に準備ができて、大成功で終えることができました。きっと、ご自宅でもレッスン後の様に、「発表会、楽しかった~」とお話をされているのではと思います。

発表会の最後には講師演奏があり、もう一人の講師と連弾を行いました。クラシックの優雅な雰囲気の曲を弾く事が多いのですが、今回は、もう一人の講師のアイディアで、アニメの曲をジャズ風にアレンジした曲を演奏しました。楽譜には、「超絶技巧アレンジ」と書いてあり、最初に音源を聴いた時には、かっこいいと思いましたが、かなりテンポも速いですから、細かく指を動かすこともさることながら、最後のページは次々と変拍子になっていくので、タイミングを合わせることも大変そうです。文字通り超絶技巧と言う感じで、これはけっこう大変な曲を選んでしまったかもと、うっすらと後悔したほどです。

幸い、早めに楽譜が入手できましたし、2人で合わせる練習の日程も調整がしやすくて助かりました。とにかく正確なテンポで練習をして、お互いのタイミングがずれないようにメトロノームを使って、合わせの練習を重ねてきました。この方とは、以前から何回も連弾をしてきているので、ギクシャクせずなんとなくしっくりくるところは安心なのですが、やはり変拍子のところでは、合わせの練習を始めた時には、ずれることがあり何回も確認をしてきました。

連弾の場合、なんといってもタイミングをピッタリと合わせることが大事な要素です。タイミングがぴったり合うときれいで、音を出している時はテンポさえ気を付ければずれる事はないと思いますが、フレーズや場面の変わるところで少し間を取る場合、この「少し」が、それぞれ異なりますから、その感覚をバッチリ掴めるまで練習をすることになります。変拍子だと、メトロノームをかけて合わせるということもできないので、なおさら大変になるわけですが、練習を重ねていきますと、ぴったりと呼吸が合うようになりました。発表会本番では、ジャズ風のリズムに乗りすぎて、ややアップテンポになってしまいましたが、一応やれることは出来たかなあという出来栄えにはなりました。練習通りの演奏を本番で披露することの難しさを、改めて感じましたが、また次回に繋げていきたいと思います。

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